大量買い取り!
「じゃあ、これの買取をお願いします」
気持ちを切り替えるように一度大きく深呼吸をした私は、茜に魔晶石の中くらいから小さめのを取り敢えず適当に合わせて百個出してもらった。
「収納の能力持ちなんですね。素晴らしいです。ではお預かりします」
小柄な犬の獣人の受付の人は、トレーに乗せた魔晶石の上に伏せたお椀みたいなものを取り出して、並べた魔晶石に向かってゆっくりとかざした。
ブラックライトみたいな光がお椀から出て魔晶石を照らし、光の当たった魔晶石が蛍光色のような明るい赤に光り輝いた。
「これは素晴らしい。どれも純度は100ですね」
その言葉に、後ろの冒険者達がどよめくのが聞こえた。
「すげえ。貴重な火の魔晶石で、しかも純度100だってよ」
「一体どこで採って来たんだよ」
「教えてもらえないかなあ」
「馬鹿言うな。そんなの簡単に教えてくれる訳あるかよ」
「良いなあ」
「誘ったら仲間組んでくれないかなあ」
後ろで好き勝手騒ぐ冒険者達の声が聞こえて、何だかいたたまれなくなる。
ごめんね。これ原価ゼロなのよ。
すると、小さく笑ったマーカスが、振り返って大きな声でいきなり冒険者達に話しかけた。
「言っておくが、火の魔晶石が復活しているぞ。しかも相当良質な奴がな。日々真面目にダンジョンに潜っていた冒険者達は今頃、いきなり現れた上級の火の魔晶石に狂喜乱舞している事だろうさ。こんなところでくだを巻いてる暇があったらさっさとダンジョンへ行ってこい」
マーカスの大声に、ギルド中がどよめく。
次の瞬間、ほとんどの冒険者達がものすごい勢いで何やら奇声を上げながら外に駆け出して行ってしまい、ギルドの受付は一気に人がいなくなった。
「ああ、これで静かになった」
それを見送ったマーカスは平然としている。
「そうだったんですね。火の魔晶石の不足は本当に深刻だったですからね。火の柱の竜様が復活なさったのならめでたい事です」
「全くだな」
素知らぬ顔で笑っているマーカスを、何となく横目で見る。
「マーカスって、もしかして冒険者ギルドにも登録しているの?」
職員さんとは明らかに顔見知りっぽいし、彼の言葉をここにいた冒険者達は疑う事も無く信じていたもの。
「おう、最近はワイナリーが忙しくてとんとご無沙汰だが、これでも一応上位冒険者だぞ」
「へえ、じゃあよろしくお願いしますわ。大先輩。私は何しろ、今日登録したばかりの初心者で駆け出しの冒険者ですから」
わざとらしい私の言葉に、犬の獣人の受付のお兄さん(?)が渇いた笑いを漏らしている。
「ご冗談を、ソロでこれだけの魔晶石を集められるお方が初心者の駆け出し? それならここにいたほとんどの人達は同じく初心者ですね」
大真面目なその言葉に、デボラさんとマーカスが大喜びで笑っている。
ええ。だって私は間違いなく初心者だと思うけどなあ。
「では、鑑定致しますので、ここでしばらくお待ちください」
受付の犬の獣人さんは、私が取り出した火の魔晶石をトレーごと奥に持って行ってしまった。
買取金額が幾らになるのかちょっと楽しみにしつつ、私は大人しく座ってその場で待ってたんだけど、あんまり退屈で、ちょっと眠くなって船を漕ぎそうになったのは内緒よ。
「お待たせいたしました。こちらが買取金額になります」
しばらく待っていると、満面の笑みの受付のお兄さんが奥から出て来て、三つ目の巾着が前に置かれる。
「いやあ、本当にどれも素晴らしい魔晶石でした。こちらが買い取り金になります。鑑定は、魔晶石の大きさによって金額が異なります。明細はこちらになりますのでご確認ください」
そう言って、一枚の明細書を渡された。
どうやら大きさは三つに分類されていたらしく、魔晶石一つにつき大きなサイズが金貨一枚、その中でも一番大きな魔晶石には金貨三枚の値がつけられていた。中サイズが銀貨五枚から八枚、小さなサイズは銀貨一枚から三枚程度の金額がそれぞれつけられていた。
「どう? これで良い?」
小さな声で、隣に座っているデボラさんに尋ねる。
「まあ妥当なところだね。良いんじゃないかい」
隣でマーカスも頷いているので、きっとこれくらいなんだろう。
貨幣価値が分からなくて困っていると、いきなり目の前にビオラが現れた。
「ミサキ、トゥーマリーク様からの伝言よ。金貨一枚が1万円くらいだと思えばいいってさ。分かった?」
言いたいことだけ言って、一瞬で消えてしまう。
だけど、犬の獣人さんは無反応なので、もしかしたら見えてなかった?
