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魔女旅に出る  作者: 鳳凜之助
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午後三時三十分。




どうやらこの辺りは通学路らしく、学校が終わったのか制服姿の高校生ぐらいの子達がたくさん歩いてくる。それぞれ友達と談笑していたり愚痴をこぼしていたりスマホを弄っていたりと、何だかんだいって皆楽しそう。


それにしても多いなぁ。普通なら部活とかもあるだろうし、帰る時間なんかみんなバラバラになるはずなのに。




そして…さっきからずっとここにいるけれど、誰一人私を見ていない。

どう見ても…まるで仮装大会のような格好をしているのに。




まぁ当たり前だよね。

あの子達と違って私は地上を歩いていなくて、箒の上に乗ってふわふわと宙に浮いているのだから。きっと見たくても見えないのだろう…そもそも別に私の姿なんて大して見たくもないか。




なーんて思っていると…







『!』







歩いてくる生徒達の中で一人だけ…目が合った。


ただ偶然こっちを向いただけのことかと思ったけれど、明らかに私の方を見ていてバチッとしっかり合っていた。

その男の子は歩きつつ暫く私をじっと見てから、何事もなかったように視線を離す。




もしかして…私が見えるのかな?




何となくだが気になって、箒に乗ったまま恐らく帰り道を歩いているその彼の後ろを着いていってみる。











後をつけているから今は見えないけれど、整った顔立ち、恐らく180センチぐらいはある身長、ハーフアップに纏めてあるサラサラの肩より少し長い髪。それに結構着崩している制服と、複数個開けているピアスのおかげで少しだけワルそうにも見えるが、ああいうタイプは正直嫌いではない。それにしても…ブレザーの中に着ているシャツの中のTシャツの四字熟語…何て読むんだっけ。

ゲスいことを言ってしまうが、もし目が合ったのが彼のようなイケメンじゃなければ…ここまで着いて行かなかったし、着いて行きたくもなかったと思う。

これは…だいぶ久しぶりに一目惚れしてしまったかなぁ。


いろいろと思いを巡らせているうちに、あの人はくるっと左に曲がって脇道へと進んでいく。しかもラッキーなことに…そこには彼以外誰もいない。

もし私が見えるのなら…声も聞こえるかもしれないし、あわよくば…話すことだって出来るのかも。







『・・・こ、こんにちはっ!』




勇気を出して声を振り絞った。




すると







「・・・こんにちは」




立ち止まって振り向いてくれた。

もう一度私をじっと見つめてくる。さっき見た通り、やっぱり綺麗な顔をしている。




『あのっ…、私が見えるんですか?』

「はい」




まさかの即答!

案の定、あの目が合った時から私の存在に気付いていたみたい。しかもこうして振り向いて返事もしてくれているのだから、声もバッチリ聞こえているということなのか。

こんな人…初めてだ。




『…ホントに?』

「ホントっす。…お姉さん、魔女なんすか?」


『え?』


「だってそんな格好されてるんで…」




逆に質問されてしまった。

お気に入りだったヒラヒラした袖が可愛い黒いワンピースを着て黒いとんがり帽子を被り、おまけに箒の上に座っているのだから誰がどう見ても魔女にしか見えないだろう。




『…ええ、私は魔女よ』

「やっぱりそうすか」

『あの…ね、魔女界から来たの』

「へぇ…やっぱりそういうのってあるんすね」




どうやら信じてくれている。普通はこれくらいの年の子なら魔女の存在なんて信じていないだろうし、こんなこと言われても本気にしない。

これは上手くいきそう・・・と思い、更に勇気を振り絞ってみることにした。




『そう…。いきなり声かけてしまってごめんなさい。びっくりしたでしょう?』

「いえそんなに…」

『私…、人間界に来てまだ日が浅くて友達も全然いないし、他の人にも見えないみたいだし…だから寂しくて……ちょっ、ちょっとでいいから話し相手になってくれないかな?!』




「………。魔女さん、逆ナンっすか?」

『!!ちがっ…!そんな訳じゃ…』

「冗談ですよ。いいっすよ」

『ええ!?』




断られるのを覚悟して切り出して、本当に断られると思ったが…まさかの展開。


自分から言っといてなんだが、確かにこれじゃ逆ナンと大して変わりない。言った後から恥ずかしくなってきて体が熱くなりそうだ。




「話って言われても俺そんなに面白いネタとかないんすけど…」

『全然!たわいない話でもすべらない話でもいいから』

「いやいや、すべらない話は流石に難しいっすよ」




思わず笑った顔も可愛らしい。




「とりあえず…場所変えましょうか。着いてきてもらえます?」




ニッと口角を上げて微笑みながら手招きしてくれるから、こっちまで思わずニヤけてしまう。




『ありがとう!』




こうして私は久しぶりに浮き立つ気持ちになって、箒に乗ったまま再び彼の後を着いていった。




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