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7.

 俺は、店主である娘の養父さんに一言断り、この店でほぼ定位置と化していたカウンター隅の席から、店の隅っこに位置しているあまり目立たないテーブル席へと移動する。

 勿論、入り口付近で先程までキョロキョロしていた見ため幼女な二人組の片割れである顔見知りの女の子には無言で合図をだし、そちらへと誘導してから、だ。


 今日は、いつもより少し早い時間帯にこの店に来ていたのだが、そろそろ日も傾き始めていて、この店の中も少しずつ賑わいを見せるようになってきていた。

 だから。他の人混みに紛れて、この傍迷惑な二人組とも、それ程は周囲の注目を集めることなく割とスムーズに、合流することが出来た。


 うん。まあ、次第点、といったところかな。


 しかも。店主自らが気を利かせ、わざわざカウンターの中から出て来て注文を取って配膳まで済ませてくれたので、当面は店の人から放置してもらえる。即ち、俺の娘から注意を引くことはない。

 本当に、至れり尽くせりで、娘の養父さんには頭が上がらない。


「で、だ。ユーフェミアちゃん、そちらの方を紹介してくれないかな?」

「アルヴィンさまぁ~。お、お顔が、怖いですぅ」

「はい、はい。戯言はいらないから、テキパキ説明する」

「チッ」

「ホント、飽きないよなぁ」


 そんな、俺とユーフェミアちゃんのやり取りを、興味深げにニコニコしながら見ているパッと見は幼女な成人女性。

 やっぱり、見れば見る程、この二人はよく似ている。

 コバルトブルーの瞳に水色の髪をツインテールにしているユーフェミアちゃん。

 水色の瞳にブルーの長髪を腰まで伸ばして後ろで括っているもう一人の女性。

 実年齢が十三歳のユーフェミアちゃんに対して、こちらの女性は...。


「アルヴィンさん」

「へ?」

「女性の年齢を詮索するのは、失礼、ですわよ」

「お、おう。そう、ですね」

「そうですよ」

「失礼致しました」

「いえいえ」

「...」

「では、改めまして」

「はあ」

「どうも、はじめまして。ユーフェミアの姉で、アンジェリカと申します」

「ど、どうも」

「主人が代表を務める商会では、若奥様なんて呼ばれておりますが」

「...」

「今日は、もう一つの方の肩書で、アルヴィンさんにお話があって参りましたの」


 ニッコリと笑顔を浮かべているが、その水色の瞳は笑っていなかった。

 うん。只者じゃない、ね。たぶん。

 はて、さて。今回、俺は、この街の闇に潜むどんな地雷を踏んでしまったのだろうか...。


「アルヴィンさんは、女性向けの娯楽にご興味がおありなんですか?」

「は?」

「ほらほら、惚けない。ここ数日、何やら熱心に調べておられましたでしょ?」

「いや、まあ」

「別に、その存在自体を隠蔽している訳ではないのですよ。ただ、対象は女性、なんですよね」

「はあ」

「ああ、勿論。アルヴィンさんにそのような趣味嗜好がおありなのであれば、歓迎致しますが」

「...」

「違いますよね?」

「乙女ナントカ小説、って奴ですか?」

「はい、そうです」

「それですか」

「そう、それなんです」

「はぁ...」


 どうやら俺は、この街に暗然と存在する触れてはいけない闇と遭遇した、という訳ではなく、傍迷惑な趣味人さんの興味を引いてしまった、という事のようだった。

 はあ。これは、面倒なことになりそうな気がする。

 いや。決して安価とは言えない物資を容易に調達した上で一筋縄とはいかない面倒な組織が保有する高価で貴重な機材を駆り出してまで(おの)が趣味に邁進できる無敵な人材を、味方に引き込むチャンスか?


 俺は、改めて、ギラギラとした瞳を俺に向ける、見ため少女な某商会の若奥様であるらしいアンジェリカさんの様子を、観察してみた。


 可愛らしい容姿に、趣味の良い装い。

 パッと見はその可憐な少女っぽい(おもむき)に誤魔化されてしまいそうになるが、強烈な自我と個性と唯我独尊なその言動や押しの強い態度にドン引きするか気圧されてしまう。そんな、厄介なタイプ、だよなぁ。たぶん。

 けど、まあ。偽悪ぶってはいるが意外と真面目で良い子なユーフェミアちゃんと一緒で、面倒ではあるけど悪人ではない、ような気がしないでもない。

 うん、何だろう。無邪気に遊ばれて酷い目に遭う未来が垣間見えるような気もするけど、最終的には他人の不幸を良しとせずに何だかんだと尽力してくれる、みたいな...。


 趣味の物とはいえ、相当な種類と冊数の印刷物を、原稿から材料からきっちり揃えた上でそれなりの人手を掛けて制作し流布させているからには、ある程度の規模の集団を統率する組織力もある、と考えるべきだろう。

 この街で、と対象範囲を限定したとしても、相当に厄介な人物である。と考えて、間違いない。

 つまり。敵に回してはいけない人物、という事だな。


 よし、決めた。

 うん。何が何でも、味方になって貰おう。


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふ」

「ゲッ」

「何なに、ユーフェミア?」

「いえ。アルヴィン様の、唯一の悪癖である例の困ったスイッチが入ってしまったようです」

「何それ?」

「アンジェリカお姉さま。アルヴィン様は、娘バカなんです」

「娘?」

「はい。この方は、俺の娘がぁ~、と言って何かと暴走してしまう困った方なんですよ」

「そ、そうなの?」

「はい。どうやら、今回の調査活動も、アルヴィン様の娘さんが関わっていたようです」

「そうなんだ」

「はい。間違いないですね」


 俺は、慌てて、俺の前で俺を蚊帳の外にして展開される会話に参戦する。


「こらこら、ユーフェミアちゃん。人聞きの悪いことを、言うもんじゃないよ」

「はぁ~。これさえ無ければ、アルヴィン様ってそこそこは有能な常識人なんですけどねぇ...」

「はっはっはっはっは。俺は、常に、常識人だ!」

「はいはい、そうですねぇ~」

「まあ、俺は大人、だからな。お子様なユーフェミアちゃんには、寛容に対処してあげよう」

「はい、はい。で、アンジェリカお姉さまと、お話をされるのでしょうか?」

「おう、そうだ。アンジェリカさんには、是非ともご協力を頂きたい」

「...」


 俺は、微妙に思案げな渋い表情となって黙り込んでしまったユーフェミアちゃんをスルー。

 若干、戸惑い引き気味となっているアンジェリカさんの方へと向き直り、ニッコリと笑う。ニヒルな感じで。


「な、何でしょうか...」

「ここ数日、この店には、昼食時のピークが過ぎた後に、大勢の乙女小説の愛読者らしきお嬢様方が集まって来るのです」

「ほ、ほぉう。面白そうね」

「そうでしょう、そうでしょう。実はですね...」


 こうして俺は、世に乙女ナントカ小説を続々と送り出していると思われる大物な趣味人との、交渉に着手する。

 退屈そうに呆れたような表情で傍観者に徹しているユーフェミアちゃんは、放置して。


 俺は、ユーフェミアちゃんの姉であるという見ため少女なアンジェリカさんと膝詰めで、きらきらイケメンの三馬鹿トリオに関する情報提供をネタに、娘の周囲からの排除に知恵と人脈の提供と支援を得るべく、奮闘を開始するのだった。


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