買い取り依頼と街歩き
「おかえりなさい。待ってましたよ」
冒険者ギルドで魔晶石を買い取ってもらった私は、また商人ギルドへ戻った。
笑顔のテラさんに出迎えられ、そのままもう一度さっきのカウンターに座る。
「それじゃあ、出してくれるかい」
テラさんの隣には、片眼鏡をかけたやや痩せ型の年配の人間の男性が進み出てきて、笑顔で私に一礼して座った。
「初めまして。宝石の鑑定を担当しておりますオリートと申します。どうぞオリーとお呼びください」
「初めまして。ミサキと申します」
差し出された手は見事なペンだこが出来た分厚い大きな手をしていた。
オリーさんは、ベルベットみたいな分厚い布が敷かれた平たい木製のトレーを取り出して目の前に置いた。
「では、こちらに買い取る宝石を出していただけますかな」
オリーさんに言われて、私は杖を取り出して茜を呼び出す。
「研磨の済んだ宝石を出してくれるかしら」
小さな声でそう言うと、茜は私の掌の上にザラザラと5ミリくらいから小指の爪くらいまでの大小のルビーを吐き出し始めた。
慌ててトレーの上に、その宝石を落とす。
オリーさんは、目を見開いたまま呆然とトレーを見つめている。
これはちょっと出しすぎた気が……。
「し、失礼しました。いや、これは素晴らしい」
咳払いしたオリーさんは、誤魔化すようにそう言うと、トレーを自分の前に引き寄せて真剣な顔でルビーを一粒ずつ手に取って、小さな虫眼鏡を取り出して検品し始めた。
「これは素晴らしい。全く濁りも傷も無い。いや、これは素晴らしい……」
何度も素晴らしいと呟きながら、どんどんルビーを別のトレーに選り分けていく。
どうやら検品しつつ大きさ別に分けているようで、大きさを測る為のノギスのような道具を取り出して、一粒ずつ測ったりもしている。
なんとなく手持ち無沙汰で大人しく座っていると、ギルドマスターのテラさんが私の肩を叩いてそっと一通の封筒を取り出して渡してくれた。
「これは紹介状だよ。薬屋だった店を素材屋にするなら、改装する大工が必要だろうからさ。商人ギルドお勧めの店舗専門の大工だ、腕も良いし人柄も保証するよ」
それは考えていなかったので、お礼を言ってありがたく頂いておく。
「ありがとうございます。店を開けるのはすぐってわけじゃ無いけど、確かに改装は必要ですね」
受け取った紹介状は、無くさないように収納しておく。
それからまだしばらく待たされた後、ようやく決まった買い取り金の明細を渡されて、あまりの金額に本気で驚いたわよ。
私の年収どころか、今までのサラリーマン人生全部の収入より多かったんじゃないかしら。
さすがは宝石。桁が違うってこういうのを言うのね。
しかも、詳しく聞くとこの宝石は、もちろん装飾品としても価値はあるんだけど、お守りとして重宝されているらしい。
特に、柱の竜達の守護石である六種類の宝石は、高値で取引されているんだって。
「へえ、でもそれならそれ以外の宝石ってどうやって出来てるのかしらね?」
とんでもない金額が書かれた明細を見ながら思わず呟く。
「ミサキ様、火と水の石を持つミサキ様ならばベリルを作れます。またルビーを他の柱の竜の方々にお渡ししましたので、これで他の皆様も、それぞれに様々な宝石を作れるようになっております。それらは各自の眷属を通じてダンジョンにばらまかれて、冒険者を通じて世間に流通するのです」
「え、待って。私が作れるのって、ルビーだけじゃないの?」
小さな声で質問すると、うんうんと頷いた茜は何やら言いたげに周りを見てから首を振った。
「後ほど、火口に戻りましたら詳しい説明をさせて頂きますね」
確かに、他の人がいる場所で話すような事じゃあ無いわね。
「わかったわ。じゃあお願いね」
どうやら茜は、かなり色んな事を知っているみたい。
全然説明してくれない不親切チュートリアルのビオラなんかよりも、茜の方がずっと頼りになりそう。
買い取り金を全額私の口座に入れてもらうように手続きしてもらい、明細をもらった私はそれを収納した。
「さて、それじゃあラディウスの店へ行くとするか」
マーカスさんがそう言い立ち上がる。
「ああ、彼女も自分の準備をするのが先だろうからね。まあ、何か困った事があればいつでも相談しとくれ。力になるからね」
虎の獣人のテラさんは笑顔でそう言うと、私の背中を軽く叩いてからマーカスとデボラさんに何か言ってカウンターの奥へ消えて行った。
商人ギルドの建物を出た後、一旦私の家へ戻る。
戻る途中も様々な人種であふれた通りを歩きながら、店先に並ぶ様々な果物や品物を見て歩いた。
先にラディウスさんの店へ行くみたいなので、ここのいろんなお店にも興味はあるけど一応今は買い物は我慢しておく。
だけど、そんな私の気持ちはお見通しだったらしく、マーカスが笑って通りがかりの屋台で何かを買ってくれた。
「ほら、これはキャンディポテト。甘い蜜がかかった揚げ芋だよ。この世界ではどこにでも売ってる定番のお菓子だ。美味いから食ってみるといい」
聞くかぎり、大学芋みたいな感じね。
お礼を言って受け取った木の葉を巻いて円錐形になった入れ物の中に入ったそれには細い楊枝が突き刺さっている。これで食べろって事なんだろう。
甘い香りに誘われて口に入れてみると、それは大学芋以外の何物でもなかったわ。
うん、確かに甘くて美味しい。
私の知っているサツマイモよりもはるかに甘くてねっとりと美味しいそれを、デボラさんと並んでのんびり歩きながら、私はせっせと口に入れたのだった。
美味しいものを食べて、うまく言えないけど不思議と安心した。
まだよく分からないこの世界だけど、少なくとも食べ物が美味しいと感じられるなら何とかなるような気がして来た。
ほら、私の推しのあの方も言ってたもの。
目の前の食べ物が美味しいと思えるうちは大丈夫だって。ね。




