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11.

 祝、娘のお誕生日。という事で、本日は連続でどど~んとUpです。

 お楽しみ頂ければ、幸いです。


 仕込みはバッチリで、役者も揃い、統率されてヤル気に満ち溢れたスタッフさん達による事前準備も着々と進んで絶好調。

 そんな状況まで確認できた時点で、急遽、冒険者ギルドから緊急で指名依頼が入ったため、俺は、この街を約二週間ほど空ける事となってしまった。

 少しばかり足を延ばして、微妙にキナ臭い状況に陥っている近隣の国まで行くことになったので、当初の想定よりも戻るのに日数が掛かってしまったが、取り敢えずは、問題なく受注した仕事は完遂してきた。


 ただ、まあ。その所為(せい)で、可愛い娘の安全をこの眼で確かめるという重大な使命を果たすことが、暫くの間は出来なかった訳だが...。


 しかも。街に戻ったら、冒険者ギルドへの報告は仕方がないとしても、すぐさま娘の顔を見に行きたい処であったのに、その前に中断していたクラリッサお嬢様との契約の速やかな再開を懇願されてしまった。そう、見ため美幼女な冒険者ギルドの受付嬢であるユーフェミアちゃん、に。

 俺にとっては性格の少し歪んだお子様モドキでしかないユーフェミアちゃんも、冒険者ギルドのむさ苦しいおっさんや駆け出しの若者たちには人気があり、マスコット的な存在として絶大な人気を誇る。

 そんな外見詐欺な美幼女が、涙目になって、大きな声で懇願するのだ。

 当然ながら、俺には、周囲から多数の強烈な殺気と非難の視線が殺到することになる。


 ユーフェミアちゃんの計算通り、という奴だ。


 ちろりと小さく舌を出したユーフェミアちゃんを視線だけで睨みつけるも、この状況で拒否は出来ない。

 内心では後日の仕返しを誓い盛大に罵倒しながらも、表面上はニコニコと笑顔を浮かべながら、俺は、ユーフェミアちゃんの要求を受け入れたのだった。


 相手はお貴族様なのだから急に今から行くと言っても迷惑だろう、と未練がましく最後の抵抗を試みるも、ニッコリと邪悪に微笑んだユーフェミアちゃんから調整済みだと宣告されてしまう。

 悔しいが、仕事が出来る才女、でもあるんだよな、ユーフェミアちゃんは。

 冒険者ギルドの側の都合で振り回されるのは業腹だが、今回も貸し一つ、とカウントしておく事にする。

 絶対に、後で、取り立ててやる。

 そう心に固く誓った俺は、とっとと用事を済ませるべく、ロンズデール伯爵邸へと向かうのだった。




 色ボケ英雄の王国と揶揄されるラッセル王国の王都であるエレンの街の、貴族たちがお屋敷を構える地区にあっても別格である王宮前広場を望む場所に位置する、重厚な佇まいで周囲を睥睨するような格式ある豪邸。

 そんなお屋敷の落ち着いた趣ある上質な応接室で、絢爛豪華という程ではないが超高級品だと見るからに分かる年代物のよく手入れがされた調度品の数々に囲まれ、座り心地の良い上等なソファーに埋もれるように腰掛けて、俺は、無の境地へと至っていた。


