現状認識と重大な問題発覚
導入部だけでも、連続投稿するべきかな? と思い、今書き上げているところまでは何とか連続でアップしたいと思います。
導入部がまだまだあります、長いです。ごめんなさい。
目覚めは唐突だった。
しかも、今度はちゃんと見える。
だけど、見えた世界はやっぱり……あまりにも非現実的。
目の前に見えるのは、本がうず高く積み上がった見慣れた私の部屋でも無ければ、ブラックだけどそれなりに愛着のある会社の事務所でもない。
何とそこには、薄暗い岩だらけの世界が広がっていたのよ。
ああ、これはあれね。某ハンティングゲームのモンスターの棲家である、火山の火口そのまんまじゃない。そう思い付いて妙に納得して周りを見回す。
遥かに高い頭上に開いた大きな穴からは、綺麗な青空が見える。でもって多分、突き当たり奥の、あのひび割れた岩石の隙間から見えるオレンジ色は……絶対にマグマっぽい。
だけど何と言うか、全体にのっぺりしていて現実感が無い。まるで動かない壁紙みたいだ。
ええと、まさかと思うけど、ここって本当に火山の火口だったりするの? だけど全然暑くないんですけど、どう言う事?
「ああ、良かった。目が覚めたね」
一人でグルグル考えていると、いきなり声が聞こえて思わず振り返った。
「あなた誰? ってか……何?」
思いっきり不審そうな声になったのは当然だと思う。
だって、目に入ってきたそれはどう見ても、アニメなんかでよく見る妖精の姿そのままをしていたんだからその反応は当然よね?
掌ほどの小さな体、背中には透明な二対の蝶のような大小の翅。そして体には、薄紫色に白の縁取りをした花びらの様な、ワンピースみたいなふわっとしたラインの服を着ている。すごく可愛い。
「あ、そっか。何だ夢かぁ」
今の状況で一番ありそうな理由を思いついて一人で納得して頷いていると、いきなりその子は私の周りをパタパタと飛び回り始めた。
「もうすっかり大丈夫みたいだね。どこか身体に不具合は無い?」
「ええと、どういう事?」
「じゃあまずは、空間を戻すね。一応一通りは確認しておかないと」
私の質問には答えず、嬉しそうにその妖精がそう言った直後、一瞬だけ光が満ちて元に戻る。だけど、その時には周りの景色が一変していた。
「ええ! 何これ?」
驚きのあまりそう叫んだけど、それは当然だと思う。
だって、先ほどまでは、壁紙みたいにのっぺりしてて実感が無かったあの火山の風景が、いきなり実感を伴って襲いかかってきたのよ。
暑い。いや、はっきり言って、熱い。
ひび割れの隙間から見えていたマグマが、ゆっくりと動いている。すごい熱気。絶対、猛毒のガスとか出てそう。
だけど、何故だか全然呼吸も普通に出来るし、そのとんでもない環境が嫌じゃないのが解って、さらに混乱する。
不思議に思いつつ、立ち上がろうとしてまた本気で驚いた。
何がって、自分の体が異常に大きかったから。
人間には有り得ない長い首、長い尻尾。そして背中には翼があるのまで分かって、私は目を見張った。
これは間違いない!
