ようやく分かった様々な事
「へえ、ギルドがあるんだ。良いわね、これも異世界の定番よね」
次のページをめくると、重要、との但し書き付きでギルドの組織について詳しく書かれていた。
それによると、街で何らかの商売をするのなら、商人ギルド。郊外へ出て素材採集や魔獣退治を請け負うのなら、冒険者ギルド。私用商用を問わず、もし船を持つのなら船舶ギルドに必ず所属するように、と書かれていた。
ちなみに、ギルドは全ての街が加入しているこの世界共通の組織なので、どこかの街で一度所属すれば他の街ではいちいち手続きをする必要は無いので、住む街を決めたらその街のギルドに加入するのが良い、とも書いてあった。
「じゃあ私が加入するなら、まずはメンフィスの街の商人ギルドかな? だけど冒険者ギルドってのも捨てがたいわね。冒険者を名乗れるなんて、これぞ異世界って感じだもの」
思わず読みながらそう呟く。そうそう、ギルドって異世界の定番よね。
何だか、だんだん面白くなってきてそう呟き、喉を鳴らしてすり寄ってくる琥珀の頭を撫でてやる。
「よし。それじゃあ私は、商人ギルドと冒険者ギルドの両方入ってみようっと。あ、だけど二つも同時に入って良いものなのかしらね?」
そう呟いて首を傾げる。
すると、茜が琥珀の横から顔を出した。
「ミサキ様。前のご主人は、その三つは全部入っていましたよ」
「そうなんだ。へえ、じゃあ大丈夫ね。あれ? 彼女は船も持っていたの?」
茜を撫でてやりながら考える。ノートには、船を持ってるって記載はなかったよね?
「ああ、船は一緒にお仕事していたお友達に売ったみたいだよ。例え小さくても、個人で船を持つのは、この世界の商人にとっては成功の代名詞だからね」
茜の言葉に私は大きく頷いた。
確かにそう聞けば納得する。船と言う事は常に港に停泊させて置く場所が必要な訳で、つまり場所が有限である以上、それなりに資金のある人じゃないと船を持つのは無理なんだろう。私の感覚だとプライベートジェットくらいかしらね? うん、そりゃあ確かに成功者だね。
次のページには、住む人々と一般常識について、と書かれていた。
「この世界には、私達人間以外にも様々な種族が住んでいます。言葉が通じ、文明的な生活をしている人々を総じて、人、と呼びます。へえ、人間だけじゃないのね。さすがは異世界」
思わずそう呟き、先を読み進める。
ナディアさんの説明によると、この世界にいる人の種族は大きく分けて四つ。
まずは、私のような人間。一番数が多い種族らしい。呼び名はそのまま人間。寿命は百年未満。皮膚の色や目の色、髪の色は様々で、体格もかなりの個人差あり。精霊魔法を使える者はたまにいる程度。
「まあ、確かに人間を改めて言い表すとしたらこんな感じね」
うんうんと呟きながら、すり寄ってくる琥珀と茜を順番に撫でてやる。
「エルフは、耳が尖っていて精霊魔法を使うとても長命で知的な種族。冒険者にたまにいる程度で少数。やや傲慢で気難しい人が多い。ただし、向こうから無理に絡んでくるような事はほぼ無く、どちらかと言うと周りに対して無関心な人が多い。ただし、人間側が絡んでいって返り討ちにあっている事はよくある」
ここまで読んで、呆れたように上を向いてため息を吐く。
「ううん、どうやらここの人間にも馬鹿な奴が多そうね」
苦笑いして、もう一度ため息を吐いた。
「ドワーフは、背は低いが頑強な男性達のみの種族。総じて頑固者。精霊魔法を使える者が多い。冒険者や職人に多い。ドワーフの女性は地下の住処から一切出て来ない為、街で見かける事はない」
その部分を読んで、思わず納得して小さく笑う。
「へえ、確かにドワーフの女性って聞いた事がないわね」
「獣人は、人間に次いで数が多い種族。その名の通り、犬や猫、ウサギのように獣の特性を持つ人の総称。獣の種類は多岐に渡る。総じて力が強く嗅覚や味覚などが敏感な者が多い。中には翼人のような翼を持つ者もいます。友好的な種族が殆どだが、一部、人に対して攻撃的な種族もいます。街に出て来る獣人のほとんどは比較的冷静で友好的な人が多いですが、冒険者達の中にはやや乱暴な者もいますので、注意するように」
声に出して読んでいたが、そこまで読んで思わず叫んだ。
「待って! 獣人、この世界には獣人がいるの〜!」
ケモミミ好きとしては、これは聞き逃せない話題よ。
またテンション上がったわ。これは街へ出る楽しみが出来たわね。是非とも獣人のお友達を作ろう。
嬉しくなってちょっと興奮してきたので、落ち着くために何度か深呼吸をした。
最後に大きなため息を吐いて、ノートに視線を戻した。
「一般的な常識やものの善悪は、基本的に私たちの知っている常識と変わりません。人の物を盗まない。勝手に店に並んでいる物を食べない。握手以外で人の身体に許可無く触らない。理由なき暴力も駄目。当然ですが、人を殺したり理由なく怪我をさせたりすると犯罪です。この世界には各街に自警団や警ら隊があり、警察、消防、そして治安維持などの役割を担っています。この世界の治安は、酷く悪い訳ではありませんが皆が善人という訳ではありません。特に、もしもあなたが女性ならば、年齢にかかわらずある程度の危機感は常に持った方が良いかと思います。特に、若い女性であるのなら、曖昧な態度は誤解を招き、相手に勘違いをさせて自分を危険に晒します。何か言われても、不必要な場合はきっぱりと断ってください。もちろん理不尽な暴力は駄目ですが、自衛の権利は当然あるので危険と判断したら迷わず抵抗してください。その際には眷属達があなたを守ってくれるでしょう」
その部分を読んでちょっと無言になる。
「まあそうよね。どこの世界にも馬鹿はいるわよね」
苦笑いして頷き、その下に書かれた文字を読む。
「ここを出て街へ行く前に、眷属であるサラマンダーに頼んで他の柱の竜達に連絡を取り、それぞれの柱への道を開いて各自の魔晶石と守護石の交換をしておいてください。そのやり方は彼らが知っています。それから、人の姿で街へ出るのなら、この火山の麓にある森林地帯にいる銀狼の長老を訪ねてください。必ず力になってくれます」
その部分を読んで、しばらく考えて納得した。
「ああ、さっきマーカスが言っていたあれね。まだ何かする事があるから後で呼んでくれって言ってた。了解了解。へえ、外には森林地帯があるんだ。銀狼……良いわね、狼さんに会いに行くなんて、異世界ならではじゃない!」
またちょっと嬉しくなって、琥珀を抱き上げて抱きしめた。
いきなり抱き上げられて驚いたのか、ちょっと嫌そうにしていたが私が笑ってるのを見て諦めてくれたみたい。ううん、良い子。
ナディアさんのノートのおかげで様々な事が分かってきて、これらから始まるここでの生活が、何だか楽しみになって来た私は、琥珀を抱きしめて撫でた後、膝に戻して茜を浅葱と反対の肩に乗せてやり、順番に撫でてから空中に浮かんでいる瑠璃も手を伸ばして撫でてあげた。
「改めてよろしくね、皆」
笑ってそう言い、改めてナディアさんの想いが詰まったノートを何度も優しく撫でてから、次のページをめくった。
気がつけば、不親切チュートリアル改めビオラはまたいなくなっていたわ。
ううん、猫以上に自由なキャラね。




