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新たなる道標

「これはこれは。美しい姉妹を前にしては、どんな賛辞も霞んでしまうな」

「いやだわ、叔父様ったら」

 ヘレナはわざとらしく頬を染め、くねくねと体を揺らす。馬鹿な男達は庇護欲をそそられ、優越感に浸る。

 そんな女の横に凛と立っている私は、さぞかし生意気に見えるのだろう。叔父はこちらをちらりと一瞥しただけで、またすぐにでれでれとヘレナに甘い言葉を紡いでいた。

 その後応接間にて、和気あいあいと談笑は続いた。私はこの叔父にいくらの興味も持てないので、適当な相槌を打ってやり過ごす。頃合いを見計らってその場から居なくなっても、気に留める人間は誰もいなかった。

「こんにちは。少しお話ししてもよろしいかしら?」

 今日一番の目当ては、ある男に接触すること。来客のおかげで屋根裏から出られたのだから、あの小太りには少しだけ感謝してやらないこともない。

「オフィーリア様、どうかなさいましたか」

「二人で話したいの。あちらの小庭へ行きましょう」

 長躯を折り曲げ恭しく挨拶をして見せるこの男は、以前町へ出かけた際に私についていた護衛だ。

 名をレオニルと言い、アッシュブロンドの長い前髪に隠れた深いグリーンアイは、神秘的だが思考が読みづらい。特段オーラもなく影の薄い男だが、先日の去り際に私の体調を気遣うような発言をしていた。

 あの時私は、なんでもかんでも敏感に拾うこの聴覚のせいで、町の喧騒に疲弊していた。もちろん一切態度に出していなかったのだが、レオニルだけはそれに気付いたのだ。

 加えてこの国では滅多にない色の瞳を持ち、たった一度だけ言葉の端に訛りのような言い回しが入っていた。

 屋根裏部屋でのんびりと情報収集に勤しんでいる際にもこの男を何度か見かけたが、この屋敷に出入りしている酒造業者とのやり取りの時だけ、その訛りが聞こえたのだ。

 

 屋敷から少し離れたこの小庭には、滅多に人は来ない。オフィーリアお気に入りの場所で、よくここで日向ぼっこをしながら読書に勤しんでいた。

 その時私は、彼女の膝に我が物顔で寝そべり惰眠を貪っていたわけだが、邪険に扱われたことは一度もない。それも当然、なんと言っても私はこの国で一番美しく優美なジンジャーキャットだったのだから。

「単刀直入に聞くわ。貴方は、ベッセル王国出身の方でしょう?それも、高貴な血筋の」

 以前オフィーリアが読んでいた文献に載っていたのを、ちらりと目にしたことがある。彼女の父ホーネットが読んでいた新聞を盗み見た時にも、その国の名が記されていた。好戦的で領土拡大の為に戦争を繰り返している、非常に物騒な国だと。

「隠し方が甘いのか、それとも暴かれた方が好都合だと思っているのか。どちらにせよ、貴方がデズモンド公爵家の護衛に甘んじているのは、なんらかの政治的理由があるのよね」

「……やはり貴女は、私の聞いていた情報とは正反対の方のようですね」

 レオニルの瞳には寸分の動揺も見られず、たかが小娘の好奇心からくる可愛らしい推理論など、痛くも痒くもないらしい。

 一陣の雄風が私達の間を抜け、金のツインテールをふわりふわりと巻き上げる。まるで猫の尾のように自由で掴みどころのない気まぐれな動きは、この私にぴったりだった。

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