表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴン商店は素材屋さん  作者: しまねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/55

用意された部屋と眷属達の名前

「こっちよ」

 またしても何の説明も無く嬉々として私の手を引っ張る不親切チュートリアルちゃんに、諦めのため息を吐いた私は苦笑いして頷いた。

「はいはい、引っ張らないで。それで何処にあるのよ、その部屋って」

 そう言いながら、ふわふわと飛ぶ不親切チュートリアルちゃんの後を追う。当然全員ついて来る。

 もしかしてまた歩くのかとちょっと身構えたけど、幸い今回はそれほど歩かずに目的地に到着しました。あの丸い窪みのすぐ近くだったわ。

 ここだと言われた大きな岩の裂け目部分には、どう見ても不自然な木製の扉が取り付けられている。ううん、これ、どうやって取り付けたのかちょっと興味があるわね。

「ここ?」

「そう、あなたならこの扉を開けられるからね。ほら、入って」

 なんとなく全員から注目されながら、蔓草のような綺麗な装飾が施された扉のノブを握る。

 金属製のそれはひんやりと冷たい。

「あれ? 開かないわよ」

 何度押しても開かない扉を見て、振り返って不親切チュートリアルちゃんに訴える。

「引いて頂戴」

 呆れたように言われて、吹き出した私は頷いて扉を引いた。



 何の抵抗もなく、ゆっくりと扉が開く。



 入った薄暗いその部屋は、多分二十畳くらいはありそうな広い部屋だった。おんぼろワンルームマンションだった私の部屋より広いわよこれ。

 ほぼ正方形のその部屋は、突き当たりの壁一面が棚になっていて、大小様々な瓶が並んでいる。中が何なのかはここからは見えない。右側には本棚があり、これまたぎっしりと本が並んでいる。

 左側の壁はどうやらキッチンになっているみたいで、平らな机みたいになった部分と、石を削って作った穴が二つ並んでいる。

 薄暗い部屋を見渡して、杖を取り出す。

「ええと、光の珠さん、明かりをお願い出来る?」

 どうやったら良いのか分からなくて杖に向かって話しかけると、光の球が現れて杖の先に留まってくれた。



 一気に暗かった部屋に光があふれる。



「うん、ありがとうね」

 笑ってそう話しかけてから、部屋の真ん中に置かれた大きな机を見る。

 椅子が全部で六個あるって事は、柱の竜達をここに招いたりもしたのかもしれない。



 ちなみに、今の彼らは全員扉の前で立ち止まったままで、部屋には入って来ていない。



 彼らを呼ぼうと思ったが、その前に、机の上にポツンと置かれた一冊のノートに目が釘付けになった。

 その表紙にはこう書かれていたのだ。



「火の竜となったお方へ」と。



 無言で駆け寄り、手に持っていた糸の塊を置いてそのノートを手に取る。

 見た事の無い文字だったけど、今の私には普通に読む事が出来るのにも驚いた。

 ゆっくりと表紙をめくると、丁寧に書かれた文字がぎっしりと並んでいてまた驚く。

「ねえ、これって……」

「ああ、ナディアが書いていたノートね。私も何が書いてあるかは知らないわ」

 不親切チュートリアルちゃんがそう言って首を振る。

「そうか。それが彼女が言っていたノートだな」

 扉の向こうから、マーカスの声が聞こえて振り返る。

「何か知ってるの? ああ、放っててごめんなさい。どうぞ入って」

 一礼した全員が部屋に入ってくる。

「まずはそのノートを読むと良い。おそらくビオラの説明よりも色んな事がよく分かるだろうさ。読み終えたらまた俺達を呼んでくれ。眷属に伝言を頼めばすぐに駆けつけるからな。まだ幾つかやっておかなければならない事があるので、その時にしよう。それじゃあ俺達は一旦戻るよ」

