~~~魔物討伐~~~
「聖女アリス、物見の魔法士が魔物の気配を感じたのはこの付近です」
地図を見ていた騎士はそうアリスに告げた。
「討伐中は名前に敬称等を付けないように」
「失礼しましたアリス」
戦闘に中にいちいち敬称等を付けて呼ぶ暇などないので討伐中は名前のみ、名前が長い者は略称で呼ぶように指示している。
この騎士はまだ若く経験が浅いが慣れて貰わなければ困る。
「では探知魔法具を展開して魔力を補充せよ」
南の魔の領域以外に魔物が現れるのは稀だ。
今回アリスがここに来たのは、定期的におこなわれている地方巡礼の途中で立ち寄った街の警備隊から依頼を受けたからである。
本来は警備隊に所属している神官戦士たちで対処すべき案件だが、この地の領主であるコーテン司教から正式に依頼されては巡礼中の職務としてうけざる得ない。
魔物の気配があったのは街から東の森の中だ。
時間が経てば魔物も当然移動する。
視界の効かない森の中を私を入れて七人の隊で捜索しても見つかるわけはない。
物見の魔道士と道案内の神官戦士の同行を要請したが断られた。
代わりに近くの村の猟師が道案内として同行している。
神官戦士たちは同行しない理由を色々言っていたが、要は魔物が怖いのだろう。
物見の魔道士だけはその後ろで申し訳なさそうに頭を垂れていた。
金で神官の地位を買った連中は役に立たない。
今すぐ俗物どもをせん滅出来ればどれだけすっきりするだろうか・・・
だがいきなり全員殺してしまっては国の基盤が瓦解する。
近年活動が激しい南の魔の領域に遠征中である大聖女様が帰還されるまでに、捨てる物と残す物の選別をきちんとしておかないと。
「アリス、探知魔法具の準備が整いました」
周囲の警戒をしていた騎士を含め、魔法具に自分たちの魔力が反応しないように全員が展開した魔法具の内側へ移動する。
この魔法具は物見の魔法士ほどの探知範囲や精度はないが、特別な才能が無くても魔力さえ有れば誰でも使うことが出来る。
しかし魔物の魔力だけを感知するのではなく、ある一定以上の魔力の存在する方向がわかるだけである。
魔法具から周囲へ魔力の波が放たれ、しばらくして魔法具を操作していた騎士の表情がこわばった。
「魔力の反応がありました。ですがこの強い魔力反応は討伐予定の低級の魔物の反応ではありません。魔物なら上級、人なら聖騎士か聖女相当の魔力反応です」
「この森にいるのは我々の隊だけのはず。なら当初の目標と違っても魔物である事はほぼ間違いない。とりあえず殺ってしまいましょう」
「了解しました。急いで魔法具をかたづけろ。獲物はでかいぞ!」
騎士の言葉に他の騎士たちも拳をあげて応えた。
「いました。オオカミ型の魔物です」
日も陰って来た頃、先頭を歩く騎士が姿勢を低くしながら前方を指さした。
そこには滝壺の側に魔物が一匹いた。
これだけ近づけば物見の魔法の才能が無い我々でも魔物の魔力を感じられる。
「低級の魔物だな。他に反応のあった上級の魔物が必ずいるはず。オルクとバードは道案内の猟師とここに残れ。あの魔物は私がやる。他は私と共に突撃し、左右で他の魔物を警戒」
全員がうなずき、合図と共に駆けだした。
途中で魔物もこちらに気付いたようだがもう遅い。
「往生せいいや!」
アリスはバトルハンマーを袈裟懸けに振り下ろした。
魔力をまとったその一撃は魔物を粉砕し側に立っている木にぶつかって止まった。
「仕留めた、他にもいるぞ!」
低級の魔物を叩き潰した瞬間、一瞬だったが強大な魔力を感じた。
バトルハンマーを構え直しながら周囲の騎士たちに警告する。
先ほど感じた魔力を今は感じられない。
魔力を隠す魔物に遭遇したのは初めてだ。
静寂が辺りを包み込む中、騎士の誰かがごくりと息を呑む。
その瞬間、ベキッと言う音と共に先ほど魔物と一緒にバトルハンマーで叩いた木が警戒している騎士の方へと倒れる。
「び#$*ッヤ!!」
倒れた木の方向から騎士の声とは違う何かの叫びと強大な魔力の存在を感じた。
「そこか!!」
アリスは魔力を感じた方向へ駆けだし、バトルハンマーを振り下ろす。
なっ、人?
魔物は四つ足歩行の動物に似た姿をしているはずだ。
ガゴーン!
勢いの付いたバトルハンマーは止めることが出来なかった。




