駒を探しましょう
「さて。この辺りでしばらく待ちましょうか」
目当ての店へ到着するや否や、中には入らずその場で立ち止まる。簡素なドレスの裾をひらりと払い、軽くシルエットを整えた。
「は、はい?」
「退屈なら、街を散策してきても構わないわよ」
その言葉に、ユリは思いきり首を振った。それ以上追及することもなく、私はただ店の軒先で佇む。行動の意図が分からないといった風にちらちらと彼女から視線を注がれたけれど、説明する義務などない。
「あら?もしかして、オフィーリア・デズモンド様ではありませんか?」
すると、想像していたよりも早く、私を知る誰かが眼前に現れる。学園卒業後、より条件の良い令息を捕まえる為日夜パーティーに勤しむしか娯楽のない令嬢ならば、必ずここに立ち寄ると踏んでいた。
オフィーリアは王子の婚約者として、形式上学園には通ったらしい。あまり知恵をつけるなと採算脅され、一つ下のヘレナが入学してからは何かにつけて蔑まれ、結局終始俯きながら日陰の道を歩んだ。
学ぶことが好きなのに、それさえ満足にさせてもらえない。ほどほど馬鹿のふりをして、貴族男どもの機嫌を取るしかできないなんて、オフィーリアは臆病者が過ぎる。
賢い女を側に従えてこそ、男の度量の大きさを見せつけられるというのに。無駄に歳を重ねた爺など、さっさと隠居して狩りでも釣りでも興じていれば良い。
「人違いでは、ありませんよね……?」
ブリュネットの巻き毛を靡かせながら、見るからに高飛車な令嬢がこちらを見つめている。オフィーリアだと思い声を掛けたが、あまりにも雰囲気が違う為自信がなくなったのだろう。恐らくこの女も、ヘレナの取り巻きの一人に過ぎない。
私はドレスの裾をちょいと持ち上げ、まるで友人にするように友愛の笑顔をしてみせた。
「ええ、人違いではありません。私はデズモンド侯爵家息女、オフィーリアですわ。貴女は確か、妹のヘレナの……?」
「は、はい。ヘレナさんとは、日頃より懇意にさせていただいております」
勘が当たったと内心ほくそ笑みながら、非日常の楽しい何かでも見つけたかのようにぱあっと表情を輝かせてみせた。
「お声を掛けてくださってありがとうございます。あの子のご友人とこうしてお話が出来るなんて、とっても嬉しいわ!」
「は、はぁ……」
明らかに戸惑った様子で、心情を隠しきれていない。中途半端な悪役の取り巻きほど哀れなものはないと、目の前の令嬢に同情してしまう。




