アップルワインの美味しいお店
「ううん、今日はどこにしようかなあ」
さっき、ナータちゃんと一緒に果物を食べているから夕食は軽めでもいい。だけど個人的には祝杯をあげたい気分なので、ちょっと飲めそうな店を探してみよう。
のんびりと店を見ながら通りを歩き、
あのビーフシチューが美味しかったイケおじマスターのいる店の並びに、良さそうな店を見つけてそこに入ってみた。
アンティークな銅製のランプがいくつも吊るされた店内は、薄暗いけど思ったよりも奥に広い。
「いらっしゃい」
カウンターの中にいたのは猫の獣人でとても大柄な男性。それから、同じく猫の獣人の小柄な女性がトレーを持って立っていて揃って私を振り返った。
店内は半分くらいの席が埋まっていて、全員が獣人だ。
「ええと、従魔がいるんだけど一緒でも構いませんか?」
一瞬、獣人の専門店なのかと思ったけど特に表記は無かったから大丈夫よね? だけど一応そう尋ねてみる。
「もちろんご一緒にどうぞ。ご覧の通り、店員はどちらも獣人だけど構わないですか?」
小柄な女性スタッフさんが笑顔で駆け寄ってきてくれたので、私は笑顔で頷いた。
「ええもちろん、よろしくね」
勧められてカウンター席に座る。
心得ている淡雪は、私の足元に大人しく座って小さくなってる。
メニューを見せてもらって、本日のお勧めのワンプレートになった食事と、この店オリジナルなのだというアップルワインをお願いしてみた。
「はいどうぞ」
マスターがカウンター越しに渡してくれたワンプレートには、丸パンと鶏肉の香草焼き、茹でたじゃがいもと温野菜の盛り合わせ、それからうずら卵と鶏卵の間くらいの大きさの小さな茹で玉子が半分に切って並んでいた。
「へえ、黄身の部分を一旦くり抜いてマヨネーズっぽいので和えてあるのね。そこに小さな豆っぽいのが入ってる」
黄色と緑の色合わせが華やか。なんというか全体にカフェっぽいおしゃれなワンプレート。
「では、いただきます」
手を合わせてからまずは玉子を一つ口に入れる。
「うん、ハーブが効いてて美味しい」
小さな豆が入った黄身の部分は、マヨネーズで和えてあってハーブのスパイスが効いててとても美味しい。鶏肉の香草焼きもふわふわでジューシー。そしてパンも中はふわふわで外はパリパリのフランスパン風。
そして、この店オリジナルなのだというアップルワインが、これまた絶品だったわ。
口に含むと鼻に抜ける爽やかなリンゴの香りとごく軽い微炭酸。喉越しも良い。
要するに、思いつきで入ったけどここも大当たり!
「これって多分、シードルっていうお酒ね。うん、美味しい。もう一杯頂けるかしら」
空になったグラスを掲げて見せると、すぐにマスターが新しいのを入れてくれた。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいですよ。初めて見る顔だけど、流れの冒険者かな?」
マスターが笑顔でそう言って足元の淡雪をチラッと見て、それから私を見る。
「まあそうね、この街に家を買ったの。よろしくね」
「おお、それは素晴らしい。是非ともご贔屓に。昼もランチをやってるから、よかったらまた来て下さい」
「へえ、そうなのね。じゃあ今度は昼に来てみるわ」
笑顔で二杯目のアップルワインで乾杯したわ。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかったわ。また来るわね」
笑顔の二人に見送られて店を後にする。
どうやら奥にいた人達はマスターの同郷の人達で冒険者や行商人の人達。獣人が店主の店は珍しいらしく、どうしても獣人が集まって来ているんだって。
「ううん、平和に見えるこの世界も、裏では色々あるみたいねえ。嫌ぁねえ、もう」
ごく軽いワインだったのでそれほど酔ってるわけじゃあないんだけど、何となくもう帰りたくなったので、そのまま家へ帰って火口でドラゴン姿に戻ってもう休む事にした。
「それにしても色々あった一日だったわねえ。なんて言うか、もうちょっと平穏無事がいいんだけどなあ……」
大きな欠伸をした私は、そのまま丸くなってあっという間に熟睡してしまったのだった。
そしていつものごとく唐突な目覚め。おはようございます。
「ふああ、よく寝た」
思いっきり手足と羽根を伸ばして大きな欠伸をする。ドラゴンの姿でする伸びは、なんて言うかものすごく気持ちがいいのよね。
「おはようございます。ミサキ様、よければ少し火の魔晶石をお願い出来ますでしょうか」
茜が出てきてそんな事を言うので、合計5回、たっぷりと作って渡しておいたわ。
なんでも火の魔晶石は今までかなり不足気味だったので、急に復活した火の魔晶石を求めて冒険者達がダンジョンに殺到しているらしい。それで先を争うようにして根こそぎ確保して持って帰ってるから、サラマンダー達の手持ちがどんどん無くなってるんだって。なので後もう5回、大量に作って追加を渡しておいたわ。サラマンダー達も冒険者の皆様もご苦労様です。頑張ってください。
「さてと、今日は商人ギルドへ顔を出して、薬師ギルドで採取して来た素材を卸して練り油ってのを買ってくればいいのね。それで、まずはハンドクリームを作ってみよう。それから午後からは家の片付けかな。期待されているみたいだから、頑張って早めに店を開ける段取りをしないとね」
人の姿に戻って着替えをした私は、まずは食事をする為にメンフィスの街へ戻るために扉を開いたのだった。
さあ、今日も元気に頑張りましょう!




