二度目の郊外採取
「さあてっと、それじゃあ出掛けるとしますか」
あれから一旦家に戻った私は、収納しているワードローブから郊外用の服を幾つか取り出して並べ、コーディネートしてから順に身につけていった。
今日の私のスタイルは、シンプル冒険者風。
アイボリーの厚手のシャツに革製のベストを着て、濃い緑色の細身のカーゴパンツスタイル。足元はしっかりした革製のブーツ履いてる。
この革製のベストは、たまに冒険者でも着ている人を見るデザイン。あちこちにポケットやナイフを取り付ける金具なんかが付いていて、ちょっと軽装の防具っぽくてなんだか格好良い。
そして、大柄の迷彩っぽいペイズリー模様の染めが施された大きめのマント。
これは真っ黒な艶のある金属の金具がちょっと格好良い、いわゆる中二病的マントで、実は割と気に入ってる。
このコーディネートを現実世界ではさすがにちょっと着る勇気はないけど、ここでなら全然普通に見えるから不思議よね。
準備も出来たので、杖を取り出して手に持った私は、淡雪達と一緒に今日も郊外へ出て行ったのだった。
「ええと、次はなんだっけ?」
淡雪に乗せてもらって無事に郊外の採取場所に到着した私は、眷属達に手伝ってもらいつつ、貰ったリストを片手にせっせと採取に勤しんでいた。
採取場所の少し奥には鬱蒼と生い茂る深い森があり、ちょっと軽装では入るのを躊躇うレベル。絶対あの中には獰猛な野生動物とか毒蛇とかがいそうなレベル。
それに対して私達が採取している場所は、一転して見晴らしと日当たりの良い広い草原地帯になってる。
「本当に郊外へ出ると人がいないわね」
見渡す限り、見えるのは木と草と岩。それだけ。人工物も人も、全くいない。
「地図を見た時はもっと文明の進んだ世界かと思ったけど、人は全部で十二の街と、その近郊にある村に集中して集まって住んでいるだけで、それ以外の場所は基本的に人の住む領域じゃあないって事なわけね」
苦笑いした私の呟きに、薬草を集め終えた茜が戻ってきてうんうんと頷いている。
「そうですね。郊外では出現する野生動物や魔獣も深部へ行けば行くほど強く大きくなりますから、人の子が基本的行く事が出来る範囲は、ある程度限られると思いますね」
「ええと、ちなみに今いるここは……?」
「もちろん、人の住む街からは相当離れていますよ。ですので、ほぼ間違いなく人の子には来る事すら出来ない場所でしょうね。先ほど通り抜けてきた大きな木がたくさんあった深い森は、冒険者の間では『迷いの森』と呼ばれて恐れられている危険地帯です。風と土の眷属を従えていなければ、ほぼ間違いなく森の中で方角を見失って道に迷って一巻の終わりですね。あの森には大型の魔獣も複数生息しておりますから、それに見つかってもその瞬間に終わりでしょうね」
茜が平気そうな顔して、なんだかもの凄く怖い事を言ってる。
「待って待って、それだと私も危ないのではなくて? よくナディアさんはそんなところに平気で来られたわね」
慌てて周囲を見回しながらそう言うと、茜は笑ったかのように目を細めて少し首を傾げながら私を見上げた。
「ミサキ様はまたご自分が何者なのかお忘れのようですね。ご心配なく。森に住む魔獣如きが火の竜であるミサキ様を害する事など決してございませんよ」
「人の姿でも?」
「我らの存在をお忘れですか?」
暗黒丸が目の前に現れ小さく震えた。それはまるで笑ってるみたいに感じたわ。
「しっかりと我らがお守りしておりますので、どうぞご安心を」
周りに現れていた他の眷属達も、揃って笑ったみたいに小さく震えたり跳ねたり羽ばたいたりしている。
「そっか、ありがとうね」
手を伸ばして順番に撫でてやり、最後に白磁と暗黒丸を手の中で一緒に転がしてあげた。
最初は寡黙で陰キャなのかと思っていた暗黒丸だけど、必要な時にはしっかり喋ってくれるのよね。それにファイサルさんはあまり役には立たないかもなんて言ってたけど、そんな事ないよね。戦闘力高いし、あの黒いロープは汎用性高そう。
「はい、じゃあこれからもよろしくね」
笑ってそう言い、そっと淡雪の背中に白磁と暗黒丸を転がしてやる。
暗黒丸はすぐに消えてしまったけど、白磁は淡雪の真っ白な毛皮が気に入ったみたいで、コロコロと背中を転がり、そんまま跳ね飛んで淡雪の頭の上に収まってしまった。
「白い毛皮に白い珠だから、全然目立たないわね。隠密行動中ですか?」
そっと白磁を突っついてから、私も薬草摘みを再開した。
その後、琥珀の案内で三箇所の採取場所を回り、貰ったリストのほぼ八割くらいの素材を採取する事が出来た。
琥珀によると、残りの二割は、時期がずれているので採取するならちょっと細工が必要だったり、日帰りでは行けないくらいに遠い場所に行かなければ採取出来ないんだって。
それなら、遠出するつもりで準備をしてまた日を改めていった方が良さそうね。
「そろそろ日も高くなってきたし、お昼休憩にしようと思うんだけど、ここで食べても大丈夫?」
ここなら座って食事にするのは全然大丈夫そうだけど、あっちの森には危険な魔獣なんかがいるって聞いたから、ちょっと怖い。
大丈夫だと言われても、私の短い人生の中で魔獣に遭遇した事なんてないんだから、たとえ大丈夫だよって言われても怖いと思うのは当然よね。
森を気にする私を見て、淡雪が立ち上がった。
「それなら岩場のあるところへご案内しましょう。あそこなら見晴らしも良いし、岩の上なら安全度はさらに増しますからね」
「初日に食べたみたいに岩の上で食べるのね。なるほど、岩の上は安全なんだ」
「はい、では参りましょう」
そう言って伏せてくれた淡雪の背中に乗って、ひとまずお昼休憩のために場所を変える事にしたのだった。




