婚約者はこの私
「私はあんなに素晴らしい方の婚約者なのだから、もっと堂々としないとね。貴女を見習って、積極的に愛情表現をしていくわ」
「ふ、ふざけないで!私の気持ちを知っていてよくもそんなこと……っ!」
「分かっているわ。不甲斐ない姉の代わりを務めてくれていたのよね?」
そう、お前はあくまで代わり。いや、あの男にとってはただの駒としての価値しかなく、それを愛情と勘違いしている哀れな女。毎日厚化粧で肌を荒らすくらいなら、芸事のひとつでも身に付ければいいものを。
「いい加減にしてちょうだい!調子に乗って妹を辱めて、何が楽しいの⁉︎いきなり家族の時間に割り込んできて、気分が悪いわ‼︎」
大きな音を立て、サラがフォークを叩きつける。実子であるオフィーリアに、大した理由もなく愛情を注がない最低の母親。最も、甘やかされて育った生粋の貴族は、子供を産んだからといってその本質が変わるわけではない。もしもアレクサンドラであった私が子を授かったとしたら、サラと大差ない親だっただろう。
オフィーリアに出会うまで、愛など食器と同じだと思っていた。私を飾り立てる付属品、欲望を満たす為の方便、気に入らなくなれば容赦なく叩き割る、決して食べられはしない脇役。
今の私は、頭のてっぺんから体の中心にまっすぐ突き刺さっている。オフィーリアから与えられた、温かな愛。それは綺麗な飾りではなく、泥に塗れた歪な形。彼女は私を愛でることで、己の寂しさを埋めようとした。
それは、死ぬ間際唾を吐かれ嘲笑されたアレクサンドラの心に奇しくもぴたりと嵌り、互いを満たした。
――つまり私達は、相思相愛だったというわけだ。
「お母様がヘレナを愛するように、私にも心底愛する相手がいます。その方と一緒に幸せになると決めた以上、余計な争いごとには巻き込まれたくないのです」
「な、なんですって……?」
「私は元より、誰のことも恨んでおりません。お母様譲りの容姿にも感謝していますし、今後はより一層磨きをかけていきたいのです。宝の持ち腐れでは、お母様にも失礼ですものね」
父似のヘレナには、決して言えない台詞。オフィーリアの美しさを内面から盛り立て、二度と冴えないなどとは言わせない。
金の髪はアレクサンドラとお揃いだし、澄んだヘーゼルの瞳は光の加減で黄金色に輝く。やはり私達は運命で結ばれているのだと、思わず口角が緩んだ。