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ヒロイン?

 俺は水谷と会話するようになってから、毎日話しかけるようになっていた。入学当初の時とは打って変わって、俺は水谷としか会話しなくなっていた。最初の頃はクラスの人気者になるという目標があったため、色んなやつに話しかけていたが、今となってはどうでもよくなっていた。諦めたというより無理だと気付いたのだ。それに、面白くもない会話に参加し愛想笑いを続けるのはとても大変だった。


 そんな感じで過ごしていたある日、トイレから帰ってきたら水谷が他の女子と話していた。相手は同じクラスの陽キャ達といつも一緒にいるやつだった。名前は……。あれ?なんだったっけ?あんまり興味がなかったから記憶に残っていなかった。


 それにしても珍しいことだと思った。今まで水谷が他の女子から話しかけられるのは見たことがなかったから、どんなことを話していたのか少し気になる。聞いてみるか。


 「水谷さん何を話していたの?水谷さんってあの人と接点あったっけ?」

 「いや、佐藤さんと話したのは初めてだよ。放課後用事があるから、日直の仕事を変わってほしいと頼まれたの」

 「なるほどね」


 水谷が暇そうに見えたから頼まれたのかな、と思ったが口には出さなかった。さすがに失礼だからな。それに彼女は佐藤さんという名前なのか。名前を聞いてもあんまり思い出せなかった。


 日直の仕事というのは、よくある授業後の黒板消しと、放課後に日誌を書いて黒板消しなどの掃除を追加でやらないといけない。まあ正直めんどくさいとは思う。部活に入っているやつらはなおさらだろう。


 「それで水谷さんは引き受けたの?日直の仕事」

 「ええまあ、特に放課後やらなきゃいけないこともないし。なにか問題でもあるの?」

 「いや、水谷さんが了承しているなら別にいいんだけど……」


 俺はどうしても疑ってしまう。用事というのは嘘で、本当はしょうもない理由で水谷はめんどくさい作業を押し付けられているだけなのではないかと。昔の嫌な思い出のせいでどうしても陽キャのことを偏見な目で見てしまう。


 俺が昔のことを思い出して暗い表情を浮かべてしまったのを見て、水谷は、


 「もしかして、心配してくれてるの?私は別になんとも思っていないから遠藤君が気にする必要はないよ。でも、ありがとうね。心配してくれるのはとても嬉しいよ」


 今までに見たことがない柔らかい表情で言った。まるで女神の微笑みのようだった。


 まあ水谷が気にしてないならいいか。そう思い俺も暗い表情をやめて、水谷に笑いかけた。結局その日の放課後は俺も暇だったため、水谷の手伝いをした後、校門で別れるまで雑談しながら一緒に歩いた。ギャルゲーのような展開に俺は期待せざるを得なかった。


 もはや当初の目的を完全に忘れ、水谷ともっと仲良くなるためにはどうすればいいか、そんなことばかり考えるようになった。それもまた一つの青春で、今までになかった体験に毎日が楽しかった。


 しかしまたある日、水谷が女子から話しかけられていた。今回は佐藤さんではないが、佐藤さんがいつもいるグループの内の一人だった。名前はわからん。


 嫌な予感がした俺は話が終わった後、水谷に聞いた。


 「もしかして、また日直の仕事を頼まれたの?」

 「そうだよ、よくわかったね」

 「水谷さんは、また引き受けたの?」

 「まあ、どうしても外せない用事があるらしいから。私は放課後特に何もないし」


 俺の嫌な予感は当たった。このままだと水谷は都合のいい時だけ頼られるキャラになってしまう。

そう思った俺は放課後、前と同じように手伝いをしながら水谷に話しかけた。


 「水谷さんは、こういうの嫌だと思わないの?」

 「こういうのって、仕事を代わりにやっていること?んー、特になんとも思わないかな」


 そう言った水谷の表情はいつも通りで、本当になんとも思っていないようだった。


 「水谷さんはいいかもしれない。でも俺はどうしても納得できないよ。なんだか水谷さんがいいように利用されているようで見逃せないんだ!」

 

 なんとも思っていない水谷を見て、俺はあいつらに対しての怒りをどこにぶつければいいのかわからず、強い口調で言ってしまった。水谷は俺がいつもと違う怒った口調だったのに少し驚いていたが、すぐにいつもの表情に戻って言った。


 「遠藤君は優しいね」

 「お、俺は別に優しくはないよ……。ただ、良い人が損するのを見たくないだけだ」

 「そう思っていることが、遠藤君が優しいという証明だよ」

 「そういうことなら水谷さんの方が優しすぎるよ」

 「違うよ。私のは優しさじゃない。ただ周りに関心がないだけ。だから他人にどう思われてもよくて、でも目を付けられるのは面倒だから目立たないようにしているの。日直の仕事を引き受けたのも、断って面倒なことになるのが嫌だったから。これが私の考え、というか性格なの。だから遠藤君がそこまで気に掛ける必要はないよ、私は大丈夫だから」


 知らなかった、水谷が本当はこんな性格だったなんて。よくよく考えたら俺たちは自分について話したことはなかったなぁ。そういう意味では水谷の新たな一面を知ることが出来て良かったかもしれない。


 「まあそういうことなら俺はあまり首を突っ込まないようにするよ。ただし、何か困ったことがあったときは相談してほしい。俺に出来ることなら力を貸すよ」

 

 そう言うと水谷はまた驚いていた。


 「私の本当の一面を知ったのに、どうして遠藤君はそこまでしようと思うの?それこそメリットはないはずなのに」


 俺が本当の水谷を知ったとしても、それでもこれまでと同じように接していく理由それは……


 「水谷さんは俺にとって唯一の話し相手だからだ!」

 「あはは、やっぱり遠藤君の考えはよくわからないや」


 なぜか水谷に笑われてしまった。まあ嫌われるよりいいや。

 その後、日直の仕事を終わらせ帰る準備をしていた時、俺はふと気づいた。


 「さっき、他人にあまり関心がないって言っていたけど、なんで俺とは普通に会話していたんだ?」

 「あー、それはね、君には少し興味があったからなんだ」

 「え、それって……」


 急にドキドキしてきた。まさかこの展開に行くとは思っていなかった。


 「だって遠藤君って入学当初は色んな人に話しかけていたのに、なぜか突然話しかけようとしなくなって、でもクラスメイトのことは盗み聞きしながら観察していて、一体何が目的なのかよくわからない行動が多かったから。そしたら次に私に話しかけ始めたから、少し気になって相手をしていたんだよ」

 「なんだそういうことか。まあ入学当初は色々と目的があったんだけどね、それを達成するのが難しいことがわかったから他の考えを探していたんだ。まあ俺にも色々あったということだよ。今はもう何にも考えていないけどね」

 「ふーん。その目的については教えてくれないの?」

 「まあ、面白い話でもないし、ちょっと恥ずかしいから誰かに話す予定はないよ」


 そんな話をしていたらいつの間にか校門までたどり着いていた。


 「じゃあまた明日。水谷さん」

 「うん、また明日」


 そうして今日も一日、水谷と仲を深めることができたと勝手に思い込んで帰宅した。


 水谷には俺と同じような経験をしてほしくない。本気でそう思った。


 そして次の日、俺たちは異世界に飛ばされた。



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