幸運のジンジャーキャット
口論の間も優雅に食事を続け、私の皿だけが綺麗に空になっている。こびりついたソースを舐めとりたい衝動を抑え、給仕係にちららりと目配せをした。彼は慌てて、私の椅子を後ろへ引く。
「ああ、美味しかった。こうして皆で食卓を囲むのは久々ですが、一人寂しく食べるよりずっと有意義な時間を過ごせました」
私以外、ほとんど料理に手をつけていない。ヘレナのしかめ面は実に愉快だが、オフィーリアの幸せの為にはこの程度ではちっとも足りない。
「オフィーリア。一体何を企んでいるんだ」
地を這うような低い声も、なんの脅しにもならない。稀代の悪女と呼ばれた私をあまり舐めないでと嗜めたいところだが、オフィーリアではその衝動は抑えなければならない。愛を、優しさを、慈愛を、両手いっぱいに抱えて。彼女に似合った幸せな道を歩むのだ。
「私、夢を見たのです」
ツインテールの髪をひらりと揺らし、まるでダンスでも披露しているかのように軽やかな歩調で扉へと向かう。
「そこで啓示を授かりました。美しいジンジャーキャットが、私に幸せを運んでくれると」
「そんなくだらない話を聞いているのでは」
「くだらないなんて酷いわ。本当の話ですのに」
まごうことなき真実であるのに、娘を信用しないなんて酷い父親。幸せの啓示を馬鹿にする者は、後にそれを欲しても決して手には入らない。
「ですからその幸せをきちんと受け取れるよう、俯くことは止めましたの」
「猫ですって?そんなただの夢で、お姉様なんかが本当に幸せなれると思っているの?」
下品な音を立てて立ち上がり、肩をいからせながらこちらを睨めつけている。彼女はおそらく、私の大切な人がヴィンセントだと思い込んでいるのだ。
「ふふっ。ヘレナのその姿、なんだか猫みたいね」
口元に手を当て優雅に微笑むと、不協和音を背に颯爽と食堂から立ち去ったのだった。
♢♢♢
この私オフィーリアには専属の侍女さえいないにも関わらず、ヘレナには三人も付けられている。その内の一人はストレス解消の為の玩具として、大した理由もなく怒鳴りつけ虐げていた。そしてそれを、オフィーリアが陰で慰めていたのだ。名前はユリ、確かうだつの上がらない男爵家の娘。
今日も理不尽に責め立てられていたのを、私が話を付けて連れ出した。