 まあ、当然だよね。

 抜かりなく正確に帰着時刻を予測した上で的確に調整していたとしても、お貴族様をお待たせする訳にはいかないのだから、訪問しても直ぐに面会とまでは行かないのは。


 俺は、このある意味では見慣れた風景の中で、心を落ち着け静かに待機していた。


「お待たせ致しました」


 美少女、が降臨した。


 光沢があり加減によっては銀髪にも見える薄桃色の長い髪が、今日も、窓から差し込む陽光でキラキラと輝いていて綺麗だった。

 少し釣り目がちな整った造作の綺麗な顔にお淑やかな笑顔を浮かべ、背筋を伸ばした奇麗な姿勢を保ったまま、俺の瞳を覗き込んでくる美少女。


 俺は、久し振りに間近で見ることとなったクラリッサお嬢様の姿に、思わず、見惚れてしまう。

 うん。これはある意味、役得、という奴だな。


「こちらこそ、前回から期間が空いてしまい、申し訳ありません」

「いえ。元から、アルヴィン様に時間が取れるタイミングで、とのお約束ですから」

「いや、本当に申し訳ございません。この時期に、長期間に渡ってこの街を空けることになるとは、流石に想定外でしたので...」

「あら、そうなんですの?」

「はい。冒険者ギルドにも、以前から、この時期には三日以内にこの街まで戻れる依頼しか受けないと言ってあったのですが、今回ばかりは、お互いそうも言ってられない危急の案件でしたので」

「それは、大変でしたね。お怪我など、ございませんの?」

「はい。そこはもう、抜かりは御座いません」

「そう。ご無事で何よりですわ」

「ありがとうござます」


 そんな時候の挨拶的な会話を交わしている間に、何人かの侍女さん達が忙しく立ち働いて、お嬢様が講義を受けるための備品の配置やお茶の準備などをチキパキと揃えていく。

 そして。

 全ての準備が整ったところで、クラリッサお嬢様が軽く目配せすると、専属侍女と護衛を兼ねるエリカさん一人だけ残して、他の侍女さん達は静かに退室していった。


 エリカさんが、定位置であるクラリッサお嬢様の背後に直立不動になったところで、俺は、少し肩の力を抜く。

 そんな俺を見て、クスリと笑ってから、クラリッサお嬢様が本題を切り出してきたのだった。


 先程までの令嬢然として凛とした雰囲気から一転、瞳をキラキラさせて、無垢な少女のような笑顔で楽しそうに少し前のめりの前傾姿勢となって熱く語る、クラリッサお嬢様。

 本当に可愛らしい、年相応な女の子、だった。

 (まさ)しく、眼福という奴である。

 お嬢様にこのような表情をさせられた、お嬢様が喜ぶ貴重な経験を得られる機会が提供できた、という点については後悔など欠片もない。

 ただ。その可愛らしい口から語られた内容に、俺の笑顔は引き攣り、強烈な頭痛を覚えたのだった。


 おい、おい。聞いていないよ、アンジェリカさん。

 打ち合わせの時に色々なプランを開陳してくれたけど、そんなプランは無かったよね?

 ん?

 もしかして、聞き洩らした、とか。

 ま、まさか。アルコールの摂取量が限界を超えて意識が朦朧としだした時点かそれ以降に、説明されて候補の中に入れることを了承した?

 いや、いや。いくら酔っぱらっていても...大丈夫とは、断言できない。

 確かに、お嬢様のウエイトレス姿は是非とも見てみたい、気がする...。


 お嬢様の背後に直立するエリカさんからの、強烈な怨念の篭った視線が痛い。


 何ちゅう事をしてくれたんだ、アンジェリカさん。

 あの突き抜けた趣味人である外見幼女な小母(おば)さんを野放しにしたのは、痛恨のミス。

 うっ。

 何やら寒気が...。

 そ、そうだよな。小母さんは駄目、だった。

 あ~、お姉さん、にしておこうかな。

 うん。アンジェリカお姉さん、だな。ホント、やらかしてくれたよね。


 いや、まあ、クラリッサお嬢様が満足しているから、良いのか?

 うん。良い、という事にしよう。そうしよう、そうしてしまおう。

 けど。後から、ロンズデール伯爵様からキツイお叱りを受ける、ってな事態にはならないよね?


 あ、頭が痛い。


 そ、そうだ!

 アンジェリカさんを俺に紹介したのは受付嬢のユーフェミアちゃんなんだから、冒険者ギルドの支部長も一蓮托生、だよな。


 よし!


 責任追及を受けたら、冒険者ギルドに回してしまおう。それで、解決。問題なし、だ。たぶん。


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