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ドラゴン商店は素材屋さん  作者: しまねこ


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トラブル発生!

「戻って来ないわね」

 悲鳴が聞こえた方角を調べに行った風呼び鳥の浅葱は、一向に戻って来ない。

 あれっきり悲鳴も誰かの騒ぐ声も聞こえず、私は岩の上でじれったい思いをしながら浅葱が帰ってくるのをひたすら大人しく待った。



「ううん、ここで何もせずにただ待つだけってのも辛いものねえ」

 多分10分くらい待っただろうか。小さくそう呟いてため息を吐いた時、羽ばたく音がして不意に目の前に浅葱が現れた。

「お待たせしました。どうやら、奴隷商人と人狩り達が騒いでいたようですね。奴隷が逃げたと言って怒り狂っています。念のため、東側の森へ行くのは今日のところは止めておいた方が良さそうですね」

 その言葉に私は目を見開いた。

「ええ、ちょっと待って! 奴隷って……この世界にはそんな人達がいるの?」

 すると、浅葱だけでなく他の眷属達までもが嫌そうに首を振った。

「もちろん表向きはそのようなものは決して許されておりません。ですが、実際には裏ではそのような者達が住み込みの下働きなどの名目で取り引きされているのが現状ですね。特に、見た目が美しい獣人は、奴隷として高値が付くと言われていますね」

「また、獣人の子供も同じです。非常な高値がつくと聞きます」

 茜と浅葱の説明に、私は何だか悲しくなってきた。

「違う人種が等しく存在する世界で、それなのに人を物みたいに取引しようとする奴がいるなんて……」

「どうなさいますか?」

 暗黒丸がふわりと浮き上がって私の目の前へやって来た。

「浅葱を始めとする風呼び鳥達の報告によると、人狩り達は全部で六人。うち武器を帯刀しているのは五人、精霊使いはいないとの事です。ミサキ様のご希望があれば打ち倒すことは容易いですが、いかがなさいますか?」

