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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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96◇女神の召喚

本日複数更新

こちら2話め



 

 男が再び現れた。


「七乙女モナナ! さすがは『稀代の魔道技師』と呼ばれるだけありますね! 私の自信作なんです! 素晴らしいでしょう!?」


「きみは……魔道技師なのか」


 モナナのセリフに応じようとした男の首が、飛ぶ。

 やつの影から飛び出したマッジがナイフを振るったのだ。


「ピチピチ衣装の嬢ちゃん、無駄だ。さっきので分かった、そいつ――そもそも生きてない」


 スワロウの言葉に、マッジが眉を顰める。


「失礼ですね【剣聖】スワロウ。肉体を失って久しいだけで、私は今も生きています。魂が元気なら、命を名乗るのには充分でしょう!?」


 男が再び出現する。


「……亡霊が、何故邪神を求めるのです」


「いけませんね【聖女】マリー。自らが信じる神以外を邪神扱いするのは、人間領でも戦争が起こるほど無礼なことでは?」


 幽霊になって生き続ける、というのは非常に難しい。

 生前の怨念から悪霊になる、なんて話があるように。魂だけになると心のバランスが崩れ、生きていた頃のように振る舞うことが難しくなる。


 恨みだけ、怒りだけ、悲しみだけ、喜びだけといったように特定の感情だけが過剰に増幅され、非常に極端な感情表現しか出来ない存在になってしまうのだ。


 こいつが霊魂となってまで、魔法や魔道具を利用しているのだとして。

 もはや生前のこいつとは違う生き物になっているだろう。


「あんたの未練は?」


 俺が尋ねると、男の身体が再び出現し、満面の笑みを浮かべる。


「愛ですよ、【勇者】レイン」


「愛?」


「まだ幼い貴方には分からないかもしれませんね。視線が絡めば頬が熱を持ち、その者のことを考えれば胸が高鳴り、笑顔を見たい、触れたい、触れられたい、求められたい、幸福にしたいという気持ちが溢れて止まらなくなる! そういった気持ちのことです!」


 言っていることの全てが分かるわけではない。

 だが――。


「少しは分かる気がするよ」


 その時、後ろの女性陣に緊張が走った……気がした。


「素晴らしい! 分かりますか!? 己を抑えられず、その者のためならばどんなことでも出来てしまう! それこそが愛なのです! 愛は素晴らしい! 愛こそ全て! その果てに誰を傷つけ誰を不幸にしようとも、相手を喜ばせることが出来たならば、それは素晴らしいこと! そうでしょう!?」


「いや?」


 興奮を隠しもせず饒舌に語っていた男が、表情をなくす。


「なに?」


 この男の霊魂は、生前何者かに抱いていた『愛』だけが過剰に増幅されているのだと分かる。

 だが。


「お前の気持ちは愛で合ってるのかもしれない。けど、やってることはめちゃくちゃ迷惑だ。素晴らしくはない」


「――愛を知らぬクソガキが」


「お前の愛とやらは、そのクソガキに止められるんだよ」


「やってみろ! 愛は止まらない! そして、あの御方は誰にも倒せない!」


 男が叫ぶ。

 マリーが俺の隣にやってくる。


「レインちゃん。霊魂の位置が分かりました、浄化してもよろしいですね?」


「…………いや、放っておいていい」


 儀式がもう止められないなら、この男を浄化しても意味がない。

 男が目を丸くし、それから微笑んだ。


 その微笑だけは、先程までのような仮面めいたものではなかった。


「――クソガキと言ったこと、訂正しますよ【勇者】レイン。貴方は愛だけでなく、慈しみをも持った真の英雄だ」


 男の身体が崩壊していく。

 この男は儀式を開始して、それが止められないと分かってから俺の前に現れた。


 自分の霊魂も、『裂け目』を開くための生贄に指定していたのだ。

 完全に消滅するまでの間に、誰かと話したかったのかもしれない。


「お前のやったことを認めるわけじゃない」


 今更こいつを浄化しても、儀式は止まらない。

 魔力には余裕を持って儀式を始めただろうか。


「そうですか。私は【勇者】だけを認めています。その紋章を持った者だけが、あの御方を、あの女性を、傷つけることが出来る」


「――なに?」


 俺の問いに応える前に、男の肉体が完全に崩壊してしまう。

 代わりに、男の立っていた場所に、『裂け目』が出来ていた。


 この日の戦いで俺達が放った魔法の残滓と、この戦いに参加してまだ生きていた魔族全ての命と、男の霊魂を捧げて開いた、たった一体の魔族が通る為のゲート。


「入れた。今日は入れた」


 現れたのは――。




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