---潜入---
捜し物の手がかりを追って半月、消去法で手がかりとなる服を着た女がある邸宅の者である事を特定した。
あの服は私が嫁入り道具として持ち込んだ物で、こちら風に合わせた服だが多少デザインが異なっている。
生地や染色方法が違うためなのか、光が当たったときの色合いというかなんというかがこの国の服とは違っているので間違いないだろう。
そもそもブレスターン王家の紋章がでかでかと刺繍された服なんて阿己羅国にあるはずがないからね。
しかしこの邸宅には探知魔法の陣が設置されていた。
これは厄介だな。
自身に闇に紛れる隠蔽魔法を使っているが、これは視界をごまかすためのもので魔法はごまかせない。
邸宅の外壁ぞいをゆっくり慎重にぐるっと一周する。
術式にほころびがあれば楽なのだけど・・・
こことあと一カ所、あと後宮の外壁には探知魔法が展開されていて警戒が他より厳重だ。
これは簡単には侵入できそうにないな。
とりあえず外壁の上は探知範囲外のようだから、登ってもっと近くで術式を感じてみよう。
壁を蹴って外壁の上に登る。
ここの妃の邸宅は他の妃の邸宅より少し大きいようだ。
推測だが三色妃の誰かの邸宅なのだろう。
私は塀の上で膝をつき目に魔力を込める。
今まで見えていた景色が切り替わり、色々な色の光線がおぼろげに見えてくる。
しばらく魔力の光線を読み解く。
邸宅の外周に展開されている術式は、光の属性魔力が多いがその魔力量は多くないようだ。
私は光と相性が悪いけれどこれだけ魔力差があれば術式破壊なら出来る、がそんなことをすれば結局気付かれてしまうので意味がない。
あとこの術式は探知だけで侵入阻止を目的としたものではないようだ。
私は目から魔力を抜いて一度目を閉じる。
そして目をあけて視界が元通りになっていることを確認して息をついた。
この術式を見る行為は集中力が必要で、精神的にかなり疲れた。
私程度の知識ではすぐに術式を欺瞞する方法が思いつかないので、とりあえず今日は諦めていったん帰ろうと考えてその場に立ち上がった。
その瞬間、右側からガタリと音がして、その方向を向いて私はぎょっとした。
そこには短剣を構えた黒ずくめの人物がいた。