2話
おそらくアレンはもう寝た頃だろう。
机の上に簡単な説明をした手紙を置いて、窓を開けた。
「そうね、シリウス王国に行きましょう。あそこなら誰も私の事を知らないはず。」
シリウス王国については、お母様から聞いた情報と屋敷から抜け出して街に遊びに行った時の情報しか知らないが、きっと大丈夫だろう。
唯一、心配事があるとすればお母様の実家の存在だ。まあ、中心部に家はあるとお母様から聞いたから港街に行くことにしよう。
「アレンたちには申し訳ないと思うのだけど。」
後ろにある大型の人形を動かした。
前の方にはチャックがあり、そこには荷物を入れてある。
荷物が重ければ重いほど、魔力の消費が大きくなるが途中で少し休めば大丈夫だろう。
「これから私の新しい生活が始まるわ。」
これからの生活に不安は感じるが、それ以上にドキドキしている。
「きっと、諦めかけてた夢が叶う・・・」
小さな夢、それは自分でお店を持つこと。
それは幼い頃、お母様から聞いたお母様の実家のお話。
「ソフィア、私のお爺様はお婆様と一緒にお店を立ち上げたのよ。当時は貧富の差が激しくて、貧しい人は汚いからという理由で働けなく、そのせいで中々物を買うことができなかった。」
お母様は懐かしそうに私に話しかけていた。
「お爺様とお婆様は、自分のお店を作って働けなかった人々を少しずつ雇っていったの。体をきれいにして、制服も着させて。そうして行くうちに、どんどん人が助けを求めにやってきたの。」
私はその話を目を輝かせて聞いていた。
「最初の頃に雇った人たちは、お店で学んだ事と人脈、そして貯金していたお給料を使ってお店を出したそうよ。」
お母様は一息つきながら、また話し続けた。
「お店を出した人は、お爺様とお婆様にしてもらったことと同じように、働く事ができなかった人達を雇って、また雇った人たちはその店で店員として働く人もいれば、自立してお店を出す人もいた。」
お母様は私に向かって微笑んだ。
「そしてお爺様とお婆様は、商業ギルドを作った。商業ギルドができたことで貧富の差が徐々になくなったのよ。」
私はますます目を輝かせた。
「すごい。」
お母様は、「お爺様とお婆様はとても誇りなのよ」と微笑みながら話を終わらせた。
きっと家はアレンが継ぐことになる。
私は、街に遊びに連れて行ってもらった時に、おもちゃ等を買ってもらって笑っている子供たちの事を思い出した。
私も誰かを笑顔にさせたい。
と、当時はそう思っていた。
そう、第2王子の婚約者に選ばれるまでは・・・
でも、今は婚約を解消したのだから、諦めかけていた夢を叶えたい。
「行きましょう。」
私は人形に抱かれ、振り返ることもなく家を去った。
真上には、月が浮かんでいた。
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