~~~暗闇の二人~~~
薄暗くジメジメした部屋の中で粗末なテーブルに両肘を付いた少年と中年の男が向かい合って座っていた。
「黄色ですね」
中年の言葉にテーブルのろうそくの炎が揺らめく。
少年は黄色に染まった魔法具を見つめたまま歯を食いしばっていた。
この魔法具は遠方と連絡をとる為のものだ。
とは言っても連絡は一方通行であり、さらに送信側の魔法具を操作すると受信側の魔法具が青黄赤の三色に変わり三日程度でまた元の色に戻るだけの機能しか無い。
だが海の向こうの阿己羅国から、ここブレスターン王国まで届くのだから優秀な魔法具ではある。
中年の男がため息をついて口を開く。
「まあ問題なしの青ではありませんが、助けての赤じゃ無くて中間の黄色です。最初の頃は多少の問題が起こるものです。そう心配することもないでしょう」
少年の眉がピクリと動いた。
「あの我慢強い姉様が黄色だぞ。くそっ」
少年はそう言って顔を伏せた。
実際中年の男にもそんなことはわかっていたが、現状我々に助けられる力は無い。
少しでも気持ちが楽になれば良いと思って大丈夫だと発言したが、頭の良いこの主は色々考えてしまうのだろう。
今回の婚姻は両国の友好の象徴としてのものである。
さらに航海技術に劣る阿己羅国は海を越える力が今は無い。
常識的に考えればこの状態で我が国から嫁いだ王女の命が脅かされることはないだろう。
主である少年もソレはわかっているはずだ。
「どうされるのですか?」
少年がうつむいていた顔を上げる。
「どうもしない。予定通りこのまま国内の協力者を増やす。それだけだ」
先ほどまでと違い、少年の瞳には確かな意思が宿っていた。
中年の男がニコリと笑う。
私を含めて大半の者が主の目指す目標や、国を憂う志に賛同して従っているわけではない。
協力者は現状と計画が成功したときの見返りや成功の確率などを検討し、自分たちに利があると判断しているにすぎない。
このあと二人は情報を交換し、今後の計画について話し合った後に部屋をあとにした。
中年の男はこの国の辺境地域の有力貴族
そして少年はツファ・ラリート・コナ・バルト・ブレスターン
ブレスターン王国の名も無い第二王子である。