後始末と発見
「ああ、そこにも痛み止めに使える薬草があるわね。採取してくれるかしら」
「了解です。こちらに血止めの薬草もありますから一緒に採取しておきますね」
「ふう、定番の薬草は私でも見分けがつくようになってきたわね」
茜とサラマンダー達がせっせと採取してくれるのを、琥珀の上に乗ったままの私はそう呟いて小さく笑った。
そんな風にして、琥珀と茜に教えてもらいながらせっせと周囲の薬草採取をして現実逃避していると、ガタガタと大きな音と共に大勢の人達が馬や荷馬車に乗って駆けつけて来てあっという間に周囲は大騒ぎになった。
馬から降りた揃いの制服を着た軍人か警察っぽい人達が、地面に転がる男達を改めて縄で縛り直しているのを、私は少し離れた所から琥珀に乗ったまま黙って眺めていた。
その時、大柄な人間の男性が満面の笑みで琥珀に乗っている私に近づいて来た。
「連絡をくれたミサキって冒険者はあんたかい。初めまして。冒険者ギルドのギルドマスターのガボットだよ。こいつらは全員指名手配中のタチの悪い人狩り達と奴隷商人でな。何度も追跡の手を逃れやがって難儀してたんだ。それを全員生かしたまま捕らえてくれるとは、いやあ、あんたすげえな」
「はあ、成り行きで捕まえただけだったんですけど、やっぱり悪い奴等だったんですね。お役に立てたのなら良かったです。でも、戦ってくれたのは私の眷属達だから私は何もしてませんよ」
「何言ってるんだ。その眷属を従えてるのはあんただろうが。いやあ、すごいやつが登録してくれたもんだ。活躍期待してるよ! それじゃあな!」
これまた笑顔でそう言い、グローブみたいな大きな手を振ったギルドマスターのガボットさんは、制服組のところへ駆け寄って行った。
「通報感謝します! 恐れ入りますが、冒険者ギルドのカードをお持ちでしたらご提示をお願いします!」
その時、一人の制服を着た若い男性が私の近くまで来て、直立してそう言って敬礼した。
「ああ、ちょっと待ってください」
さすがに琥珀に乗ったままは失礼かと思って、一旦降りてから収納していたギルドカードを渡す。
私のギルドカードを受け取ったその人は、それを見ながら手にしていたファイルから取り出した書類に何かを書き込み始めた。
「はい、これで結構です。報酬は口座への振り込みとなりますので、明後日以降で窓口で確認をお願いします」
笑顔でカードを返してくれたその人は、もう一度敬礼してそのまま回れ右をして走って戻って行った。
「ううん、敬礼されちゃったよ。しかも報酬が出るんだって。臨時収入ね。それよりあれってギルドの職員さんなのかしらね?」
ギルドマスターと話をしている制服の人達を見ながら首を傾げる。
「彼らは、メンフィスとヘルムデンを始め、この周辺の街の警備を担当している警ら隊の人達ですね。一つの街の中の警備はそれぞれの街の自警団が、複数の街にまたがる事件や警備を警ら隊が担当しているんです。なので、今回は警ら隊が出動してくれたようですね」
茜の説明に納得して頷く。
「ああ、確かナディアさんのノートにそんな説明があったわね。へえ、そんな意味だったのね」
ぐるぐる巻きに縛られた男達を荷馬車に放り込む制服組の姿を眺めながら感心したようにそう呟く。
「ええと、もう行って良いのかしらね?」
明らかに撤収準備をしている制服組の人達を見て、私はギルドマスターのガボットさんにそっと近寄って話しかけた。
「あの、もう行っていいですか?」
「おう、ご苦労さん。時間取らせて申し訳なかったな。郊外採取だろう。まあ余計なお世話だろうが、気を付けてな」
笑顔でそう言ってくれたので、一礼して下がり今度は淡雪に乗せてもらってとりあえずその場を離れた。
「ううん、ちょっと時間をとっちゃったけど、どうしようかなあ」
まだ暗くなるにはもう少し時間もありそうだけど、まだ帰るには勿体無い気がする。
「それならばもう少しここで過ごして日が暮れるのを待ちましょう。夜にしか咲かない花があるのですが、それも貴重な薬になりますのでぜひ採取しましょう」
琥珀がそう言ってくれたので、そのあともう少し森の奥へ入っていくつか新しい薬草や薬になる木の実を採取して回った。
綺麗な夕焼けが消えて辺りが暗くなると、白磁が光を放ってくれて、それを頼りに琥珀の案内でその花が咲いているのだと言う池のほとりへ向かった。
「うわあ、綺麗」
到着したそこは、真っ白な小花が咲き乱れる場所で、ほんのり良い香りもしている。
「では採取して参ります」
茜の声に、またサラマンダー達が現れて白い花をぱくぱくと食べ始めた。
まあ、食べたんじゃなくて実際には採取してくれてるんだけど、パッと見た感じ、花を食べてる真っ赤なトカゲって言うなかなかシュールな光景になっていたわ。
私もしゃがんで、小さな花を摘んで回った。
「花の首だけ千切るって、何だか申し訳ないわね」
薬になるのは花の部分だけなので、花だけを摘むように言われたのでその通りにしているけど、なんだか可哀想な気がして、ちょっと気が咎める。
「ミサキ様。こうやって花だけを摘めば、すぐ下の葉の根本からまた次の花芽が出るんです。ですが根本から枝ごとちぎってしまうと、次の花が咲くまでかなりの時間がかかります。なので、このように必要な花だけを摘むようにしているのですよ」
こっちを振り返った茜にそう言われて、感心して頷く。
「へえ、ちゃんと理由があるのね。了解。じゃあ遠慮なく千切らせてもらうわ」
笑ってそう言い、あとは遠慮なく花を千切って採取して回った。
しばらく黙々と採取していると、不意に寛いでいた淡雪が起き上がって顔を上げた。
直後に暗黒丸が飛び出して来て、空中でまた一斉に数を増やした。
「今度は何?」
採取していた花を慌てて収納して、杖を取り出して構える。
もしかして、人狩りの残党?
しかし、ガサガサと音がして森側の茂みから転がるようにして出てきたのは小柄な猫の獣人だった。
そのままバッタリと地面に倒れ込んで動かなくなってしまった。
「ええ、ちょっとどうしたのよ!」
その子は、明らかにボロボロになった服を着ているが、見えている腕は酷い内出血のあざと怪我だらけで、三毛のふわふわの毛もあちこち血が付いて酷い有様。それは一瞬駆け寄るのをためらうくらいに酷い有様だった。
「もしかして、あの人狩り達が言ってた、逃げた奴隷……?」
小さくそう呟き、とにかくその子に私は慌てて駆け寄ったのだった。




