美しく妖しい金色の瞳
「お姉様、そんな瞳の色だった……?」
「あら。どんな色なの?」
「なんだか、金色に光って……」
それはアレクサンドラだった頃の名残か、それとも光の加減でヘレナからそう見えただけなのか。どちらにせよオフィーリアの瞳は、濁りのないヘーゼルだ。
「なあに?怯えたような顔をして、可愛らしい子ね」
「べ、別に怯えていないわ!誰があんたなんかに!」
「だけど私って、いつも貴女に嫌がらせをしているのでしょう?そんな相手を前にしたら、怖がってしまうのは普通だわ」
優雅な所作で彼女に手を伸ばし、ゆったりと手元に触れる。元々線の細く華奢なオフィーリアの手首は、対照的なドレスの色も相俟って私を幾分儚げに見せてくれた。
「恐怖心は生命力の源なのだから、恥ずかしく思うことはないのよ。ヘレナ」
「この……っ!」
怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めながら、勢いよく手を上に上げる。そのまま勢いに任せ、オフィーリアの頬を思いきり打った。
被害を最小限に止める為、打たれる瞬間に合わせて床に倒れ込む。女性同士のいざこざなど、アレクサンドラだった頃に嫌というほど経験してきた。
どういう見せ方が一番被害者らしいか、私は熟知しているのだ。
「ごめんなさい、ヘレナ。貴女を傷付けるつもりはなかったの。可愛い妹に手を上げさせるなんて、私は駄目な姉だわ」
重心は斜め、わざと髪が顔にかかるよう首を傾げ、口の端から血が滲むよう舌で押し出した。口内は切れやすいが、その分すぐに治る。
「ち、違うわ!私は悪くない!大体、お姉様が食堂に来るのが悪いのよ!いつもと違う行動をして、私を困惑させないで!」
ヘレナは金切り声を上げながら私を罵倒すると、母であるサラの元へ駆け寄る。所詮この家では、ヘレナだけが優先される。両親はオフィーリアに目をかけないし、使用人からも見下されていた。けれどそれは、なんの動機もないただの八つ当たり。
彼女が愚かで優しかったから成り立った関係性であり、蓋を開けてみればヘレナに大した価値などない。
今後はこの私が、オフィーリア・デズモンドの正しい真価を教えてあげようと思う。もちろん、彼女が嫌がらない方法で。