人になったらハプニング発生!
「それでそれで? どうやったら人間の姿になれるの?」
人の姿になれると聞き、期待のあまり興奮した長い尻尾の先がピョコピョコと動いている。またホコリまみれになったら困るから、頼むからじっとしてなさい!
内心で尻尾に言い聞かせつつ、期待に胸を膨らませてそう尋ねると妖精さんは困ったように私を見返した。
「どうって……貴女はもうそのやり方を知ってるはずよ? どうしたらいいって聞かれても、人化出来るよ。としか言えないわ?」
思いもかけない答えを言われて目を瞬く。
「ええと、じゃあ……人になぁれ〜!」
よくわからないけれど、とりあえず叫んでみた。
某魔法使いの少女っぽく!
……沈黙。
当然だが、全く私に変化無し。
またしてもドン引きしている妖精さんに、何してるの、お前? みたいな目で見られた。
ドラゴンになってて良かった。多分、今人の姿をしてたら耳まで真っ赤になってたと思う。
ごめん、ちょっと穴掘って潜っててもいいかしら?
一人で内心真っ赤になって悶絶していると、妙に納得したみたいに笑顔の妖精さんが手を打った。
「ああ、そっか。貴女は魔力の使い方をまだ理解してないのね」
出たわね、魔力! そうそう、せっかくの異世界なんだから、魔法ぐらい使えないとね。
「ええと、人に変身するのって魔法なわけ?」
興味津々で私が妖精さんに尋ねると、笑顔で頷いた彼女は私の鼻先に飛んできた。
「そうよ。あ、説明の前に貴女の呼び名を決めないとね。何か希望はある?」
「呼び名って、つまりこの世界での私の名前ってことよね?」
「そうそう、希望は聞くわよ。この世界のほとんどの人は名前は一つだからね。苗字があるのは、ごく一部の人だけよ」
改めてそう言われて困ってしまう。
要するに、これから先ここで生きていく為の自分の名前。うん、やっぱり呼ばれ慣れた名前が良い。両親が私にくれた名前。
「……美咲でお願い」
「じゃあ、ミサキでいい?」
発音が若干違うが、まあ許容範囲よね。
「いいわ、じゃあそれでお願い」
頷くと、妖精さんはまたフワリと浮き上がり、私の額の辺りにそっと触れた。
「我、ここに新たなる火の竜、ミサキの誕生を見届けるなり。ミサキのこれからに幸いあれ」
突然、重々しい別人のような声でそう告げると私の額を叩いた。
それは一瞬だったけれど電撃に当たったかのような衝撃で、思わず思いっきり羽ばたいてしまったほどだった。
しかし、先ほどと違って妖精さんは平然としている。
「どう、分かった?」
突然、普通に話しかけられてこっちが戸惑う。
「ええと、今のは何?」
「もう、分かったと思うんだけどね?」
質問には答えずに顔を覗き込まれて、また目を瞬く。
「ええと……」
しかし、何か言うより前に、妖精さんはまた手を叩いた。
「あらあら、ミサキの魔力は完全に枯渇してたわけね。そりゃあ駄目ね。魔力を充填するまでしばらくかかるだろうから、休んでてくれても良いわよ」
「ええ、別に眠く無いですけど」
また眠らされたら大変なので、一応文句を言ってみる。
「それならその魔力の事とか、この世界の事とか、時間があるのなら今のうちに少しでも教えてよ」
座り直しながらそう言うと、頷いた妖精さんは、また私から少し離れた場所で留まった。
「ええと、じゃあまずは魔力の説明からかしら?」
「そうね、何の事だかさっぱり分からないから、詳しくお願い」
魔法や魔力なんて言われても、全く未知のものだからそこは詳しく知りたい。
妖精さんを見ると、大きく頷いた彼女は説明を始めた。
「魔力とは、この世界の根底を流れる力。世界そのものを構築する力の事よ。世界の柱たる貴女にも、もちろんその魔力はあります。それどころか、柱の竜の中でも三本の指に入る力の持ち主よ」
「ふうん。わざわざ三本の指っていう言い方をするって事は、私がトップってわけじゃ無いのね」
私は、さっき聞いた説明を頭の中で思い出して納得した。
「つまり、四大精霊の竜の中では最強だけど、光と闇の竜には、敵わない?」
私の言葉に、妖精さんは驚いたように目を見開いてパタパタと小さな翅を羽ばたかせた。
「その通りよ。貴女ってもしかして……この世界の事知っているの?」
「まさか、さっきの説明を聞いて自分なりに考えただけよ」
「すごい! すごい! ナディアの時なんて、現状を理解してもらうだけでもどれだけ苦労したか。貴女最高ね」
満面の笑みの妖精さんに手放しで褒められて、何だか恥ずかしくなった。
だって、こう言うのって異世界ものではテンプレよね?
「だけどまず、その魔力ってのが私にはさっぱりなんだけど?」
そう言うと、妖精さんは困ったように私を見た。
「今ならもう感じられると思うわ。目を閉じて、足元の地面に接している部分を感じてみて」
真剣な顔でそう言われて、大人しく目を閉じて考えてみる。
足元の地面と接してる部分? つまり足の裏?
とにかく目を閉じて、今座っている辺りを探ってみる。
すると突然、何だかよく分からないけれど足の下にもの凄く明るい光の帯が感じられた。
そこから伸びた一筋の光が、私の脚に繋がっている。
まるで、乾いた体に冷たい水が染み渡るみたいに、光の線から流れて込んで来る何かは、私の中でどんどんと大きくなっていった。
無意識に翼が広がり、尻尾がプルプルと震える。
妖精さんは何も言わない。
その光は、あっという間に私の中に満ち、そして完全に同化した。
その瞬間に理解した。
これが魔力であり、私の力そのものだと言うことを。
飛ぶ事と同じで、私の体はこの力を知っている。
「うん、分かった。理解したわ」
目を開いてポツリと呟いたその言葉は、まるで解けるように私の中で消えていった。
「じゃあ、もう出来ると思うからやってみましょうか」
「やってみるって、何を?」
「もう魔力もほぼ充填されたみたいだしね。今なら簡単に人になれるわよ」
簡単に言われて、また目を瞬く。
「別に叫ぶ必要はないわ。頭の中で、人になった自分を想像してみて」
笑いながらそう言われて、恥ずかしくなって誤魔化すように大きく羽ばたいて座り直す。
「ええと、人になった私……」
改めて目を閉じて、出来るだけ克明に以前の自分の姿を思い出す。
身震いした瞬間、唐突に自分の体が変化するのが分かった。
そして、もう次の瞬間そこにいたのは、いつもの私だった。
ただし、素っ裸で。
「いや〜〜〜〜〜〜! ちょっと待って! どうして裸なのよ!」
咄嗟に胸元を隠してその場に座り込んで叫ぶ。
「上手く行ったみたいね。おめでとう。新しい火の竜のお方が優秀で私は嬉しいわ」
私の様子なんて全く意に介さず、拍手なんかしてるし。
「いや、それは良いから、何か着るものください!」
素っ裸で座り込んだまま、私はあまりの羞恥心に耳まで真っ赤になっていたのだった。
「岩だらけの火山の火口で素っ裸って、一体何の羞恥プレイよ! ヤダって、まじで有り得ないって。私にそんな趣味は無いわよ!」
半泣きになりながら叫んだ私に、また妖精さんがドン引きしていたんだけど、残念ながらパニックになっていて全く余裕の無い私には、それ以上の言葉が出てこなかった。
「どうでも良いから、早く着るもの下さいってばぁ〜!」
私の叫び声が、虚しく火口に消えていったのだった。