 せっかく部屋に入ってきた彼らだが、マーカスは笑顔でそう言って消えてしまった。続いてファイサルさんも一礼して同じく消えてしまった。

「残念だけど、とにかく現状把握が先ね。落ち着いたら私達に是非アクセサリーを作ってね」

 ラディウスさんの言葉に、デボラさんとモルティさんも笑顔で頷き、次々と消えてしまった。



「ああ、帰っちゃったわ」



 何となく取り残されたような寂しさを感じてしまい、机に立てかけたまま光を灯している杖を見つめる。

「ねえ、皆出て来てくれる?」

 呼びかけに、次々と眷属達が現れて並ぶ。

「何か御用ですか。ミサキ様」

 茜が代表して口を開く。

「用があるわけじゃ無いけど、寂しいから出てきてもらったの。好きにしててくれて良いからね」

 順番に撫でてやり、少し考えて足元を走り回る子猫を見る。

「うん、やっぱり名前が必要よね。呼びかける時に名前がないのは不自由だわ」

 そう言って、子猫を抱き上げる。



「ええと、やっぱりこの子ならこれよね。よし決めた。あなたの名前は琥珀(こはく)よ。よろしくね琥珀」

 土の竜であるモルティさんの守護石の琥珀にちなんだ名前だけど、色の名前でも琥珀色ってのがあるからね。

 すると、子猫はブワッと毛を膨らませて私の胸元に飛び込んできた。

「嬉しいです。直々に名前を賜われるなんて」

 ものすごい勢いで喉を鳴らす子猫を笑って抱きしめてやる。

「うわあ、ふかふかで可愛い」

 しばらくふわふわのもふ毛を満喫した後、机の上に留まっている水色の鳥さんを見る。

「じゃあ、あなたは浅葱(あさぎ)ね。よろしくね、浅葱」

 綺麗な水色の羽の色からの命名。どんな色かと言うと、新撰組の羽織の色よ。

「ありがとうございます! 嬉しいです」

 翼を大きく広げて羽ばたいた浅葱は、私の右肩にふわりと飛んで来て留まった。

「ええと、あなたは瑠璃(るり)よ」

 空中をふわりふわりと泳ぐ不思議な水晶魚さんに話しかける。

「ありがとうございます!」

 空中でものすごい速さで一回転した瑠璃は、私の周りをくるりくるりと泳ぎ回っている。



 後は光と闇の珠達。

 少し考えて光の玉に向かって話しかける。

「じゃあ、あなたの名前は白磁(はくじ)よ。よろしくね、白磁」

 真っ白な陶器の色だけど、あの優しい光の輝きは白磁に繋がるものを感じたのよね。

「ありがとうございます。ミサキ様。直々に名前を賜われるなんて嬉しいです」

 点滅するかのように瞬いた後、また元の光に戻った。

「光をありがとうね。これからもよろしく」

 光に向かって手を振り、最後の真っ黒な闇の球を見つめる。

 せっかく全員に意味のある漢字の名前をつけてあげているのに、この子には、黒、以外思いつかない。

「ううん、単に黒って付けるのは何だか安直よね。黒のつく名前で何かないかなあ?」

 黒だけだと単に色を示す言葉だから、日常会話の中で出ないとも限らない。腕を組んでしばらく無言で考える。

 すると、自分だけ名前をもらえないと思ったのか、真っ黒なその子はコロコロと転がって置いてあった糸の向こう側に隠れてしまった。

 しかも、何やら震えた後、いきなりウニのように全身からトゲを出して真っ黒なサボテンみたいになってしまったのだ。これは間違いなく拗ねている。

 しかし、それを見た瞬間、私はある名前を思いついた。

「あ、これならピッタリね。よし決めた」

 苦笑いした私は、机を回り込んで闇の珠のすぐ横へ行った。

 転がって更に逃げようとするのを見て、口を開く。

「あなたの名前は、暗黒丸(あんこくまる)よ。よろしくね。暗黒丸」

 笑ってトゲを突っつこうと指を出すと、唐突にトゲが引っ込んで元に戻ってしまった。

「トゲに触れると痛いです。どうかお許しを」

 小さくそう言って震える暗黒丸を、私はそっと手の上に乗せてやる。

「直々にお名前を賜われるなんて、とても嬉しいです。ありがとうございます、ミサキ様」

 そう言ってプルプルと震える暗黒丸は、何だかすごく可愛く見える。まるで拗ねていた事を恥じているみたい。

「待たせちゃってごめんね。決められなくてちょっと考えてたの」

 ちなみに暗黒丸は、本体は緑だけどトゲが黒いサボテンの名前よ。会社の事務所に何故だか置いてあった。実はあれ、結構気に入ってたのよね。

 笑って手の中の暗黒丸を転がしてやると、嬉しそうに時々跳ねながら転がっている。

 机の上に暗黒丸を戻してやると、椅子に座って置いてあったノートを改めて手に取った。



 私は気分を切り替えるように大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと表紙をめくってノートに書かれた文字を読み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