 当然のようなその言葉に絶句する。

「打ち倒すって、具体的に言うと……殺すの?」

 一瞬戸惑うように震えた暗黒丸は、軽く跳ねて私の手の中に飛び込んできた。今は棘はなくて黒い玉のままだ。

「ミサキ様のお心のままに。殺すなと、そう命じていただけば生かして捕らえます。殺せとお命じになられればそのように」

 ごくりと唾を飲み込んだ私は、震える指を隠すようにぐっと拳を握った。

「殺さないで、私はあなた達に誰も殺めて欲しくないわ」

「かしこまりました。ではそのように」

 真っ黒な玉なのに、何故か暗黒丸が笑った気がした。

「では参りましょう。誰が自分達を捕らえたか、奴らに思い知らせてやらねばなりません」

 暗黒丸の声に頷き、土猫の琥珀が一瞬で大きくなって私に背を向ける。

「ではここにお乗りください。首の辺りの毛をしっかりと掴んでくださいね」

 コクコクと頷き、琥珀の背中によじ登る。

 淡雪と同じくらいの大きさなので、乗るとそれなりの高さになる。

「では参りましょう!」

 そう言って大岩から軽々と飛び降りた琥珀は、そのまま東の森へ向かって走り出した。当然のように淡雪がその隣にピッタリと遅れずについて来る。

 そのまま岩場と高低差のある草地を走り抜け、遠くに見えていた東側の森の中へ飛び込んでいく。

 大きな森とはいえ、そこは比較的空間のあるやや開けた森で、下草は深いものの淡雪や巨大化した琥珀なら問題なく走る事が出来た。

 風呼び鳥の浅葱が案内するように私達の少し前を飛び、それ以外の眷属達は一旦杖の中に戻っている。



 そのまましばらく走っていると、不意に前方から怒鳴り声が聞こえてきた。

「逃げられましたですむか! あれはもう売り先が決まってるんだ。なんとしても探し出せ!」

 怒鳴り散らしているのは明らかに人間の男性で、それ以外にその場には三人の人間の男達の姿が見えた。

「浅葱の報告では、全部で六人って言ってたわよね。後の二人は……」

 少し離れた巨木の影に隠れた私は、遠目に見える一団を確認して小さな声でそう呟いた。

「ああ戻ってきましたね。これで全員集まりました。琥珀、茜、ミサキ様をお守りしてくれ」

 杖から暗黒丸が飛び出して来て、当然のようにそう言って残り二人が戻って来た一団の元へふわりと飛んで行く。

 残りの眷属達も全員飛び出して来て、私の周囲に集まる。

「では参りましょう。私が先行しますね」

 振り返った淡雪がそう言うと瑠璃と一緒に音も無く走って行ってしまった。

「ミサキ様は、このままそこで杖をお持ちになって奴らを睨みつけていてください。あとは我らが」

 琥珀の言葉に杖を握りしめて小さく頷く。

 その時、前方の一団に淡雪がいきなり飛びかかった。一人だけ丸腰だった、先程まで怒鳴り散らしていた男性が悲鳴をあげて仰向けに引き倒される。

 それを見た残りの男達が慌てて剣を抜いて淡雪に斬りかかろうとするのを見て、私は必死になって悲鳴を押し殺した。



 しかし、悲鳴を上げたのは男達の方だった。



 突然現れた複数の真っ黒な玉達が男達に体当たりをして、鋭い棘を伸ばして剣を持っていた手を突き刺したのだ。

 当然全員の手から剣が落ちる。

 次の瞬間、ものすごい突風が吹きつけ男達を地面に薙ぎ倒した。

 またしても悲鳴を上げてゴロゴロと地面を転がる男達。次々に周囲の木に顔面からものすごい音を立てて激突してまた転がる。

 風が止まった時、周囲に立っている男達は誰もいなかった。

 全員が呻き声を上げて地面に転がっている。

 淡雪が地面に押し倒して押さえつけている男は、何が起こっているのか全く分かっていない様子で、必死になって悪態をついて淡雪の下から逃げようともがいていた。



 琥珀が私を乗せたままゆっくりと現場に近づいて行く。



 すると、なぜか数が増えていた暗黒丸達がコロコロと地面に転がる男達の周囲を転がり、一瞬で真っ黒なネット状のものを吐き出した。

 それは文字通りネットのように一気に広がって、転がっている男達を全員一瞬で捕縛してしまった。

「き、貴様……」

 淡雪の下から声が聞こえてそっちを見ると、丸腰だった男が淡雪に引き倒されたまま私をものすごい形相で睨みつけていた。

「死にたくなかったら大人しくしてなさい」

 咄嗟にそう言い、真っ黒な網でがんじがらめにされて転がる男達を見た。

「ねえ、これってどうすればいいの?」

 小さな声で琥珀に向かって話しかける。

「今、浅葱が仲間をギルドへ飛ばしました。彼らが来てくれるまで、とりあえずここで待機ですね」

「あらあら、何だか大騒ぎになっちゃったわね。ええと、私はどうすればいいかしら」

 暗黒丸達が、淡雪が押さえつけていた男も真っ黒な紐でぐるぐる巻きに縛るのを、私は琥珀の背の上から眺めながら、大きなため息を吐いたのだった。

「ううん、とんだ郊外採取になっちゃったわね。バイオレンスな展開は、創作物の中だけにして欲しいわ。ところで、この辺りには何か採取出来そうな素材ってあるの?」

 あまりの居心地の悪さに思わず現実逃避でそう尋ねると、琥珀が顔を上げて私を振り返った。

「もちろんあちこちにありますよ。そうですねえ。近いところでしたら、そこの茂みに幾つか薬草がありますよ。ご覧になりますか?」

 そう言って、平然と近くの草地へ向かう。

 男達は地面に転がしたままだ。

「あれ、良いの?」

 声を潜めてそう尋ねると、琥珀は何か言いたげにちらりと私を見た。

「淡雪が見張っておりますからご心配無く」

 当然のようなその言葉に苦笑いした時、するりと出てきた茜が草地の中に走って行き、見覚えのある薬草の前で止まってこっちを振り返った。

「ミサキ様、ここに咳止め草がございますよ。向こうには湿布薬を作る薬草も」

 得意気なその様子に小さく笑い、とりあえず見つけ次第採取してもらうようにお願いしたのだった。



 はあ、ギルドから誰か来てくれるまでこんな居心地の悪い場所で待機だなんて、誰か助けて〜〜!

 内心でそう愚痴をこぼしつつ、大きなため息を吐いたのだった。

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