冒険者ギルド
一旦建物の外に出て次に案内されたのは、さっきの噴水のある通りに繋がるまた別の通り。
その通りは、通行人達も確かに何となくだけど冒険者っぽい剣や弓などの武器を装備している人が多いし、並んでいるお店も武器や防具などを売っている店が多い。
それ以外でも、さっきの通りが日用品や雑貨屋さんが多かったのとは全く違う、いかにもアウトドア系の品揃えになっていて、ちょっと面白かったわ。
「ミサキ、杖を出して持っておくといいよ。そうすればあんたが精霊魔法使いだってわかるからね」
歩きながら小さな声でデボラさんにそう言われて、頷いた私は即座に杖を取り出した。
すると、スルリと茜が出て来て杖を持った私の左の肩に留まった。それだけでなく、呼んでもいないのに他の眷属達まで全員出て来た。
水晶魚の瑠璃は、私の頭上をふわりふわり泳いでいるし、風呼び鳥の浅葱は、私の右肩に当然のように留まった。土猫の琥珀はちょっと考えた後、軽々と淡雪の背中に飛び乗って身繕いなんか始めてるし。光の珠の白磁と影玉の暗黒丸は、揃って杖の先端部分に浮かび上がり仲良く並んでくるくると杖の周りを回っている。
ううん、改めて勢揃いしているのを見て思うわ。これだけの眷属がいるって、実はすごい事なのね。
「ここが冒険者ギルドだ。ほら、入った入った」
平然と入っていくマーカスとデボラさんの後について、大きな石造りのギルドの建物の中に入る。
ここもさっきの商人ギルドと同じ相当大きな建物で、あちこちに精密な彫刻の像があり、金属製の扉も大きい。
中に入ると、商人ギルドで見たような部屋を二分する長いカウンターがあり、幾つもの窓口が並んでいる。
右の壁には鮮やかな色合いで四季を描いた大きなタペストリーが幾つも掛けられていて、石造りで殺風景になりがちな部屋に花を添えていた。
左側の壁は、掲示板みたいになっていて、求人票みたいなのがびっしりと貼られている。
もしかして、あれっていわゆるクエストボード? おお、冒険者ギルドっぽい!
後で見てみようと、ちょっとワクワクしながら部屋を見渡す。
ううん、男性率高い!
さっきの商人ギルドは、ギルドマスターは獣人とはいえ女性だったし、権利書の手続きをしてくれたのも人間の女性だったものね。
しかし、ここでは目に入る女性はごく数名のみ。しかもほぼ全部が獣人で、人間は魔法使いっぽい杖を持った人が一人いるだけ。
ううん、やっぱり女性の冒険者は少ないみたいね。まあ体力的な事を考えると、さすがに男性と同じようには出来ないわよね。
ところで、淡雪も当然のようについて入って来たけど、良いのかしらね?
淡雪を追い出されたらどうしようかと密かに心配していたんだけど、他にも動物を連れている人がいて安心した。
だけど淡雪を連れた私は、明らかに周りから大注目を集めている。
「おい、あれって……」
「銀狼……だよな?」
「だよな、あの毛並み。うわあ凄え」
「デカいなあ。どうやってあんなデカいのテイムしたのか聞きたい!」
「ソロなのかなあ」
「だよな。俺達の仲間に入ってくれないかなあ」
「うわあ、見ろよ。全種類の眷属がいるぞ。高位の精霊魔法使いでテイマーって、どれだけ有能なんだよ」
「ソロなのかなあ」
「そりゃあお前、あれだけの眷属と従魔がいれば、無理に仲間を集める意味ねえだろうよ」
「だよな。誘ったら俺達の仲間に入ってくれないかなあ」
「いやあ、絶対無理だって。俺達如きじゃあ相手にもしてくれねえって」
「だよな。やっぱりそうだよな」
「すげえなあ」
「良いなあ……」
私と淡雪を見て、好き勝手に言ってる冒険者達。
だけどどうやら淡雪を連れているおかげで強いテイマーだと思われてるみたいだし、出てきて周りで遊んでいる眷属達を見て、優秀な魔法使いだと思われたみたいね。
うん、ありがとう淡雪と眷族達。貴方達のおかげで間違いなく不用意に言い寄って来る人は減ってるわね。
手を伸ばして淡雪を撫でてやると、鼻で鳴いた淡雪が嬉しそうに私の手にすり寄って来る。
「ほら、ここに座りな」
もう一度、淡雪を撫でてやってから、マーカスの案内で新規受付と書かれたカウンターに座った。
「ようこそ冒険者ギルドへ。新規の登録でよろしいですか?」
小柄な犬の獣人が前に座って一枚の紙を差し出してくれた。
ええとこれはギルドへの入会申込書ね。
名前の横に他のギルドへの登録の有無を書く欄があったので、商人ギルドの登録がある事を記入する。
「ええと、ねえ、私は何で登録すれば良いの? テイマー? それとも精霊魔法使い?」
種類、と書かれた欄を見て少し考えてから隣に座ったデボラさんに小さな声で質問する。
「ああ、精霊魔法使いで登録して、従魔の欄にその銀狼の名前を書いておくと良い。別にテイマーってわけじゃ無いだろうからね」
確かにもしも外で何かのモンスターと出会っても、自力でテイムするなんて無理。そもそもどうやってテイムするかなんて知らないしね。
苦笑いして頷き、精霊魔法使いと書き込む。
「はい、これでお願いします」
書き終えた申込書を返すと犬の獣人さんが笑顔で受け取ってくれて、またマーカスとデボラさんが保証人の欄にサインをしてくれた。
その後、後ろにいた杖を持った人に申込書を渡した。
「登録ですね。こちらに手を置いてください」
杖を持った人間の年配の男性の手に私の手を重ねる。
申込書が一瞬光る。
「はいよ、これがお前さんのギルドカードだから無くさんようにな。再発行の際には金がいるぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
年配の男性に渡されたカードを受け取る。
「冒険者ギルド登録者名ミサキ、登録地はメンフィス。ドラゴン商店名義にて商人ギルドに登録あり。へえ、他のギルドの登録も書いてあるのね」
「一年の間に一件も依頼を受けなければ、登録が抹消されるから気を付けろよ」
驚いてマーカスを振り返ると、彼はさっきの壁に一面の掲示板を指差した。
「あれが依頼ボード。冒険者は単にボードって呼んでる。あそこにいろいろな依頼があるから、よければ何か受けてみるといい。ちなみに、魔晶石の買取りも依頼と同等扱いになるから、ミサキは無理に依頼を受ける必要は無いけどな」
「あ、そうなのね。でも面白そうだから確認しておくわ」
私達の会話が聞こえたらしい犬の獣人の受付の人が、目を輝かせて振り返った。
「何かお持ちでしたら、いつでも一つから受け付けますよ」
「まあ、一度の買取りなら多くても百個程度までにしておけ。あまり一度に出すと周りから目を付けられるぞ」
小さな声でマーカスがそう教えてくれる。
どうやら、この世界の冒険者ってロクなのがいないみたいに聞こえてきたわ。
若干将来が不安になったけど、まあそれは淡雪達がいるから大丈夫だと思っておこう。
正直言って面倒はごめんなので、その辺りは淡雪達にお任せするしかないわよね。
やや投げやりにそう考えて、私は大きなため息を吐いたのだった。




