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本来の優劣

「そういえば、お父様。私本日、街へ出掛けようかと思っております」

 ナプキンで口元を拭いながら、穏やかな口調でそう切り出す。人知れずぺろりと唇を舐め、久しぶりに感じる人間としての食事の余韻を楽しむ。

「侍女を数人同行させていただきますわね」

「お前が何の用で街へ行くんだ」

「もちろん、ヴィンセント様への贈り物を買いに」

 私の言葉を聞いたヘレナが、微かに息を呑むのが聞こえる。小さな呼吸音ひとつ、指の微かな動き、目に見えない感情の機微に至るまで、相手のすべてが手に取るように分かる。

 前世猫だった頃の名残か、神の気まぐれな施しか。どちらにせよ、これは大きな利点となり得る能力だ。気を抜けば握り締めた拳で毛繕いなどしてしまいそうになることは、弊害とも言えるが。

「……お姉様なんかに貰っても、ヴィンセント様は喜んだりしないわ」

「あら。ヘレナはあの方をよくご存知なのね」

「お姉様が冷たいから、いつも私が慰めて差し上げているの」

 先ほどまで不機嫌だった表情が、勝ち誇ったようににやりと歪む。オフィーリアとは少し違う薄茶の瞳がきらりと光っても、まったく脅威には感じない。

「ありがとう、ヘレナ。けれどもう大丈夫よ。これからは安心して、自分の婚約者を探してちょうだい」

「……は?何を言っているの?」

 彼女にはこれまで、数え切れないほどの婚約者候補がいたらしい。多欲で我儘なヘレナは姉の婚約者が欲しくてたまらず、自身の掌に握られているものだけでは満足出来ないようだった。

 オフィーリアは控えめで内向的だが、外見内面共にヘレナより劣っている部分など何ひとつない。わざとそう見せていただけで、逆にいえばその優しすぎる性格が唯一の欠点とも言える。

 私にとっては、最大にして最高の美点であり、復讐という衝動に手を染めない理由でもある。オフィーリアの姿で、他者を陥れることなく幸せを掴む。あくまで脇役達には、()()()転がり落ちてもらうのだ。

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