二度目の転生
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「猫の次はこうくるのね。ある意味地獄よりも厄介だわ」
姿見の前に立ち、ぺたぺたと自身の頬に触れる。二度死ぬだけでは許さないと神に言われているようで、思わず溜息を漏らした。
猫ちゃんだった私は、現在オフィーリアとして確かに存在している。
彼女が命を落としたのは、確か十八の時。鏡に映る姿はあの頃より少し幼く、丁度私を拾った数年前のように見えた。
――抱きしめてもいい?月のような瞳をした、綺麗な猫さん。
この体はオフィーリアであって、中身は別物。もう二度とあの優しい胸に抱かれることはないのだと思うと、今すぐにどこかの湖にでも身を投げてしまいたくなった。
「もちろん、そんな馬鹿な真似はしないわ。私はアレクサンドラで、元猫で、今は侯爵令嬢オフィーリア・デズモンドなのだから」
血色の悪い頬、艶のない長い金髪、光の宿らないヘーゼルの瞳。私と暮らしている頃よりずっと酷い有様で、彼女にとって猫ちゃんがどれほど心の支えになっていたのか、よく理解出来る。
オフィーリアは私を愛することで生の喜びを知り、ヴィンセントの身勝手な愛で殺された。直接手を下したヘレナはオフィーリアを憎悪の対象として見ていたけれど、私から言わせてみれば憎しみも立派な愛だ。
自分にとって無価値な人間は、視界の端にさえ映ることはないのだから。
「安心して、オフィーリア。今度は私の愛で、貴女を幸せにしてみせるから」
アレクサンドラとしての私は、そんなものなどくだらないと踏みつけにしていた。オフィーリアに与えられた無償の愛は、確実に私の心に変革を与えたのだ。
「ええ、そうよね。復讐なんて、きっと貴女は望まない」
姿見に指を這わせると、ひやりと冷たく少しの温もりも感じられない。そっと瞳を閉じ、そこに向かって口付けを落とす。
「愛しているわ、オフィーリア」
今から始まる人生は、二人と一匹の物語。今度こそ天国で友人になれると、いつかの未来を想像しながら私は静かに一筋の涙を流したのだった。