柱の竜達
「初めまして、新たなる火のお方。我々はあなたを歓迎します」
にこやかに差し出されるその右手をとにかく握り返す。これが誰であれ、きちんと挨拶されたら挨拶くらいするわよ。もちろん警戒心は全開だけどね。
「初めまして。ええと、あなた達が誰なのか聞いてもいいですか?」
警戒心を隠そうともしない私に苦笑いをして、手を離したその大柄な男性は深々と一礼した。
「これは失礼した。私はマーカス。水の竜だよ」
大柄で優しげな笑顔だけど、年齢不詳。銀色の短い髪に濃い青色の目をしている。かなりのイケメンさん。ううん、これはイケオジて言うのかしらね?
脱線しそうになる思考を無理やり戻して、今聞いたその言葉の意味を考えて目を見開く。
って事は、もしかしてこの人達って……?
私の予想通り、次に名乗ったのはその隣にいた小柄で年配の女性。白髪で空のような水色の目をしている。
「初めまして火のお方。私はデボラ、風の竜よ。新しい火のお方が若い女性で嬉しいわ。どうか仲良くしてね。よろしく」
笑顔で差し出された手は、小さくて柔らかかった。
「ミサキです。どうぞよろしく」
握りかえして名前を名乗る。
「土の竜のモルティよ。よろしくね、火のお方」
次に笑顔で手を差し出してきたのは多分母親世代くらいの女性で、こちらはかなりの大柄でふくよかなお方だった。だけど嫌な感じは無く、人懐っこいその笑顔につられて緊張していた私も笑顔になる。
「ミサキです。どうぞよろしく」
同じく、握りかえして名前を名乗る。
「ラディウス、光の竜よ。よろしくね」
笑顔で手を差し出してくれるその人は、見上げるくらいに背も高く、まるでモデルのような波打つ金髪と金色の瞳をした超ゴージャス美人さん。同じ女性としては争う気も起こらない、純粋に憧れるレベルだわ。だけど年齢不詳。若そうに見えるけど、ねえ……?
「ミサキです、どうぞよろしく」
握り返した手は柔らかくて細い! 何これ、すべすべ〜! かさかさの自分の手がちょっと恥ずかしかったわ。うん、あとでハンドクリームでも塗って……ええと、ハンドクリームなんて有るかしら?
「ファイサルだよ。闇の竜だ」
最後に素っ気なく差し出された手の持ち主は、真っ黒な髪と瞳をしたアラブ系のイケメンさん。多分同世代。
真っ黒なターバンを頭に巻いてて他の人達と明らかに服装が違うので、ガチでアラブ系の人みたい。でも言葉は通じるから問題無いわね。
「ミサキです、どうぞよろしく」
握り返した手はカチカチで、あちこちに硬いタコが出来ている。何してる人なんだろう?
手を離すと、ちょっと赤くなって横を向くのを見て、なんだかおかしくなった。
無愛想に見えたのは、もしかして照れていたのかしら?
「挨拶は済んだな。では我らからの贈り物を渡すとしよう」
水の竜のマーカスさんがそう言って差し出してくれたのは、吸い込まれそうな真っ青な握り拳ほどもありそうな石。この輝きは多分宝石。だけどカットはされていなくて、やや歪な丸い形をしている。
「ふむ、妙齢の女性に贈るのならばカットすべきかな?」
小さくそう呟くと、彼の持つその石の横に突然大きな魚が現れた。
それは、長いヒレと尻尾を持った優雅な青い魚。だけど不思議な事に空中に浮いていて、彼の持つその石の周りをクルクルと飛ぶように泳いでいる。なんとも優雅な身のこなしだ。
すると、突然持っていた青い石がピカッと光って見事にカットされた宝石になった。しかも大きい!
「どうぞ、私の守護石のブルーサファイアです。あなたの杖に嵌めておくと良い」
笑顔で差し出されても、はいそうですかとホイホイ受け取れるものじゃないわよ。これ、一体いくらすると思ってるの?
受け取らない私を見て、マーカスさんは困ったように他の人達を振り返る。
私もその視線を追って彼らを見ると、それぞれの手にいろんな色の石を持って、同じく差し出しているのよ。
風の竜のデボラさんの手にあるのは、乳白色の石の中に虹色の煌めきが見える。あれは間違いなくオパールだわ。しかも、これもとんでもなく大きい。
隣の土の竜のモルティさんの手にあるのは、握り拳よりも大きな丸い石で、多分琥珀。すごく綺麗なウイスキーみたいな黄金色をしている。これが一番大きいと思うわ。
光の竜のラディウスさんが手にしている多面体にカットされた玉は、ピンポン球くらいなので他の人達よりはかなり小さめだけど、あの煌めきは間違いなくダイヤモンドだと思うわ。無色透明の石であれほどの輝きを放つ石なんて、他にないわよね?
闇の竜のファイサルさんが持っているのは、この中では一番地味と言っては失礼かもしれないけど真っ黒な石だった。大きさもラディウスさんと同じくらいで、多面体にカットされている。
オニキスかしら? それともヘマタイト?
頭の中にある黒い宝石って言われても、それくらいしか思いつかなかった。
「あの……?」
真正面から断るべきなのか、それともありがとうございましたと貰うべきなのか、判断がつかなくて困っていると、私の目の前に笑顔の不親切チュートリアルちゃんが飛んできた。
「まずは、遠慮なく貰っていいわよ。それぞれの石があればその石の魔法も使えるようになるし、全部の石が集まればあなたの守護石のルビーも作れるからね。ほら、全部貰って。そして貴女の石を返さないと」
ぺしぺしを私の額を叩きながらそう言われて、半ば呆然と、差し出された巨大なブルーサファイアを受け取る。
杖が欲しいと思った瞬間、私の手の中にあの貰った杖が現れた。
「良い杖だ。その石はここに入れるといい」
「分かりました、ありがとうございます
マーカスさんに杖の上の絡まる枝の部分を指差されて、お礼を言ってそこに石を持っていく。
絡まる枝は、あっという間に石を飲み込んで絡めとってしまった。枝の隙間から収まった青い色が見える。
「素敵な杖ね。じゃあ私の石はここに入れてね」
当然のように次々に渡されて、その度にお礼を言って杖に押し込むのを繰り返した。
ようやく落ち着いて、改めて杖を見て貰った石を確認する。
水の竜がくれた守護石は、ブルーサファイア。
風の竜がくれた守護石は、オパール。
土の竜がくれた守護石は、予想通りの琥珀だった。
そして光の竜のくれた守護石は、これも予想通りのダイヤモンド。
ピンポン球サイズのダイヤモンドって、いくらするのか考えて気が遠くなったわよ。
そして最後の地味だと思っていた黒い石は、なんとブラックダイヤモンドでした。
戸惑いつつも改めてお礼を言うと、皆笑顔で笑っているだけ。
すると、また不親切チュートリアルちゃんがまた目の前に現れてこう言ったのよ。
「ほら、何してるの。貴女の石を返さないと」
当然のようにそんな事を言われても、やっぱり私には何の事だかさっぱり分かりません。
お願いだから、誰か私に詳しい説明をしてください! お願いだから!
ってか、どこにいるのか知らないけど一言言わせて!
創造神様!
もうちょっと説明の上手な子を寄越して欲しかったわよ!