「それでこれが売上金なわけね。ええと、合計が金貨五十六枚と銀貨が八枚。確認した方が良い?」
「その明細をもらっておけ。これが金額の証明になるからな。一番良いのは、そのまま口座に一旦全部預けて、そこから改めて好きな金額を下ろせばいい」
「はいそれがよろしいかと。口座をお作りになりますか?」
「ええと口座って?」
なんと無く予想はつくが、知らない振りで質問する。
「買取金や報償金を文字通りお預けいただくための口座です。ご利用には各ギルドの登録が必須になります。口座は共通ですので、他のギルドからでもお好きな時にお好きな金額でおろしていただけます。お預けいただいた資金は、責任を持ってギルド連合が運用いたします。年末に、お預けいただいた金額に応じた利子を差し上げております」
なるほど。要するに銀行業を各ギルドが兼ねているわけね。まあ確かに大きなお金が動く場所だし理に適っているわね
「全額をそのままお持ちになる方もいらっしゃいますが、防犯上あまりお勧めいたしません。ですがミサキ様は収納の能力をお持ちですので、このままお持ちいただいても構いません」
この後、ラディウスさんのお店で服を買いたいし、日用品の買い物もしたい。
しばし考えて辺りを見回す。
今は冒険者達は誰もいなくて、職員さんが机や椅子の掃除をしているだけ。
「ねえ、今ならもう少し出しても大丈夫よね? せっかくだからラディウスさんのところで好きなだけお買い物したいし、日用品も色々買いたいわ。資金はそれなりに必要かと思うんだけど?」
小さな声で、隣にいたデボラさんにそう尋ねる。
「あはは、もちろん構わないよ。確かに今なら出し放題だね」
笑ったデボラさんがトレーを指で叩いた。
「もっと大きなトレーを持っといで。彼女の手持ちを放出したら、こんなので入るもんかい」
「は、はい! ただいま!」
慌てて立ち上がった犬の獣人さんだけじゃなくて、暇そうにしていた何人もの職員さんが慌てたようにそう答えて、大きなコンテナサイズの組み立て式の箱を幾つも抱えて走って来た。
「良いの?」
小さな声でそう聞くと、笑って頷かれた。
「火の魔晶石はかなり逼迫してるからね。人目が無い今ならこれくらいまでなら出してくれていいよ」
そう言ったデボラさんは両手を合わせてバレーボールくらいの大きさを形作ってくれる。
黙ってもう一度周りを見渡した私は、腕の上に座っている茜から、大きめの魔晶石をいくつも取り出して並べた。
一つ取り出す度に、職員さん達が何故か揃って拍手をしてくれる。
結局、あまり皆が喜ぶものだから止めるタイミングを見失ってしまい、大きめの魔晶石ばかりをあと二百個取り出して渡したわよ。
鑑定の結果、何と、一つに付き金貨十枚から三十枚の値がつきました。ううん、ちょっと出しすぎたかも。
結局、金貨百枚分をそのまま貰い、残りは全部まとめて口座を作って入れてもらう事にしたわ。
ううん、ほぼ私の年収分以上を一回の買い取りでもらっちゃったわ。
冒険者って、結構ボロい商売かもね。
「ありがとうございました。またお願い致します!」
「またのお越しをお待ちしております!」
職員さん総出で見送られて、ギルドを後にした私達はもう一度商人ギルドへ向かった。
今度は研磨の済んだルビーを買い取ってもらう為よ。
さて、それが終わればこの後は、楽しいお買い物タイムね!




