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魔女旅に出る  作者: 鳳凜之助
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『君、名前は何て言うの?』

「俺は…鍛冶屋孝信」

『え?』

「か・じ・や、こ・う・し・ん!」

『…なんか苗字も名前も変わってるねぇ』

「うちの家はお寺でね、しかも長男だから跡取りなんすよ。だから坊さんみたいな名前で…」

『………』

「魔女さんは?」

『ん?』

「名前とかあるんすか?」

『…ないよ。魔女は魔女だもん』

「へぇ…。こっちもいろいろ聞いていいっすか?」

『何を?』

「魔女界?のこととか。ホントにあるんだなーって思ったんで」

『…また後でするね』

「あっ、人来たんでちょっとの間黙ってもらえます?」




さっきまでの狭い道では誰ともすれ違わなかったけれど、少し大きな通りに差し掛かると行き交う人が増えてくる。いくら話したくてもここでは黙っていないと、孝信君が一人で喋っているだけになってしまい変な目で見られてしまう。暫くの我慢だ。


それにしても…この道だとどこに行くんだろう?




もう暫く歩いたところで、とある派手な建物の前で彼は足を止めた。




『…ゲーセン?』

「はい。ちょっとやりたいゲームあるんで付き合ってもらっていいです?」

『いいわよ。どんなのが好きなの?』

「まぁ着て貰ったらわかりますよ」











画面越しにどんどん襲いかかってくる敵。それらに対しゲーム機の銃を握り、バンバン音を立てて次々と撃っていく。

たかがゲームなのに、敵を狙う目は真剣そのものでついつい見とれてしまう。


ひとしきり狙撃した後で画面には1300と表示された。それとほぼ同時に彼はため息をつく。




「はぁ~、なかなか伸びねぇな…」

『えっ、あんなに撃ってたのに?』

「まだまだっすよ。これ最高得点3000点なんで」

『そうなんだ』

「友達が弓道部でこういうの凄く得意なんすよ。まだ一回も勝ててないんで練習してるんすけどなかなか…」

『へぇ~』

「とりあえず今日はコレは終わりっと。次別のゲームしていいっすか?」

『はーい』

「せっかくお話したいって言ったのにすみません…」

『気にしないで。孝信君がやってるの見てるだけでも楽しいもん』




次に彼が選んだゲームはクレーンゲームだった。

ゲームの中には色んな種類のお菓子の箱が何段も積まれていて、まるでタワーのよう。

手前のボタンを押して孝信君は巧みにそれら を倒そうとするが…




「あッ!!……惜しいな」




あと一歩のところで倒れず少しだけ傾くだけだった。


『ホントだ!も一回やれば倒れて獲れるんじゃない?』

「…ねぇ魔女さん」

『え?』

「こういうの魔法使って獲れないんすか?」




………




ドキッとした。

確かに魔法が使えるのなら、こんなことなどお手の物かもしれない。




でも…




私は…




「魔女さ…」


『ッ!!ダメだって!』

「…何でですか?」

『だって…こんなんじゃ私利私欲の為じゃない。魔法はそういう為にあるもんじゃないのよ!』

「えっ、そうなんすか?」

『…そうよ。自分の為じゃなくて他の人が幸せになれるように使うんだから』


「……まぁそうっすよねフツー」




孝信君は暫くの間キョトンとした顔で黙っていたが、納得してくれたようだ。本当にホッとした。危うくバレてしまいそうだったから…




「あれ・・・孝ちゃん!」




彼と似たような制服を着た女の子四人組が通りかかり、その中の一人が声を掛けた。




「ちぃちゃん」




声を掛けてきたあのショートボブの子とは結構仲が良いのだろうか。お互いあだ名で呼んでいるし…。




「学校終わってさっさと帰るしどこ行ってんのかなって思ってたー。一人?」

「んー、まぁそんなとこ。ちぃちゃんは今日もアレやんの?」

「今日はしないよ。これから友達とプリクラ撮るもん」

「俺さっきやったよ。1300点」

「全然じゃん。もっと練習しなきゃ私に勝てないって」




どうやらさっき話していた、弓道部の友達と言うのは彼女のことらしい。少しホッとした。

もしあの子が恋人だったらどうしよう…と思い、少し不安になっていたからだ。



そんな「ちぃちゃん」の目にも・・・案の定私の姿は映らないようだ。それどころかゲーム機のガラスにすら映っていない。だから孝信君が一人で来ているように見えるのだろう。




「チカ!置いてくよー」

「あ!ごめんごめん。じゃまたねー」

「おう」




「ちぃちゃん」が友達と合流し孝信君が手を振った後で、もう一度チャレンジしたが…惜しいところで獲れなかった。




「くっそー…」

『惜しかったね』

「アレで小銭最後やったんすよ…」

『うそー!次こそ行けそうなのに!』

「いやー…、しゃあないすね。そろそろ出ましょうか」

『おっけー。次はどこ行くの?』

「…行ってからのお楽しみっすよ」

『わかったわ』




再び彼に着いていき、ゲームセンターを後にした。

ゲームを見ているのも楽しかったけれど、正直そこでは人目は気になるし音がうるさいしで、まだまだ話し足りない。

ここまで一緒に行動しているが、もっともっと孝信君のことを知りたい。好きなもの・こと、好みのタイプ、「ちぃちゃん」との関係(恐らく友達なのだろうが)、Tシャツの四字熟語の意味、などなど…聞きたいこともたくさんある。




私の正体が見抜かれる可能性もなくはないが…それでも、もっと話がしたい気持ちの方が勝っていた。


あんな嘘つくんじゃなかったかなぁ…




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