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ドラゴン商店は素材屋さん  作者: しまねこ


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挨拶回りと歓迎会の始まり

「それでは、何かありましたらいつでも声をかけてください。協力は惜しみませんので」

 登録の済んだ商人ギルドのギルドカードを返してくれたグレイルさんに笑顔でそう言われて、こちらも笑顔でよろしくお願いしますと返しておき、一旦外に出て、並びにある冒険者ギルドにも顔を出して挨拶だけはしておく。

 ここのギルドマスターは、ジルと名乗った年配の男性で元冒険者なのだとか。怪我が元で足が少々不自由になり、今は比較的平和なこの街でギルドマスターをやってるんだって。

 何しろ近辺にあるのは初心者向けの小さなダンジョンばかりだし、ギルドへの依頼もほぼ全部が畑や牧場を荒らす害獣の駆除と収穫期の人集めだって言うんだから、まあ確かに平和と言うかのどかと言うか、って感じね。

 だけど、聞いてみるとここでも火の魔晶石不足はかなり逼迫しているらしかったので、手持ちの火の魔晶石を大量に買い取りに出しておいた。大喜びされた事は言うまでもない。

 笑顔で見送ってくれるギルドマスターに手を振り返して一旦家に戻り、そこからメンフィスの街の家まで戻った。



「さてと、それじゃあすっかり遅くなっちゃったけど食事にしましょう。それから夜は、基本的に自分の山の火口に戻って竜の姿で休むのがいいわよ。そうすれば、使った魔力も十分に補充されるし安定するからね」

 ラディウスさんの言葉に、このメンフィスの家に使えそうなベッドはあるのか考えていた私は驚いて顔を上げた。

「あらら、せっかく家があるのに火口で寝るの?」

「気になるなら両方やって比べてみるといいわ。なんて言うか自分の山で寝るとスッキリ疲れが取れる感じがするのよね」

「ああ、確かに。私も普段は山の洞窟に戻って休んでるよ」

 デボラさんの言葉に納得して夜は火口へ戻る事にした。

「じゃあ、いきましょうか。おすすめのレストランがあるからね」

 扉から現れたモルティさんも合流して、私達はラディウスさんの案内で彼女の家があるヴィシュカの街へ出ていった。



 日が暮れた街には道沿いに街灯が並んでいて、ぼんやりとした明かりを灯している。

「電気があるわけじゃないわよね。ねえ、あれってどうなってるの?」

 街灯を見上げながらそう尋ねると、ラディウスさんが私の隣に来て同じように街灯を見上げた。

「あの明かりは、風と土の魔晶石を合成して作るガス玉と呼ばれる人工の魔晶石を入れたものよ。火の魔晶石に比べたら灯る火は遥かに小さいし暗いんだけど、灯ってる時間は長いんだ。小さいのが一つあれば一晩中灯ってくれるよ。だから街灯はどこもガス玉を使ってるね」

 デボラさんがそう言って、自分人差し指の爪を示す。

「へえ、魔晶石の合成。そんな事出来るんだ。あれ? 一晩で一粒って事は、毎晩誰かがそのガス玉を作って入れて、火を灯してるって事よね?」

 感心したようにそう呟きながら首を傾げると、そんな私を見て三人が苦笑いしている。

「そりゃあそうでしょう? 逆に人がやらなければ誰が火を灯してくれるの?」

「ああ、そりゃあそうね。なんでも自動だった元の世界とは違うんだよね」

 誤魔化すように笑いながら、元の世界の街灯って、そういえばどうやって点灯していたのかなんて気にした事も無かったのを密かに思い出していた。




「ほら、あそこの店。私の最近のお気に入りの創作料理の店なのよ」

 得意気なラディウスさんが、そう言って一軒の店を示す。

 戸建てのちょっとおしゃれな石の瓦葺きの煉瓦造りの建物。一番高い鋭角な屋根の上には、風見鶏らしきシルエットもかすかに見える。

「へえ、おしゃれな建物。それに異世界の創作料理ってどんな風なのかしらね。ちょっと興味があるかも。ううん、だけど私の苦手な激辛料理やゲテモノ料理が出てきたらどうしよう」

