夕食とリアル推しの発見!
「はあ、一人でのんびり飲んで気兼ねなく食事が出来るって最高だわ」
軽めの赤ワインを飲みながら、私は小さくそう呟いてため息を吐いた。
元々、ゆっくり一人で飲んだり食べたりしたい派だったので、今の状態は私的には最高よ。
「お待たせ。壺が熱くなってるから食べる時に触らないように」
さっきの素敵な渋いおじ様マスターが、そう言いながら大きな壺を木製の分厚い鍋敷きごと私の目の前に置いてくれる。
やや口の広い背の低い壺の上部は、盛り上がったパイかパンに口の部分が全部覆われていてパキパキと焼き立ての良い音を立てていた。
「これでそのパイを叩いて割って、中のビーフシチューと一緒に食べるといい。パンは一つから追加出来るから、足りないようならいつでも言ってください」
コップに突っ込まれたカトラリーを置きながら、イケおじマスターと勝手に命名した渋いおじ様マスターが、笑顔でそう言ってくれる。
「そうなんですね。じゃあいただきます」
にっこり笑顔で返して、木製の大きめのスプーンを手にした。
「こう言うのを割るのって、なんだか楽しいわよね」
小さくそう呟いて言われた通りに真ん中部分を軽く叩いてみると、パキッといい音がして叩かれた部分が大きく割れて中に落ちる。
一気にスパイシーなビーフシチューの香りが立ち上り、空腹が刺激される。
あまりの良い香りに、思わず深呼吸してしまったわよ。
「うああ、いい香り。では早速!」
バリバリと縁の部分に残っているパイを中に叩いて落として、肉の塊と一緒に割れたパイをスプーンですくって口に入れる。
予想以上の美味しさに、本気でびっくりしたわ。
お肉はあっという間に口の中でとろけて無くなったし、パイ生地のパリパリ感がビーフシチューと一緒に食べても損なわれてない。
もう、そこからは夢中になって食べたわよ。
半分ほどを食べて一息ついたタイミングで顔を上げると、ちょうど別のテーブルから食器を下げてカウンターへ戻って来たイケおじマスターと目が合ったので、笑顔でサムズアップをして見せるとものすごく嬉しそうな笑顔でサムズアップを返してくれたわ。ううん、良い笑顔!
「お口に合ったようですね」
「ええ、すっごく美味しい。通わせてもらうわ」
笑顔で頷き合い、せっかくなので追加でパンを一つと赤ワインをもう一杯もらって、その後はのんびりと美味しい食事とお酒を楽しんだわ。
「おや、こんなところで会うとはね」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこには商人ギルドのギルドマスターで虎の獣人のテラさんと、カード登録の時に会った、真っ直ぐな杖を持った人間の女性が揃って笑顔で手を振っていたわ。
「こんばんは。もしかして今お帰りですか? あ、よかったら隣どうぞ」
空いている隣の席を示すと、軽く一礼してテラさんと魔法使いの女性が並んで座った。
「お疲れ様」
イケおじマスターが何も頼んでいないのに大きなジョッキみたいなのを二つ持って来て二人の前に置く。どうやら彼女達はここの常連みたいね。
「いつものはまだあるかい?」
「もちろん」
テラさんの言葉に笑顔で頷いたイケおじマスターは、そのまま奥へ行ってさっき私が食べたのと同じ壺入りビーフシチューを二つ持って来た。それから、カゴにパンを三個ずつ盛り付けてそれぞれの前に置いた。
「ごゆっくり」
一礼して奥へ下がったイケおじマスターを見送ってから二人は大きなジョッキを手にして、私は二杯目の赤ワインで揃って乾杯をした。
「このビーフシチュー私も食べたけど、美味しくてびっくりしたわ」
もうすっかり空になった壺を突っつきながら笑ってそう言うと、こちらもあっという間に平らげた空の壺を突っつきながらテラさんが嬉しそうに頷く。
「この辺りは美味しい居酒屋が何軒か連なっていてね。食事をするならここが一番お勧めだね。でもお酒は種類があまり無いから、食事と一緒に軽く飲む程度だね」
「そうなんですね。お腹がぺこぺこだったから、なんとなく良さそうかなって思って入ったんだけど予想的中だったわ。これなら買って帰りたいくらい」
郊外へ採取に出た時に、こんな美味しい食事が食べられたら最高じゃない?
なんとなく言った言葉だったんだけど、テラさんが笑顔で奥を指さした。
「ジェイドに言えば持ち帰り用のシチューもあるよ。パイは火を入れたのと焼く前と両方あるからね」
「ええと、そのジェイドって……」
「お呼びですか?」
ナイスタイミングで、イケおじマスターがカウンターの中からこっちを振り返った。
「ああ、失礼、ジェイドさんって言うのね。ええと、このシチューって持ち帰りもあるんですか?」
若干慌てつつ笑顔でそう言うと、また嬉しそうな笑顔になる。
ジェイドさんって普段の素顔も素敵なんだけど、この笑顔が良いのよね。ちょっと描きたくなるくらいに良い笑顔。
「もちろんございますよ。お持ち帰りだと、焼いた物と焼く前のものがありますが?」
「じゃあ、焼いたのを二つお願いします」
「ありがとうございます。すぐにご用意します」
素敵な笑顔でお手本みたいな綺麗なお辞儀をして下がるジェイドさんを見送る。
「いいわ、リアル推しを発見。うん、このお店、いいわ……」
密かに拳を握ってそう呟く私を、テラさん達は揃って不思議そうに見つめていたのだった。




