まさかの展開!
「ふええ〜〜! まさかの作者様ダイレクトルート出現!」
思わず叫んだ私の言葉にテラさんが吹き出す。
「そうよ。あんな素晴らしい絵を見せられて、恋シリーズ最初のファンを自認する私が知らん顔出来るわけないでしょうが!」
まるで少女のようにキラッキラに目を輝かせたテラさんの叫びに、私も遅ればせながら吹き出したわ。良いわね、好きってことに対するこの貪欲さ。まさかこんな所に仲間がいたとは。
「あれは単に私が思いつきで描いた絵なんだけど、気に入ってくれたのなら嬉しいわ。もちろんお願いします。あれを見た作者様がどう思われるかは分からないけど、私が作品を好きだって事だけは絶対に伝えてね」
はっきり入って超恥ずかしいけれど、あのイラストを見て貰えば、一万文字のファンレターを書くよりも私の、好き! って気持ちは届くと思う。
「それに、絵を描いて欲しいって言ってくれて嬉しいわ。もちろん描かせてもらうけど、あれでお金をいただくのはちょっと……」
完全に二次創作なんだし、別に本職のイラストレーターってわけじゃあないしね。
照れたように笑ってそう言ったんだけど、テラさんはものすごい勢いで首を振った。
「それだけじゃあないわよ。もちろんローズリィに許可をもらってからになるけど、私が個人的に欲しいのとは別に、貴女の絵で版画師に原盤を彫ってもらって、数量限定で版画を出したいと思ってるの。あの絵なら絶対に売れるわ! 恋シリーズのファンは間違いなく欲しがるわよ! 現にギルド中の恋シリーズのファンから、絶対に作ってくれって泣きつかれてるんだもの!」
「な、なるほど……あのギルドに入って来た時の大騒ぎはそれだったわけね」
乾いた笑いをもらす私に、テラさんが満面の笑みで頷く。
「貴女がこの街に来てくれて本当に嬉しいわ。もちろん、開店に関しても力一杯お手伝いするけど、この絵に関しても全力でお手伝いするから、本気で絵の仕事をお願いしたいのよね」
「あはは、どこまで描けるか分からないけど、ご期待に添えるように頑張るわ」
「もちろんよ! どうかよろしくね!」
まあ、絵を描く事自体は決して嫌いではない。いや、むしろ大好きなんだけど、だからこそアナログの道具しかないこの世界で、趣味じゃなくて仕事として考えた時、どこまで描けるか正直言って自信が無い。
若干引き気味の私と違い、テラさんは終始テンションマックスだったわ。
「ところでさあ、ちょっと一つ聞き逃せない言葉を聞いた気がするんだけど」
ふと我に返った私は、テラさんの腕をポンポンと叩く。
「ええ、どうしたの?」
「今、恋シリーズ最初のファンを自認する私って言ってたけど、あれってどういう意味?」
何となく予想はつくけど、まさかまさかなので一応言葉にして確認!
すると、テラさんはにっこりと満面の笑みになった。
「だって、ローズリィとレディパープルは私の幼馴染なんですもの!」
「はああ? 幼馴染〜〜??」
真顔で叫んだ私を見て、テラさんがうんうんと頷く。
「そう、レディパープル……まあ、もちろんこれは本名じゃないんだけど、彼女は、そういった創作が大好きだった。吟遊詩人が来るたびに後を追いかけ回してお話をせがんでたわ。その彼女が書いた様々な世界のお話を、幼い頃からいつも私達は読ませてもらっていたの。彼女は私なんかでは思いもつかないような本当にいろんな話を書いてくれて、読む度にワクワクが止まらなかったの。それで私がギルドマスターになってしばらくして、レディパープルがとある事情でお金の事で苦労してるって話を聞いてね。それであの貸し本業を提案してみた訳。予想以上の大人気になって、その後の人気ぶりはご存知の通りよ。だから私は貴女の言葉を借りれば、一切表に出てこない作者へのダイレクトルートを知ってる貴重な人ってわけ。わかってくれた?」
「うわあ、まさかの幼馴染ルート。でも光栄だわ。じゃあよろしくお願いします」
にっこり笑ってしっかりと手を握り合う。
「じゃあ、あなたの了解も取れたことだし、あのスケッチブックをお借りして彼女に見せて来るわね」
苦笑いして頷く私にテラさんがガッツポーズになる。
「それじゃあ、また何かあったら連絡するから所在だけ分かるようにしてもらえるかしら。郊外へ出る時は、どこかのギルドに連絡しておいてくれれば良いからさ」
「了解。自宅から外へ出るときに一番近いのは冒険者ギルドね。じゃあ、出掛ける時は冒険者ギルドに連絡して行くようにするわね」
「わかった。何かあったそっちに確認するわ」
顔を見合わせてにっこりと笑い合った。
「それじゃあお茶をご馳走様」
立ち上がって出て行きかけてふと立ち止まる。
「そういえば今日集めてきた素材って、まだ店は開けられないから薬師ギルドに卸した方が良いのよね?」
「ああ、それならいつでも受け付けてるから、良かったら卸してくれれば喜ぶと思うよ」
でも、自分でもいくつかは作ってみたい。
「ねえ茜、ハンドクリームの材料とあとは傷薬の材料を少し残してあとは納品すれば良いかしらね」
とりあえず、ハンドクリームは私が欲しい。
「そうですね。それなら薬師ギルドへ行って他を納品する際に、薬に使う専用のねり油を買っておくと良いですよ。ハンドクリームだけではなく、塗り薬を作る際にも必要になりますから」
なるほど。ワセリンみたいなものね。そりゃあ確かにそれは買った方が早そう。
「じゃあ、何があるか整理してから改めて持って来るわね」
「ええ、待ってますのでいつでもよろしく」
そのままテラさんも一緒に戻り、薬師ギルドの受付窓口の場所を教えてもらってひとまずギルドを後にした。
「はあ、びっくりした。まさかの作者様へのダイレクトルートをテラさんが持っていたなんてね。まあ、どうなるかは神のみぞ知る……ここでなら、トゥーマリーク様のみぞ知るってとこかしらね」
そう呟いて思わず吹き出した私は、ギルドを出たところで大きく伸びをして深呼吸をした。
「とりあえず小腹が空いてるから、どこかで少し食べてちょっと飲みたい気分。ううん、今日はどこにしようかな」
いつもの杖を取り出し、淡雪と並んで今日のお店を探しながらまだまだ人通りの多い道をゆっくりと歩いて行ったのだった。




