眷属達の交換会
宝石の交換が終わり、またどうしたらいいのか分からなくて困っていると、笑顔のマーカスが私の目の前まで来た。
「では我らの眷属も渡してしまおうか。ミサキ、杖をこっちへ」
差し出された右手に持っていた杖を渡すと、彼の左手の上に、さっき宝石を貰った時に見たような長いヒレと尾を持った優雅な青い魚が現れた。濃い青色の透き通った細身の身体がとても綺麗。
「俺の眷属の水晶魚だ。可愛がっておくれ」
笑顔でそう言って指先でその魚を突っつくと、ふわりと空中で回転したその魚は、あっという間に私の杖にある、さっきもらったブルーサファイアの中に消えてしまった。
「水晶魚がいれば、何処ででも水の精霊を呼び出して水を出す事が出来る。攻撃系の魔法も使える。そして眷属はいつでも持っている魔晶石を渡してくれるから、必要に応じて使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
返された杖を受け取る。すると、一匹のサラマンダーが私の杖を持つ右手に現れた。
その子は私を見て、それからマーカスを見る。もう一度振り返って私を見たところでこの子が言わんとしている事が分かった。
「マーカスの所へ行ってくれるの?」
うんうんと頷くその子の鼻先をそっと撫でてから、マーカスにその子を差し出した。
「可愛がってあげてね」
「ああ、これは可愛いな。ありがとう」
嬉しそうにサラマンダーを抱き上げると、取り出した杖にその子は消えていった。
ちなみにマーカスが取り出した杖は、太くてゴツゴツとしたいかにも硬くて重そうな杖。しかも杖の上部が子供の頭くらいはありそうに丸く枝が絡まっている。私の細い杖とは全然違っていて、どちらかと言うと杖と言うより武器って感じ。
あれで殴られたら確実に逝くわね。あれは鈍器よ鈍器。
「私はこの子を贈るわね」
次にそう言ってくれたのは、風の竜のデボラさん。
彼女は、私の正面に立つと完全に視線が下がる。私よりも頭半分くらいは低い。私の身長が165センチだから、かなり小柄ね。
彼女が差し出してくれたのは、鳩くらいの大きさの綺麗な水色の羽の鳥。
頭の上には、冠羽って言うんだっけ? 数枚の細い羽がオカメインコみたいに立ち上がっている。
濃い水色の尾羽も長くてとても綺麗。
ふわりと飛んだその子は軽々と杖を持つ私の右手に留まり、手の甲に頬擦りしてから持っていた杖のオパールの中にするりと消えていった。さすが鳥さん。ほとんど体重を感じなかったわ。
「風呼び鳥よ。その名の通り風を呼ぶ事が出来るからね。可愛がってあげてね」
「嬉しい。ありがとうございます。えっと、あ、この子が行ってくれるみたいです」
また一匹、サラマンダーが手の上に現れて私を見つめてくれたので、そっと撫でてから彼女に渡した。
デボラさんが持つ杖は、彼女の身長に合わせた短めの濃い茶色の真っ直ぐな杖。上側部分に私の杖と同じように枝が絡まった塊がある。そこにある石にサラマンダーはスルッと入っていった。
「じゃあ、私からはこの子を贈るわね」
そう言って側に来てくれたのは、土の竜のモルティさん。
差し出してくれたのは、なんとふわふわの長毛の猫! 毛の色は、全体に白と濃い茶色のブチ猫さん。
「か……可愛い!」
思わずそう叫ぶくらいその猫は可愛かった。
しかも子猫サイズ!
手渡されたその子を慌てて両手で受け止める。これまた軽くて驚いたわ。
子猫は可愛い声で鳴いて、抱いている私の手をぺろぺろと舐めてから、するりと抜け出して杖に嵌められた琥珀の中に消えていった。
「土猫よ。この子がいれば畑仕事は完璧になるからね。それから、森へ入れば季節外れの植物だって手に入るわ」
「へえ、そうなんですね。ありがとうございます」
ううん。この子のお世話になる日がくるのかどうかは分からないけど、可愛いから全部許す!
