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5.

 今日も何とか、怒涛の勢いで攻め寄せるイケメンの猛攻を(かわ)しきった俺の娘。


「あ~、心臓に悪い」


 閉まった扉に向かって、疲れた顔でポツリと(つぶや)いた。

 かと思うと、表情を引き締める。


 パンパン。


 と手を叩き、強制的に自身をリセットする。


「さて。さっさと、後片付けをしてしまおう!」


 よしっ、とばかりに気合いを入れ直して、俺の可愛い娘が元気に働きだした。


 一時的に止まっていた店内の時間も動き出し、彼方此方のテーブルから勘定場へと向かって人々が動き出す。

 昼食後のショータイムが終了し、ここ数日の名物となりつつある退店ラッシュが始まったのだ。


「あ~、美味しかった」

「ほんと。楽しかったよね」

「明日も、来られるのかな?」

「どうだろうね」

「美味しい物を食べながら、目の保養が出来るなんて、幸せよね」

「次は、もう少し離れた席が良いなぁ」

「そうよね。近過ぎると目が潰れそうで、あんまり見れないのよね」

「そうそう。やっぱり、離れて眺めるのが一番だね」

「うんうん」

「この店でアルバイトさせて貰おうかと、真剣に考えてたけど...」

「リーズナブルな美味しいデザートを食べながらの鑑賞が、一番よね」

「けど、席が埋まっちゃうと入れないから、運も必要なのよね~」

「いや~、楽しかった。ラッキイだったわ」

「次はいつ来る~?」

「そうね。どうしようか...」


 わいわいガヤガヤと、ギャラリーのお嬢様方が、撤退していく。

 娘は、精算と後片付けで、てんてこ舞い。

 養父さんもカウンターの中から出て来て、娘を手伝う。


 こうして。暫くの喧騒の後、店に、静寂が戻って来た。

 店内には、俺と、濃紺の髪を背中に束ねた水色の瞳に冷たい視線を標準装備するクールビューティのみ。


 俺は、カウンターに二人分のお代を置いて、店主に軽く合図してからゆっくり店を出る。

 後ろから、剣呑な気配を漂わせた年若い美人さんが、続いて来ているのを意識しながら。


「さて。その辺りで、少しお話、といこうか」

「...」


 俺は、娘の働く店から少し歩いた所にある広場で、周りを囲むように植えられた樹木の一本を指差し、ゆっくりと歩いて其方へと向かう。

 背後の気配は、一瞬、躊躇したようだが、その後は思い切り良くツカツカと歩いてついて来た。

 俺は、立派な木の下にできた日陰の、ちょうど良い感じで配置されている平らな石の一つの前まで歩いて行き、元来た方へと振り向いて腰を下ろす。

 そして。

 立ち止まり、不本意そうに不機嫌な表情を浮かべた水色の瞳のお嬢さんを、見上げた。


 改めて、まじまじと見る。


 年の頃は、十代後半の二十歳手前くらい、かな。

 あと数年もすれば貫禄もついて、氷の美貌、と持て囃されそうな美女の卵さんだった。

 濃紺の髪に水色の瞳、冷たい視線を標準装備する、細くてスラリとした体型。

 ただし。女性的というよりは、柳のように強靭な引き締まった筋肉質な身体、なんだと思う。

 うん。美貌の女性騎士、といったところだな。


 俺は、彼女に、俺の横にある座るのに良さげな石を示して、声を掛ける。


「まあ、座らないか?」

「...」

「俺の名前は、アルヴィンという。この街の冒険者ギルドで、色々とお世話になっている」

「...」

「ちなみに。あの三人の素性も、よぉ~く知っている。ギルド側の人間として、以前に応対したからね」


 ぶすり、と少し幼げな感じの雰囲気となる、女の子。

 不貞腐れたような態度で指定された石へと座って、初めて声を出した。


「エリカ・ウォートン、だ」

「そうかい。エリカさん、よろしく!」

「...」

「寡黙だねぇ」

「...」

「あの店のスイーツは、美味いだろ?」

「ああ、美味しかった」

「下町の料理屋も、捨てたもんじゃないだろ?」

「うむ、そうだな。あれならば、お嬢様にも食べて頂きたいな」

「成る程。では、上位貴族のご令嬢にも、一度、食べに来て頂くことにしようか」

「おい、無茶を言うな」

「そうかい?」

「お嬢様に、あのような場所へお越し頂く訳にはいかない」

「う~ん。この国の王子様もお越しになったお店、だぞ?」


 俺は、更に不機嫌となった既にもう普通に女の子なエリカさんを、にやにやと笑いながら眺めるのだった。


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