お茶と食事と今後の相談
「とりあえず、まずは水を飲んでちょうだい」
そう言って、空のカップを取り出して水晶魚の瑠璃に水を出してもらう。
「あ、ありがとう……ございます」
呆然としながらもカップを受け取ったナータちゃんは、一口飲んだ後はもう貪るようにして飲み始める。
その様子を見ながら、私は手持ちの食料を思い出して考え込んでしまった。
「ううん、絶食してたんなら、いきなりハンバーガーとか、居酒屋で買った味の濃いビーフシチューを食べさせるのは無理よねえ。どうすれば良いかなあ」
「ミサキ様、獣人は頑丈ですから、今朝買ったパン程度なら大丈夫だと思いますよ」
茜がそう教えてくれたので、その言葉を信じて手持ちのハンバーガーをいくつか取り出して、お皿がないので大きめのハンカチを広げてその上に乗せて包む。
一応パテはハンバーグみたいに柔らかいお肉だから良いわよね?
トマトを取り出して、ちょっと考えて、水晶魚の瑠璃に水を出してもらって軽く洗ってからナイフでカットする。
大粒のイチゴは、私も食べたかったのでちょっと多めに取り出して、これも洗ってもらう。
イチゴを入れていた、葉で作った円錐形の即席カップに洗ったイチゴとカットしたトマトを並べる。フォークなんて無いから、とりあえずは手掴みで食べてもらうしかないわね。
うん、全然思い付かなかったけど、郊外で簡単にでも食事をするなら食器やカトラリーが必要だったわね。街へ戻ったら、冒険者用のお店を探して、携帯用のお皿とカトラリーなんかも幾つか買っておこう。
それから、お茶セットを取り出して、また瑠璃にたっぷりの水をヤカンに出してもらって火にかける。
そこまでしたところで、ナータちゃんがポカンと口を開けて私を見ているのに気がついた。
「す、すごい……そんなにいとも容易く水晶魚を呼び出して、こんなに綺麗な水を大量に出すなんて……ミサキ様、凄いです〜〜〜〜!」
感動したようにそう言われて、誤魔化すように笑いつつ沸いたお湯で二人分の紅茶を入れた。
「はい、紅茶よ。熱いから気をつけてね。ミルクを使うならこれをどうぞ」
ちょっと濃いめの紅茶を空になったカップに入れてやり、ミルクの瓶も小さめのを一つ取り出してミニテーブルの上に置く。さっき取り出したハンカチで包んだパンも、ここに置いてある。
「しかもこれだけの量を収納出来るなんて、凄い、凄すぎる……」
感動に打ち震えて、さっきから尻尾の先がプルプルと小刻みに震えている。あの尻尾、ちょっと触ってみたい衝動に駆られるけど、さすがに失礼よね。
「まあ、とにかく食べてちょうだい。お腹空いてるんでしょう?」
「い、良いんですか?」
そう言いつつも視線は目の前に並んだパンに釘付け。
「どうぞ遠慮なく。だけど絶食してたみたいだから、ゆっくり食べてね。慌てて食べると喉に詰まるわよ」
何度もコクコクと頷いたナータちゃんは、手を握り合わせて深々と頭を下げて真剣に祈りを捧げてから、顔を上げると目を輝かせてハンバーガーにかぶりついた。
「美味しかったです。本当にありがとうございました!」
かけらも残さず綺麗に平らげたナータちゃんは、改めて私に向かって深々と頭を下げた。
「お腹いっぱいになったなら良かったわ。それで、どうして貴女はあんなところで一人でいたの?」
誤魔化さずにはっきりと聞いてやる。
すると、ナータちゃんは明らかに狼狽えたみたいに私を上目遣いに見て、それから大きなため息を吐いた。
「私は西の境界線に近い獣人が住む辺境の村の出身です。森で魔獣に襲われて亡くなった冒険者だった両親が借金を残していたからと言って、ある日突然家に人狩り達が押しかけてきて、家をめちゃめちゃにした挙句に私を捕まえたんです。必死に抵抗したんですけど……多勢に無勢で。それで、あいつらが獣人は人気があるんだって、辺境の村なら警ら隊も手が届かないから、死んだ奴が相手なら借金を残した事にすれば簡単に子供を手に入れられるって、酔った勢いで話してるのを聞いてしまったんです」
驚く私に、ナータちゃんは空になったカップを握りしめた。
「それで、奴らが移動するタイミングで隙を見て逃げ出したんです。縛られていた縄は、隠し持っていたナイフで切りました」
そう言って、一瞬で手の中に刃渡り10センチくらいのナイフを取り出して見せた。
「あら、貴女も収納出来るのね」
「これが精一杯です。だけど、これがあったおかげで逃げられたんですから、少ないなんて文句を言わずに感謝しないといけませんよね」
成る程、収納にも容量の大小があって、彼女はあれを収納するのが精一杯なわけか。
「良かったわね。だけどそれなら、街へ戻っても借金の事実は残ってるわけよね?」
「証文も無しに、ただ借金があると言っても正式な場では通用しません。だからこそ、奴らはこそこそ辺境の地を廻って獣人を集団で襲って集めているんですよ」
「ひ、ひどい話ね……」
力無く頷いて、また大きなため息を吐く。
「本当なら、溜まったお金でもうすぐメンフィスの街へ引っ越そうってそう言っていたんです。だけど、そのお金も全部取られてしまいました」
「じゃあ村へ帰っても住むところが無くなっちゃったわけね」
小さく頷き、またため息を吐く。
「とにかく、どこか近くの街まで逃げて商人ギルドに助けを求めます。一応これでもメンフィスのギルドに登録していますので、何とかなると思います」
そう言って、商人ギルドのギルドカードを取り出して見せてくれた。確かに私が持っているのと同じカードで、店舗名は無く登録者名はナータ、登録地はメンフィスで居住地がハイディ村と書かれていた。どうやら実店舗がなくても登録出来るみたいね。行商とか屋台とかかな?
「あら、それならメンフィスの街へ戻ったら、商人ギルドへ行った方がいいかしらね。冒険者ギルドへ報告しようかと思ってたんだけど」
そこまで言ってから考える。
「ええと、実を言うとあなたを発見する前に、森で騒いでいる人狩り達を見つけて一網打尽にしたのよ。それでメンフィスの冒険者ギルドに引き渡したのよね。多分、貴女が捕まっていた奴らだと思うわ」
「ええ、あいつらをですか? でもまあ……ミサキ様なら納得します。良かった……それなら少なくとも、もう怯える必要は無さそうですね。本当に何から何までありがとうございます!」
また嬉しそうにそう言って笑うナータちゃんを見て、私も笑って立ち上がった。
「じゃあ、とにかくメンフィスの街へ戻るから一緒に来てくれる? 冒険者ギルドと商人ギルドなら紹介してあげられるからさ」
その言葉に、ナータちゃんは嬉しそうな笑顔になる。
ここまで話を聞いて、このまま放置していくほど私は不人情じゃない。
相談の結果、淡雪にナータちゃんを乗せてもらい私は大きくなってくれた琥珀に乗ってひとまずメンフィスの街まで一緒に帰る事にしたのだった。