実はペットを飼った事が無い私。今、かなりテンション上がってます。
嬉しくなって杖を見ると、また一匹サラマンダーが現れて私の顔を見てくれた。
「あ、この子が行ってくれるみたい。可愛がってあげてね」
モルティさんも、笑顔で受け取ってくれた。
彼女の杖は、飴茶色の少しねじれたしっかりとした杖で、先端部分は渦巻き状になっていて隙間にそれぞれの色の宝石が嵌められてる。
サラマンダーは、迷う事なく赤い石に消えていった。
「それじゃあ私からは、この子を渡すわね」」
金髪のラディウスさんが差し出してくれたのは、何と光るまん丸なピンポン球くらいの球。
ものすごく明るいLEDみたいだけど、目は痛くない。だけど、薄暗かった火口内部がすっかり明るくなったくらいには明るいのよ。
「えっと、これって……何ですか?」
今までと違う眷族の姿に、戸惑いつつも受け取って聞いてみる。
「こんな姿だけど、ちゃんと言葉も通じるし話せるわよ。光の珠。私は光の子って呼んでるわ。ご覧の通り明かりを灯してくれる子よ。光の量は調節出来るから、遠慮せずにどんどん使ってあげてね」
光の珠は、私の手の中を転がってから、ふわりと浮かんで杖の上で留まった。まるでLEDライトみたいな見慣れた光にちょっと嬉しくなったわ。
また現れて来てくれたサラマンダーを撫でてから彼女に渡す。
彼女の杖は、私の杖よりもさらに長くて細い。白木の先端部分は細やかな枝が絡み合って丸くなっていて、全体にとても繊細で綺麗な杖。
サラマンダーが杖の石に消えていくのを笑顔で見送った。
「最後は俺から。まああまり役にたたんかもしれんが、戦闘能力は高いからな。護衛役だとでも思ってくれればいい。影玉だよ」
最後にファイサルさんが差し出してくれたのは、さっきの光の珠と対になるかのような真っ黒な珠だった。これは完全なる漆黒。どこにも影が無い。
「うわあ、最近発売された真っ黒な塗料みたい」
受け取ってみて、思わずそう呟く。
一瞬怪訝そうな顔をされたので、笑って手を振って誤魔化しておいたわ。聞かれても説明できる自信は無いって。
影玉も、転がるように手の中から出て、杖の中の石に消えていった。
「じゃあこの子をどうぞ」
また出てきてくれたサラマンダーを撫でてから彼に渡した。
ファイサルさんの杖は、見事なまでに真っ黒で真っ直ぐな杖。しかも杖の先端部分はまるで槍みたいになっていて尖っている。うん、これも完全に武器ね。
槍の部分に縦に細く見える石に、サラマンダーは平然と消えていった。
「ありがとうございます。大事にします。あ、でも猫と鳥と魚って大丈夫? 喧嘩したりしない?」
改めて、もらった眷属達を思い出してちょっと慌てた。
光と影の玉は別にしても、トカゲと鳥と魚と猫って、どう考えても猫の一人勝ちになりそうだけど大丈夫なの? あ、大きさを考えたらトカゲか鳥さんの方が強いのかしらね?
ちょっと心配になってそう呟くと、またマーカスが吹き出した。
「あんた本当に最高だな。そこらのペットじゃないんだから大丈夫だよ」
「そうなの?」
すると、三匹がするりと杖から姿を現した。その後から、光と影の珠も出てきた。
「ご主人様。仲良くしますからご心配なく」
「そうですよ、ご主人様」
「大丈夫だから心配しないでね。ご主人様」
「そうですよご主人様。喧嘩なんてしませんよ」
「ご安心をご主人様」
ああ、全員揃ってやっぱりご主人様呼び。
苦笑いして口を開こうとしたら、サラマンダーの茜が出てきて五匹(?)に向き直った。
「ミサキ様と、そう呼んでくれとのご希望だよ」
全員が揃って私を見るので、可笑しくなってちょっと笑った。何そのシンクロ率。
「そう呼んでくれる?」
「かしこまりました。ミサキ様」
声を揃えてそう言ってくれたので、思わず手を伸ばしてペットタイプの三匹を順番に撫でてあげた。
ああ、どの子も可愛い。




