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真剣勝負その②、清算

前話、終わるところが微妙だったので1シーンだけ追記、およびルビの振り直しをしています。

読みづらくてもうしわけありませんでした。

 山里千智


「ありえませんわありえませんわ! この私が無名校相手に負けるだなんて!」

 ほぼ全員が集合した準備室にけたたましい声が響いた。やかましい。

 まるで自分を中心に世界が回っていて、全てが思うままにならないと気が済まない。つむじから毛先まで金色で、1人だけ豪華絢爛(ごうかけんらん)に改造した制服。見た目とも一致している。

「誰ですの! 生意気にも私の上に嫌がりますこの一ノ瀬とかいう人間は!」

 こいつと同じ学校の人。だれか黙らせてほしい。

「ミカさんならお手洗いに行きましたけど」

 その後もずっとわめくので仕方なく席を立った。

「そう。それならすみませんが一ノ瀬という人間をここに連れてきてくださる? ぜひ一度直接対戦したいのですが」

「直接?」

 ということは、同卓していないらしい。

「あなたの番号を教えてもらってもいいですか?」

「もちろん1番ですけど」

 ホワイトボードに貼りだされた順位表を見る。

 この人の1番は6位で、名前は上神(かみがみ)ほのか。その上の5位5番は確かにミカさん。

「私より上……」

「そうなんです。1位は無理だとしても、せめて2位は! と思っておりましたのに……実際はトップ4にも入れず、素人よりも下だなんて」

 改めて順位表の上位に目を向ける。1位は五月女勝人―八峰商業。2,3,4位にも同じく八峰商業の選手が並んでいる、だけでなく、上位のほぼ全てを八峰が独占。それ以下には塔城と放徳がすし詰めになっていた。

「全国2位は伊達ではありませんね」

「でもこんなに固まるなんて不自然です。麻雀は運と実力とが合致しないと良い結果は生まれないはず。どうして八峰ばかり」

「むしろ自然ではなくて? 欲を言えば私が全体の2位にいたかったところですが、そこは実力不足としても、名前も知らない学校の名前も知らない輩に抜かれるだなんて!」

 そのお嬢様は行き場のいない怒りをガンガンと床にぶつけている。

 言い訳ではないが、今日は運が欠けていたのだと思う。

 放銃は2度しかしなかったし、どちらも満貫未満。寸前、あと一歩の差で先にアガられてしまい、勝ち切ることが出来なかった。

 今日の反省はスピードだ。大会本戦ではのんびりとリーチさせてはくれないということ。この収穫をもとに明日から練習をすればいい。

「その顔、まるで分かっていないって顔ね」

 フン、と鼻を鳴らした彼女の顔は知ってるから、という自信に満ち満ちている。

「では教えてあげましょう。実力とは時に運さえ淘汰する。ということです。山里千智さん」

「……どうして名前を」

「有名人ですもの。言いたくはありませんが、期待外れでしたけど」

 それだけ言い残し、

「皆様!」

 と声を発して塔城の生徒を立たせる。

「では、ごきげんよう」

 とぞろぞろと連れて去っていってしまった。一ノ瀬と会いたいとは何だったのか。

「ただいま~。どったのチサ、なんかトラブル?」

 ちょうど入れ違いに、ミカさんが半分寝ているやすよちゃんを連れて帰ってきた。

「今出ていった人、上神さんがチサさんを探しているみたいで、声をかけたら一方的にアドバイスをもらいまして」

「へえ~。あの人が。あだ名はガミガミレディなんてどう?」

「やめたほうがいいと思う」

「だね。いつでも出られるように準備だけしておこうか」

「そうですね。帰る支度をして、牌符ももらっておきましょうか」

 係の人から目ぼしい人の牌符をもらい、やすよちゃんをなんとか揺すり起こして帰る準備を

 始めた。ほどなくして先生が来て、帰りももちろん、八峰の送迎バスが駅まで送ってくれた。


「疲れた……」

 初めての場所で、初対面の人と卓を囲む。これがどれだけ疲れるのか、ネット麻雀ばかりでは知ることができなかった。

 そういえば課題を見つけたんだった。今の私に優先すべきなのは打点よりもスピード力。

「なによ……これ……」

 ネット麻雀よりもいい教材が手元にある。そう思ってカバンから配牌を、タンスから麻雀牌を引っ張り出して手動で再現してみて、不自然さに気付く。

 他人のアタリ牌を完全に止めているだけならまだ納得できる。けれど、1つだけ拭えない違和感が残る。

「こんなの、ルール違反じゃない!!」

 私の牌符以外、ツモではない別の方法で手牌を入れ替えている。その瞬間がキッチリと記録されていた。

 『実力は時に運さえ淘汰する』

 ふとあの言葉を思い出す。

 悔しさと、やるせなさと無気力感が心を覆っていく。

 私が真面目に麻雀している間に、あいつらは私を小馬鹿にして、イカサマをやりたい放題だったなんて!

「こんなのが実力だなんて……私は絶対に認めないっ!!」



 有原小太郎


 その日の快晴は特別に眩しくて、いつもより早く起きた。

 目玉焼きにジャムトースト、インスタントコーヒー。簡素なメニューだが久々の朝食だからか、やけに美味しく感じた。

 食器を片付けて歯を磨き、髪とネクタイを整える。

「忘れ物はなし、と」

 授業で使う色々が入ったカバンを持ち、いつもより早めにアパートを出た。

 日生さんの言った変なこととはどんなことか。週1のペースで遠征する過密スケジュールのことか、地獄の鬼特訓のことか、それとも教師の仕事のことか。そればっかりを考えて日曜日は終わった。

 週初めの月曜が楽しみに感じるのは、他にも要因がある。

 先日の練習試合で一ノ瀬さんが全国2位を相手に善戦したからだ。間違いなくリーグ戦のローテーションは彼女を中心に据えるだろう。

 軽やかな足取りで学校へと向かう途中、なんとなく旧校舎へ向かってみると。

 ――平らな更地になっていた。


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