当主の見栄
「オフィーリア、嫌味な態度はお止めなさい。ヘレナは貴女の妹なのよ」
「ええ、分かっていますわお母様。ですから私は、きちんと謝罪いたしました。叩かせてしまった私が、悪かったと」
「分かればいいわ、今後は気を付けて」
サラはふんと鼻を鳴らしながら、呆れたような瞳で私を見つめる。朝から随分と厚化粧で、ご苦労様だと内心嘲笑した。
「ヘレナとの仲を改善する為にも、これから私は積極的に関わろうと思います。ですからもちろん、朝食もこちらで摂らせていただこうかと」
ツインテールの髪をふわりと揺らし、空いていた椅子に腰掛ける。それは私の為の空席ではなく、ただの数合わせ。当然、目の前に食事は用意されていなかった。
「私の分も運んでくれるかしら」
「で、ですが……」
「あら。私は家族と仲を深めたいと思っているけれど、使用人から舐めた態度を取られるべき立場ではないわ。それはデズモンドの家格を落としかねない、恥ずべき行為ですもの」
穏やかな表情を崩さず、ぴしゃりと言い放つ。これまでのオフィーリアは、使用人にさえ気を遣っていた。その気持ちを重んじ、間違った態度は通じないということを親切に教えてやろうというのだ。
「ですわよね?お父様。由緒ある侯爵家である我が家の息女が、使用人に軽んじられるなど言語道断。それともまさか、お父様は彼女らの肩を持つと?」
父であるホーネットに同意を求めると、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見つめている。この家で誰よりも貴族至上主義を掲げるこの男は、どのような状況下においても使用人を庇うことはしない。
黙認と許諾は似て非なるものであり、私の意見を真っ向から捻じ伏せる真似は出来ないと踏んだ。
「……今すぐここに、オフィーリアの食事を運べ」
「だ、旦那様」
「まさか使用人の分際でこの私に意見する気ではなかろうな?」
「め、滅相もございません!ただちにお支度を」
ホーネットの鶴の一声により、無事私の朝食が用意された。結局当主の意向には誰も逆らえず、酷い沈黙の中銀食器のぶつかる音だけが食堂に響く。