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山里千智、その①

山里千智ちゃんの、ちょっとした個人話になります

 僕が麻雀にハマったのは、受験の影が段々と忍び寄り始めた高校2年生のことだ。

 最初は複雑で難解に思えたルールも、慣れたらなんてことはなく、むしろ簡単。理解できた瞬間は何千というパズルを完成したときのような爽快感。接戦を勝ち残った時は何万ピース。

 高校生大会のニュースを目にした瞬間、僕はそれを大人びた趣味にとどめておくことはできず、友人たちと担任の先生に頼み込んで顧問をお願いし、部活動にした。

 ほぼ無知だった自分達は、先生の猛特訓を受けた。そりゃあもう鬼のように。指はタコで固まり四角くなるし手首は返せなくなるし、勉強する時間を麻雀に使え、分からない選択肢問題は飛ばせとも言われた。もし正解してしまったら、運を使うことになるから。

 そのおかげで麻雀を始めてからたったの半年で県予選の決勝戦まで駒をすすめることができた。

 結局、清一で悩んで他家に悟られてしまい、アガれず2着で敗退したんだけど。

 その半年でもっと麻雀が好きになった。そして何より、全力を尽くしてくれた先生の姿、姿勢に憧れた。

 だから僕は今、母校で国語と麻雀を教えている。

 あの人は人生の目標だ。


「私の目標は負けなしで全国制覇することです」

 日付が変わり、4月11日水曜日。

 朝一番にやることは昨日のうちに終わらせていたので、職員室では部室の鍵がないことを確認して旧校舎へ。

 1人で清一色麻雀をしていた山里さんの向かいに座るなり、彼女はそう言い放った。

「全国制覇……それはまた大きな目標だね」

「成し遂げた時、もっとも大きな意味を持つと思ったので、この学校を選んだんです。初出場で県大会決勝戦進出の快挙はご存知ですか?」

「うん、まぁね」

 当事者ですもの。

「その頃は今よりも生徒が多くて色んな部活があったと聞きます。でも今はその真逆。私は麻雀でこの学校を盛り上げようと思っているんです」

「大会で結果を残し、知名度を上げるってこと?」

「はい」

 知名度が上がれば県外からの入学生が増えて、偏差値もちょっとずつ上がる。生徒が増えれば学校が儲かる。そうなれば接待もしなくてよくなる……?

「でも学校のことより、私は負けたくないんです。勝って勝って勝ち続けて昔のように戻したいんです」

「いい目標だね。君井さんも賛成くれると思うよ」

 学生というものはやっぱり対外試合がしなくなるものなのか。

「そう言えば君井さんは?」

「やすよちゃんは昔から朝に弱いんです。明日からは連れてくるようにしますね」

「出来ればお願いするよ」

 大会に向けて朝練もしたいことだし。

「そこで一つだけ相談をいいですか?」

「僕に出来る事ならなんでも手伝うよ」

 できるだけ頼りがいがありそうに、余裕をもって応えてみる。

「出来ればもう一人部員が欲しいんです。昔は先方から大将までの五人で半荘5回、持ち点10万点で競っていましたが、今期からはリーグ戦です」

「同じ人物の連続登板は認められていないんだったね」

 学習指導要領が年々変わっていくように、競技のルールもちょっとずつ変わっていく。

 運も実力のうちとは言うが、麻雀では運の方が割合は大きい。だからといって実力の方も疎かにしてはいけない。

 そのランダム性だけで努力が無駄にならないためのリーグ制。とはいえ、実力の秀でた生徒だけが打っていては部活としてどうなのか、という話になり、1度登板したあと再度試合に出るためにはチームが2試合跨いでから、という規則が加わった。

 つまり、大会に参加するためには最低3人が必要。

「大会はすぐ始まります。正直やすよちゃんは力不足。今は本人がいないので言いますが、3回に1回彼女が打っていたら県大会さえ勝ち抜けません」

 負けても終わりではないということは、負けても終わらないということ。負けが重なれば、強豪校とは差がついていく。最終戦を迎えるより早く消化試合になってしまうことも考えられなくない。

「なるほど、一理あるね。わかった、探してみるよ」

「お願いします」

「じゃあ僕からも質問を。――山里さんが麻雀をする理由を教えてくれないかな」

「え?」

 ハッとしたような顔。目を逸らされた。

「……聞いちゃマズいことだったかな」

「いえ、ダメというワケではないんですが、どうしてその質問を?」

 不安、戸惑い、焦り。分かりやすく思考が乱れている。

「山里さんは麻雀で学校の知名度をあげたいっていうのは分かった。でも、知名度をあげたい理由はなんだろう。言ってはなんだけど、そんなことをしてメリットはないし、強い学校はいくらでもあると思うんだ。強豪に行くでもなく、久比浜を選んだ事に理由はあるのかな?」

 君井さんがいたから、なんて理由ではないはずだ。高校受験とは人生における最初の分岐点。

そんな大事なポイントを友達1人の有無で決めることはしないはずだ。

「この学校が一番近かったからです。お父さんは小さい頃からいなくて、母は休職中なのであんまり学費と通学費用がかからないとこを探していたので」 

「そっか、ごめんねこんな事訊いちゃって」

「構いませんよ」

 学費に惹かれて……か。確かにここなら学費は大幅に抑えられる。昔からの校風が1人の学生を救ったのは確かだった。

 なんにしてもまだ会って2日。踏み込み過ぎるのはよくないな。

 一息。安堵すると、ゴーン……ゴーン……と本校舎の鐘の音。もうすぐ始業の時間だ。

「鍵は僕が返すから行っておいで。最初の授業で遅刻は印象が悪いからさ」

「いいんですか? では失礼します」

 鍵を受け取って、カチャリ。山里さんは革靴を子気味よく鳴らして走って行った。


 学生のころ、僕も麻雀部を作ろうとしましたが、結局、”競技麻雀部”を作ることはできませんでした。

 なんでも、もう新しい部活は作らない。という生徒会が決めた前年の決まり事があるから。というのです。

 口を開けば「麻雀部が作りたい」だった僕たちは、担任の先生に迎えられて別の文化部へ匿ってもらうもとになりました。

 その部活の部長、じつは生徒会長と仲が良く。たまに麻雀をしり遊びに来られるほど。話を聞いてみると、もうそんな決まり事はないよ。と教えてくれました。


 結局、大人の都合かよ。って話です。


麻雀ってたのしいよね!!

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