 などと、ちょっと怯えつつ彼女の後に続いて店の中へ入る。



「今日は彼女の歓迎会なの。お任せで構わないから個室はあるかしら」

 入り口にいたイケメンスタッフさんに、ラディウスさんが満面の笑みで伝える。

「いらっしゃいませ。歓迎会ですか。かしこまりましたマダム。では、こちらへどうぞ」

 優雅に一礼したイケメンスタッフさんが、私たちを個室に案内してくれる。

「へえ、なかなか良い店ね」

 まるでホテルのロビーみたいな広い受付の奥に、ドーンと広いホールがあって幾つもの丸いテーブルが並んでいる。

 まだ夕食には少し早い時間のように感じるが、ホールのほとんどの席はすでに埋まっていた。

 そのままホールを突っ切り広い廊下に出て、奥の一室に案内される。



「成る程、ホールだけじゃなくて奥に個室があるわけね。へえ、ここも良い部屋」

 案内された部屋は、なかなかに明るくて広い部屋だった。

 部屋の真ん中に大きな長方形のテーブルが置かれていて、左右とお誕生日席に椅子が置かれている。

 真っ白な壁の所々に意匠化したドラゴンが描かれているし、アイビーみたいな綺麗な緑色の蔓性の植物が飾られてて柱に巻き付いている。

 入り口に突っ立って部屋を見回していると、笑ったラディウスさんに背中を押されて席についた。

 なんと、座らされた席は、いわゆるお誕生日席。

「やだ、こんな席に座るのっていつ以来かしら」

 照れたように笑う私に、ラディウスさん達も笑顔になる。

「だって、今日は貴女の歓迎会なんだからそこに座るのは当然でしょう?」

 笑ったラディウスさんにからかうようにそう言われて、顔を見合わせて笑い合った。




 しばらくすると、次々と料理が運ばれて来た。

 どんどん運ばれてくる料理の見た目は中華料理っぽいかな。野菜多め。蒸し料理や焼いたり揚げたりした肉や魚も見える。

 大きなお皿に綺麗に盛り合わされて机の上に並べられるそれらの料理を見て、内心で安堵の息を吐く。

 だって、少なくとも普通に食べられそうな料理が出てきたんだもの。

 生魚や生肉がないのはちょっと残念だけど、まあ衛生的な部分を考えたら当然なのかもしれない。



「それじゃあ始めましょうか。ここのお料理はどれも本当に美味しいからお勧めよ」

 ラディウスさんの言葉に、料理を運んでくれていたスタッフさんたちが嬉しそうな笑顔になる。

 目の前に用意された綺麗なカット模様が入ったガラスのグラスに、スタッフさんが手にした瓶から何かを注いでくれる。

 無色透明な水っぽいけど、この香りは間違い無くお酒。しかも日本酒っぽい。

「では、新たな出会いとミサキのこれからが良きものになるよう願って、乾杯!」

 ラディウスさんの声に、全員が手にしたグラスを掲げてから飲み干す。

「ううん、これは間違い無く吟醸酒ね。美味しい!」

 すっきりとしたフルーティな味わいに思わず笑顔になる。

「気に入ってくれたみたいだね。これはマーカスの知り合いの酒蔵が作っている穀物のお酒だよ。気に入ったなら、マーカスに言っておいてあげるよ。きっと大喜びで色々持って来てくれるよ」

 デボラさんが笑いながらそう言い、テーブル横に控えていたスタッフさんが取り分けて綺麗に盛り付けてくれたお皿を受け取る。

「さあさあ、遠慮しないでどんどん食べてね!」

 ラディウスさんの言葉に大きく頷いた私は、食べようとして用意されていたカトラリーの中にお箸を見つけてもっと笑顔になったのだった。


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