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2.

 カラン、カラン。


 入口にある二枚扉の開き戸を開けると、扉の上に取り付けられている小さな鐘が鳴る。

 そして。

 建物の入って直ぐの場所にある集会所のようにだだっ広い部屋の、その一角に設けられた居酒屋的なテーブル席が並んだ辺りから、一斉に、厳つくむさ苦しい野郎どもの視線が突き刺さる。


 う~ん。

 俺は慣れたけど、これだと、馴染みのない一般人には敷居が高いのではないだろうか。

 ここのように大きな街にある冒険者ギルドは、その役割を考えると、初心者や部外者にもフレンドリーでないと困ると思うのだが...。


 幹部でも出資者でもない俺が気にする事柄でもないか、などと思い直しつつも、俺は、澄ました顔で剣呑な視線を全てスッパリと無視して、ずんずん歩く。

 正面奥にある受付カウンターの方へと向かって、真っ直ぐに進む。

 複数の担当者が並んでいるその中央の、パッと見は幼女と見紛う受付嬢が受け持つカウンターへと、表情を消して真っ直ぐに突き進む。


「ぴえぇ~」

「ふん」


 俺は、遠慮なく一直線に早足で突き進んで速攻で辿り着き、カウンター前で立ち止まって仁王立ち。上からジロリと、受付嬢を見下ろした。

 俺の背が特段に高い訳ではないのだが、相手の受付嬢が格別にちっこいので、上から威圧感たっぷりに見下ろしている、ように見えなくもない。

 (はた)から見ると、俺が彼女を威圧して苛めているように見えるのだろうが、事実は異なる。

 そう。パッと見はビビッて涙目状態のように見える彼女だが、周囲からは見えない位置にある肘から先の手指と足はシャンとしていて、欠片も震えてなどいないのだ。

 俺は、そんな彼女を冷めた目で見ながら、周囲に聞こえないレベルまで音量を絞って、ぼそりと(つぶや)く。


「飽きないよなぁ」

「チッ」


 しかも。このお子様は、平然と悪態を吐く。

 まあ、悪意がある訳ではなく、思い通りに為らないと拗ねているだけ、ではあるのだが...。


「アルヴィンさまぁ。お、お待ちしておりましたぁ」

「はいはい。用件は?」

「ええっとぉ~、臨時のレクチャー対応要請と、新しい報告書の閲覧お誘い、ですぅ~」

「了解。別室か?」

「はいぃ~。あちらに、どうぞぉ」


 幼女が精一杯にお愛想を振りまく、という演技。


 本当に、飽きないよな、こいつ。何が楽しいのだろう?

 思わず、更に冷たさを増した視線を向けたら、ワザとらしい気弱な微笑みが返ってきた。


「おほほほほ」

「おいおい、見ためと台詞が乖離しているぞ。キャラが、崩壊している」

「もう、嫌だなぁ。アルヴィン様の、い・じ・わ・る」


 何のこっちゃ。と呆れながら、俺は、先導する受付嬢、ユーフェミアちゃんの後に続く。


 カウンターの横にある扉を開けて事務所から出て来たユーフェミアちゃんが、ちょこちょこと歩き、少し離れた場所にある別の扉を開ける。

 現れた廊下を進み、曲がり、階段を上がって、いくつかある部屋の扉の前を通り過ぎた。

 その後、廊下の突き当りにあった重厚な扉を問答無用で開け、その部屋の中へ入るように、と促してくる。


「連れて来たよぉ~」

「失礼します。アルヴィンです」

「ああ、ご苦労様」

「じゃあ、パパ。お後、よろしく~」

「おいおい、ユーフェミア。もう少し、年相応にお淑やかには出来んのか」

「はぁ~い。できませぇ~ん」

「...」


 元気一杯に可愛い悪態(?)を吐き平然と歩み去って行く見ため幼女を、諦めの表情で肩を落とし見送る厳ついオッサン。

 うん。普段は威厳たっぷりのお偉いさんも、形無(かたな)しだね。


 この冒険者ギルドの支部長であるテッドさんが、哀愁を漂わせていた。

 俺は、久し振りに見る、そんな見慣れた光景を軽くスルー。

 そして。俺を態々(わざわざ)呼び出した立派なデスクに鎮座するオッサンに、知らん顔して、用件の詳細を尋ねる。


「テッドさん。報告書の閲覧を俺は急ぎませんが、レクチャー対応の方は急ぎですか?」

「...」

「成る程。ただ単に娘に構って欲しかっただけ、ですか」

「...」

「であれば、俺も暇じゃないので、失礼しますね」

「んな訳あるか...」

「何か?」

「あ~。ゴチャゴチャ言ってないで、そこに座れ」


 テッドのおっさんが、不機嫌な顔をして、広い部屋の中央から少し窓よりに配置されている豪華な応接セットのソファーを指差す。

 はあ。真面目なお仕事、のようだった。

 しかも。何やら面倒臭そうな臭いがプンプンする感じ、だよなぁ。


 自身も巨大な執務机に備え付けの豪華な椅子から立ち上がり、見ためによらない素早い身のこなしを披露して移動し、応接セットの俺がいる向かい側のソファーへと、どっかりと沈み込む。

 その行動を見届けてから、俺も、遠慮なく指定されたソファーへと深々と腰掛けた。


「帝国行きのキャラバンが結成された事は、聞いているか?」

「はて?」

「街でも、話題になっているだろうが」

「そうでしたか?」

「ああ」

「あまり興味がないので、聞き流してたかもしれませんね」

「おいおい。少しは、自分の娘以外にも興味を持てよ...」

「はっはっはっはは。冗談じゃないですか」

「...」

「娘の安全に関わるかも知れない国際情勢に、俺が注視してない訳がないでしょうが」

「はあ。そうかい、そうかい」

「テッドさんだって、可愛い娘さんのために頑張っているのでしょう?」

「はい、はい」

「で。そのキャラバンが、どうかしましたか?」


 脱力している冒険者ギルドの支部長を冷めた視線で眺めながら、俺の灰色の頭脳が、猛スピードで回転する。

 持ち得る全ての記憶と知識を精査し、考え得るトラブルの想定とその関連情報の抽出および回避策候補の立案と検証に猛然と取り掛かり、俺は、自身の思考の中へと一時的にどっぷり沈み込むのだった。


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