「ええ〜! もしかして、私ってドラゴンになってる?????」
あまりの驚きにそう叫んで、試しに背中の翼を動かしてみる。
何となく、肩甲骨の辺りっぽい部分が大きく動くのが分かった。全く未知の感覚で不思議だけど、どうやればいいのか分かる自分にまた驚く。
思いっきり翼を伸ばして広げて大きく羽ばたくと、火口内部に風が巻き起こる。
ふわりと体が浮き上がりそうになった瞬間、またあの妖精が慌てた様に私の鼻先を押さえた。
「ああ、待って待って。まだ動いちゃ駄目。完全に定着するまで、せめて後一晩はここで大人しくしててよね!」
「ねえ、定着定着ってさっきから言ってるけど、一体何の事? 何が、何に定着するっていうのよ?」
定着って、要するに何かが何かにくっ付くって意味だよね? 今ここで出てくる意味が分からない。
「ええと、貴女の魂が、その火の竜の身体に定着するまでって意味です」
「ふうん……え? 悪いけど、もう一回言ってくれる?」
「貴女の魂が、その火の竜の身体に定着するまでって意味です!」
言葉としては理解出来るが、頭が意味を理解するのを拒否してるみたいで、全く頭に入ってこない。
「もう一回」
「貴女の、魂が、その、火の竜の、身体に、定着、するまで、って意味、です!」
今度は、言葉を区切って、しっかりと言ってくれたが、どうやらようやく回り始めた頭で理解した意味で、間違ってないみたいだわ。
「私の魂が?」
「そうそう」
「このドラゴンの身体に定着するまで」
「そうそう」
「ここで大人しく待ってろ……って事?」
「そうそう、解ってくれたみたいね」
思いっきり不審そうな私の言葉に、この妖精は嬉しそうに頷いている。
「待って、そもそも話の前提がおかしい。私の魂って何よ?」
「何って……要するに、貴女自身だよ?」
そう言って、小さな首を傾げる。
だめだ、これは私の聞きたい事が全く通じていない。
「いや、だからどうして私の魂がドラゴンの中なんかに入ってるのよ。夢だとしても設定がおかしいでしょう?」
「あれ? もしかしてこれは夢だと思ってたりする?」
「当然でしょう?」
「じゃあもしかして、自分が死んだって気付いてない?」
「……誰が、何ですって?」
ちょっと真顔になったわ。これは冗談でも言われたくない。
「残念ながら、貴女は階段から落っこちてお亡くなりになりました」
「何よそれ。じゃあ、今ここにいて喋ってる私は何よ?」
真顔でそう尋ねると、妖精は誤魔化す様にくるっと回って両手を握って胸元に当てた。
何その可愛いお願いポーズ。
「その瞬間、貴女が呼びかけに答えてくれたので、トゥーマリーク様が貴女をこっちの世界に引っ張る事が出来たの。魂が消滅する前に、無事に助けられて良かったわ」
「その、トゥーマリーク様って、誰?」
「この世界の創造神様。素敵なお方よ」
可愛らしいポーズで、嬉しそうに答えながら飛び回っている。
「へえ、創造神様。つまり、この世界の神様?」
「そうよ。分かった?」
小さな妖精が、満面の笑みで頷く。
「……これって、これってもしかしてもしかしなくても、異世界転生よね!」
上を向いて思わず叫ぶ。
いや、某小説投稿サイトなんかでは定番よ。
私も好きで一時期めっちゃ読み込んだわよ。
だけど、だけどまさか自分の身に起こるなんて有り得ないでしょう?
「しかも私って今の話を聞くに、酔っ払ってあの地下鉄の階段から転がり落ちて、それで死んだって事? うわあ、幾ら何でも恥ずかし過ぎる」
顔を覆おうとすると、巨大な爪のついた鱗に覆われた手が見えて、本気で泣きたくなった。
そこで重大な事実に気がついた私は大いに焦った。
「いや待て私。そんな事よりももっと重要な問題があるわよ」
思わず声に出して叫んでいた。
「って事は待って! 私、来月発売の新刊とブルーレイが見られないじゃない! ああ、新作の描き下ろしミニ単行本、見たかったよ〜!」
その場に突っ伏して、そう叫びながらバンバンと地面を叩く。
「ああ、私の癒しが〜! 公式からの誕生日プレゼントが〜!」
無意識に尻尾が私の感情に同調していて、バンバンと振り回されてものすごい砂埃が巻き上がる。
そこまで叫んで、ようやく今の状況を思い出して我に返った。
恐る恐る顔を上げると、妖精さんが、そんな私を見てドン引きしていた。
まあそうよね。
だけどごめん。今ちょっと本気で余裕無いのよ。しばらくそっとしててくれるかしら。