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ドラゴン商店は素材屋さん  作者: しまねこ


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それぞれの住処めぐり

「じゃあ、火の魔晶石を一つ出してくれるか。大きさはこれくらいでいい」

 そう言ってマーカスが魔晶石を出して見せてくれたので、出て来てくれた茜の背中を撫でながら話しかける。

「ええと、あれくらいの魔晶石を一つ出してくれる?」

 茜は小さく頷いて魔晶石を渡してくれた。

 しかも、いきなり口を開けて大きな魔晶石を吐き出したんだから、受け取りながらちょっとびっくりしたのは内緒ね。

「じゃあそれをここに置いてくれるか」

 さっき皆が私のところでやったみたいに、魔晶石の円グラフの縁になった部分をマーカスが指差す。

「これで良い?」

 見様見真似で、さっき彼らがやっていたみたいに魔晶石を置いて手を当てる。

 それを見た全員が頷いて、それぞれの色の魔晶石の縁の部分に手を当てる。

「出ろ!」

 マーカスの声と同時にまた一瞬だけ光が放たれ、真っ赤な光だけがフラッシュした。



「うわあすごい。本当に魔晶石が出たわ」



 思わず呟くと、そんな私を見てまたマーカスが笑ってる。

 だって、さっきまでそこだけポッカリと空間が空いていた三角の部分に、私の赤い魔晶石がぎっしりと埋まっていたんだもの。分かっていてもやっぱり驚くわよね。

「本当に優秀ね。素晴らしいわ」

 無邪気に感心するビオラを見て、ちょっと遠い目になったのも内緒にしておくわ。うん、私って大人よね。

「私のところはこれで良いわね。それじゃあ順番に行きましょうか」

 ラディウスさんが満足そうにそう言い、アラブ系イケメンのファイサルさんを見る。頷いた彼がまたマーカスの手を取るのを見て全員がさっきと同じ順番で手を繋ぐ。

 また光があふれ収まった時にはまた違う場所に来ていた。



 そこは私のいる火口と似たような感じで、黒い岩だらけの大きな火山の火口のようだった。

 だけど、私の所とは違って熱せられた真っ赤なマグマはどこにも見えず、ひんやりと冷たい空間が広がっていた。

「もう、はるか昔にここの火山の火種は消えているらしい」

「そうなんだ。ここは死火山なのね。うん、ひんやりしてて気持ち良いわ」

 やや素っ気ないファイサルさんの説明に納得して頷き、彼の後についてまた全員揃って壁面の窪みに向かう。そこにはさっきと同じように赤い部分だけが無い円グラフもどきがあった。

 ここまでくればもう分かった。

 要するに、順番に全員の住処へ行って、切れてしまった火の魔晶石を置いてくればいいわけね。その際に、彼ら全員で移動する事で閉じていた各柱の扉も開いている、と。多分、この考え方で間違っていないわよね?

 ここでも茜を呼んで火の魔晶石を出してもらい、また皆で一緒に空いた三角の部分を火の魔晶石でいっぱいにした。



 その次に行ったのは、風の竜のデボラさんの住処。



「うわあ、緑で溢れてるわ」

 思わずそう言ったきり、後の言葉が続かない。

 そこは天井の高い洞窟になっていて、遙か頭上に見える天井部分の一部は崩落したらしく、ポッカリと穴が開いていて綺麗な空が見える。

 洞窟内部は、一面緑の植物達で覆われていた。

 壁から天井までを埋め尽くしているのは、多分アイビーみたいな蔦の葉っぱだった。濃い緑色の葉や、斑入りと呼ばれる白っぽい模様が入った葉っぱもある。

 それから洞窟の真ん中には一本の大きな広葉樹っぽい木が真上の開いた空に向かって真っ直ぐに育っていて、洞窟上部に大きくその枝を広げていた。これ、何十メートルあるの?ってくらいに見事な高さの木。幹も太くて立派だった。

