服って大事よね!
「お願いだから、何か着るもの下さいって!」
しゃがみ込んで半泣きどころか割と本気で泣き出しそうになっていると、苦笑いした妖精さんが何かを差し出してくれた。
「はいどうぞ。そこまで嫌がるって事は、貴女のいた世界では肌は見せないものだったの?」
だけど私は質問には答える余裕なんて無くて、とにかく受け取った物をしゃがんだままで大急ぎで確認した。
「きゃあ! ここでまさかの紐パン!」
片手で摘んで思わず叫ぶ。
そう、畳んだ生地の上に乗っていたのはセクシーランジェリーの代名詞、紛う事なき紐パンだった。
シンプル白一色で左右のリボンで結ぶタイプ。
一応、大事な部分を守る生地の大きさは割としっかりあって、そこはちょっと安心したわよ。
あ、レースの花がセンター部分にちょっとだけ付いている。可愛い。
苦笑いしていろいろ諦めた私は、屈んだまま何とか苦労してまずはそれを履く。
さすがに紐パンを履いたのは初めてだったけど、何もないよりずっと良い。
そしてもう一枚の畳んであったそれは、ブラジャーでは無くて……。
「ええ! ちょっと待って、これってもしかして腹巻き?」
広げてみて、また叫ぶ。
それは、白くて細い糸で編まれた伸縮性のあるニット生地で、筒形の形状といい柔らかな肌触りといい、見るからに腹巻きそのものだ。
「だけど、これって……上下に紐が付いてるわね。んん? 何がどうなってるの?」
片手で持ち上げてよく見てみると、腹巻きの上下に紐が付いている。
「ああ、分かった。チューブトップね、これ」
あんまり動揺してたから何かと思ったけど、冷静になってよく見ると、要するに上下を紐で縛るタイプのシンプルなチューブトップのようだ。
なるほど。しかも薄いけどかなりしっかりした目の細かい編み地になっているから、これがブラの代わりになるってことね。ええ、もちろん有り難くこれを使わせて頂くわ。
「まあ、考えてみたらあのブラの立体裁断は簡単じゃないものね。確かにこれが一番楽かも」
そう呟きながら、とにかくそれも身につける。
胸の上下で紐を縛ると、何だか胸を強調したような状態になったけど、まあ、さっきの素っ裸よりは百倍良い。
ええ、文句なんて無くてよ。でも、まさかこれだけ……?
心配になって妖精さんを振り返ると、彼女は満足そうに頷いて、また畳んだ服を一瞬でどこからか取り出した。
まさかとは思うけど今のも魔法? それとも、アイテムボックス的なあれ?
色々突っ込みたいけど、取り敢えず服を着てからにしよう。
「じゃあ、次はこれを着てね」
差し出されたそれは、濃いベージュの柔らかな生地で作られた、少し細身のズボンだった。
パッと見た感じはレギンスみたいだけど、伸縮性はあまり無い。だけど不思議と窮屈な感じはしなかった。これもウエストの部分をやや太い紐で縛るタイプ。
「そっか、ゴム紐がないと、紐で縛るか金具かボタンで留めるしか無いわけね」
紐を結びながらそう呟いて、もう一枚を広げてみる。
それは立ち襟のタイプで前開きの長袖で丈の長いワンピースだった。前はボタンで留めるみたい。
色は少し濃いめの紺色。何となく藍染っぽい。素材は多分麻かな。だけどかなり柔らかい手触りだから、もしかしたら綿麻なのかもしれない。
ボタンの付いている前立て部分と、立ち襟の部分が薄い水色に切り替えられていて、なかなか可愛いデザインになってる。
素直に袖を通し、ボタンを全部留めるとようやく安心出来た。
「はあ、これでとりあえず人心地ついたわ」
そう呟き、ため息をついて顔を上げる。
人って、服を着ただけでここまで安心するものなのね。
「大きさも丁度良いみたいね。あとはこれをどうぞ」
次に取り出して渡してくれたのは、やや厚手の白の靴下とあめ茶色の革のブーツだ。
とても柔らかそうな革で作られていて、足首の上まである少し緩めになった可愛らしいデザイン。少し厚めの靴底だけど、軽くて歩きやすそう。
嬉々として靴下と靴を履く。
ここまでやって、ようやく安堵のため息がもれた。
「はあ、ようやく人間になれた実感が湧いてきたわね」
襟元をのボタンを撫でながら、ようやく笑う事が出来た。
「もう良いかしら?」
笑った妖精さんに覗き込まれて、誤魔化すように笑う。
「ごめんね。ちょっと慌てたわ。素敵な服と靴をありがとうね」
ワンピースの裾を持ってそう言うと、妖精さんは嬉しそうに私の周りを飛び回った。
「じゃあ、一度元の姿に戻ってくれるかしら。もう一つの大事な事を教えるから」
あらら、せっかく着たのに、また脱がなきゃならないんだろうか?
残念に思いつつワンピースのボタンを外そうとすると、妖精さんは私の手を押さえた。
「あ、脱ぐ必要はないわよ。そのままで大丈夫だから」
その説明に驚いて妖精さんを見ると、彼女は自信ありげに頷いてくれた。
「ええと、じゃあドラゴンに戻れば良いのね」
ドラゴンの自分がどんな姿だったかあまり記憶にないが、大丈夫だろうか。
不安に思いつつ、ゆっくりと目を閉じてドラゴンだった時の姿を思い出してみる。
大きな身体、長い首と尻尾、そして背中にある大きな翼。
次の瞬間、私はあの巨大なドラゴンに戻っていた。
だけど、着ていた服も履いた靴もどこにも落ちていない。
「上手くドラゴンの姿に戻れたわね。これはもう慣れだから、暇を見て練習しておいてね。人の姿の時に持っていた物や、身につけていた物は、そのまま収納されて、次回に人の姿に戻った時には元に戻るからね。あ、生きているものは収納出来ないから、それは残るから間違わないように」
「収納?」
「そうよ、今の貴女でも出来るわよ。収納は、持っている物を収めておく空間の事。出し入れは自由、中にあれば時間は経過しないからね」
へえ、それって要するに時間停止のアイテムボックスの事ね。素晴らしい、さすが異世界。有り難く使わせてもらうわ。
そして言われてみれば、確かに何か持っているのが感覚的に分かった。自分の背後に大きなクローゼットがあるみたいな感じ。
何となくだが、頭の中にさっき身に付けた服が一覧になっているみたいな感じも分かる。だけど、試しに靴を取り出してみようとしたけど、何故か出来なかった。
「基本的に、身に付けている服や靴は単体では取り出せないからね。あ、持っている鞄はそのままなら取り出せるわよ」
戸惑っていると、笑顔の妖精さんが教えてくれる。
「へえ、つまり装備していたら取り出せないわけね。鞄は一つのアイテムだから、それ単位では取り出せると。ふむふむ、よく分かったわ」
試しに人の姿に戻ってみると、簡単に一瞬で戻る事が出来た。今度はちゃんと服を着て靴も履いている。
満足して、もう一度ドラゴンの姿に戻る。
「素晴らしいわね。難しいと言われる変化の術を、もう易々と使いこなしている。やっぱり貴女は優秀だわ」
嬉しそうに褒められて、恥ずかしくなってドラゴンの姿のままでちょっとだけ肩を竦めた。