 地面には柔らかな芝生のような植物が埋め尽くしていてとても柔らかい。日の当たる一帯には野の花が咲き乱れて良い香りがしている。

 言ってみれば、洞窟が丸ごとイングリッシュガーデンの温室みたいになっていて、とても素敵な空間だった。

「へえ素敵。ここに寝っ転がったら気持ちよさそうね」

 足元の柔らかな芝生っぽい植物を見ながらそう言うと、いきなりラディウスさんと、デボラさん、モルティさんの三人が、笑って地面に寝転がった。

「ええ、ここはとっても気持ちが良いのよ。ここでよく、こうやって一緒にクッションを抱えてお話ししてるのよ。次は貴女も一緒にやりましょうね」

 小柄なデボラさんが、まるで子供のように目を輝かせてそう言ってくれた。

「素敵、じゃあ次回は是非とも参加させて頂きます」

 そう言って、私も地面に転がってみる。

「うわあ、気持ち良い。思ったよりもふかふかなのね」

 柔らかな芝生を撫でながら揃って笑顔になった。

「ほら、するべき事をしてから遊べって」

 呆れたようなマーカスに頭を軽く叩かれて、もう一度笑って起き上がった。

 ここでも同じように、無くなっていた火の魔晶石を復活させてから、また移動した。



 次に来たのは、土の竜のモルティさんの所。



 ここもデボラさんと同じように天井の高い広い洞窟になっていたのだけれど、違っていたのは天井が開いていなかった事。

 その為ここは光が差し込まずに真っ暗で、私達が来るとすぐに光の球達が出てきてあっという間に明るく照らしてくれたわ。

 そしてここもまた、見事なまでに植物に覆われていた。

 だけど、さっきのデボラさんの所が明るいイングリッシュガーデンだったとしたら、ここはシダ類と苔とキノコの世界だった。大きな木は無く洞窟の壁面に沿うようにしてシダのような大きな葉の植物が生い茂っている。

 足元に広がってるのは、お寺の庭なんかでよく見る杉苔っぽい緑の絨毯。ううん、これまたふかふか。

 それから色とりどりの大小のキノコがあちこちから生えていて、なんとも不思議な光景だった。

 言ってみれば、ここは可愛らしい絵本の世界みたいだったわね。

 ここでも同じように、私の火の魔晶石を窪みに置いて無くなっていた三角のピースを復活させてやる。うん、もうこのやり方は解ったような気がする。



 そして最後が水の竜のマーカスの所。



 ここはある意味、とても彼らしい洞窟だった。

 広い空間にはやや赤っぽいレンガのような岩と白っぽい岩があり、地面は一面砂利と砂で覆われている。

 緑は無くて、光の球が照らしてくれる洞窟の壁面の岩は、まるでアメリカ旅行のパンフレットに乗っていた西部劇の荒野みたいだった。

 だけど、その岩のあちこちの隙間からは綺麗な湧き水がこんこんと湧き出していて、湧き出た綺麗な水はあふれて小さな川になって、地面を流れていた。

「へえ、こんなに水があるのにここには植物は生えていないのね」

 ちょっと不思議に思いそう呟く。

「世話をするのが面倒だからな。外へ出ればここは豊かで深い緑の森が広がっているよ」

 苦笑いしたマーカスの言葉に、なんとなく納得した。

 うん、彼はこまめに植物の世話をするタイプじゃなさそうね。

「一応、緑はあるぞ」

 笑ってマーカスが指差した場所には、これまた西部劇で見たような柱みたいな大きなサボテンが何本も育っていた。

「サボテンなら、世話は必要無さそうね」

 笑った私の言葉に、マーカスも笑って大きく頷いていた。

 ここでも、岩場に作られたくぼみに無くなっていた火の魔晶石を復活させた。



『ご苦労だったね。これで最初の大仕事は全部終わりだよ。見せてもらったがビオラの言う通りにとても優秀で感心したね』



 その時、ここまで黙ってついて来ていただけの、不親切チュートリアル改めビオラが、いきなり別人の声で話し始めて、驚きのあまり私は咄嗟にこう叫んでしまった。



「あ、あんた誰よ!」と。



 全員揃って驚きの目で私を見てるんだけど……私は悪く無いわよね?

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