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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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94◇六英雄の戦場

本日複数更新

こちら2話め




「うぉおおおおおおおおお! 【賢者】様を守れ!」「我らの命に代えてもアルケミ様だけはお守りするのだ!」「彼女を欠けばこの戦場はおしまいだ!」「了解!」「もちろんだ!」


 またしても次の戦場の上空に転移した俺。

 空まで響く熱量の叫びを聞いて、すぐに視線を落とす。


 なるほど、敵軍もアルケミの厄介さに気づき、魔法攻撃や歩兵、騎兵を集中させている。

 それを兵士たちが守っているのだ。


 アルケミだけならば、砦などに配置して『魔法砲台』として運用するのが最も戦果を挙げられる。

 しかし、彼女は絶対にその方法をとらない。


 彼女が安全圏にいては、打って出て戦っている兵士たちに『治癒魔法』が届かないからだ。

 彼らを治療できる範囲にいるために、アルケミは自らを危険に晒すことも厭わない。


 彼女のその優しさは、普段の態度ではとても伝わりにくいけれど。

 アルケミは紛れもなく、人類の六英雄なのだ。


 この戦場の兵士たちは、きっとそれを理解してアルケミを守ろうと――。


「幼いのに幼くない! 最強だ!」「子供に手を出すのは絶対に許されない! だが小さいは可愛い! アルケミ様のような方こそが救世主だ!」「神が作った奇跡!」「合法ロリ!」


「……魔族より先に殺すべき者がいるように思うのだが」


 兵士たちの熱量に押されつつ、俺は距離をとってアルケミを狙う敵の魔法部隊を『氷』魔法で全て氷像に変える。

 凍てついた戦場に、冷たい空気が流れた。


 残りの敵であれば、アルケミやここの兵士たちがいれば問題ないだろう。


「レインか。助かった。この社会不適合者共を守りながらの戦いにうんざりしていたところだ。ついでにこの者たちも凍らせていけ」


 仮にも味方だから、やめとくよ。

 

 ◇


 次の戦場にいたのは、【魔弾】のシュツだ。


 彼が放った矢は一体の魔族を貫き、二体目の胸を貫き、三体目の頭を貫き、四体目の目を抜け、五体目の右耳から入って左耳から抜け――と、何十何百の敵を一射で倒してしまう。


 それを、彼女は連射するのだから凄まじい。


 だが他の兵士たちを守ることに注力するあまり、遠方からこちらを狙う射手に対処できずにいるようだ。


「ひゅー! さっすが六英雄だぜ!」「百発百中どころじゃねぇ! 一発三百中くらいあるんじゃねぇか!?」「にしてもえらいベッピンだな!」「はぁ? ありゃ男だろ?」「いやいや女だろ、俺はさっき乳の膨らみを見たぞ」「俺が前に見た時は平らだった!」「おい! ついてるのか!? ついてないのか!? どっちなんだ!」「馬鹿野郎! あのツラだぞ、どっちでもいけるだろうが!?」


「……次の標的は、あの馬鹿たちかな」


 シュツが矢を番える。


「落ち着けシュツ! あれは味方だ!」


「え? 女の敵でしょ」


 彼女は俺の登場にも驚かず、平然と言う。


「そうかもしれんが、今は抑えてくれ!」


 俺は雷撃を放ち、周辺の敵を電熱で灼き倒す。


「……あぁ、これで弓勝負に集中できる。ありがとね」


「どういたしまして」


 戦いが終わったあとに兵士たちが射抜かれぬよう祈りつつ、俺は転移する。


 ◇


 次の戦場はやけに静かだった。


 息を呑むような音だけが、血の匂いに混じって俺まで届いてくる。

 眼下には、無数の魔族の屍が転がっている。


 その全てに、剣による傷が刻まれている。

 骸の山を築き、血の海に佇むのは、赤い髪に傭兵然とした格好の男。


 目を覆うように布を巻いているのが特徴的なその人物こそ――【剣聖】スワロウだった。


「あ、圧倒的だ……」「俺らいらないんじゃないか?」「ば、馬鹿! 足を止めるな! いくら英雄殿でも全ての敵には対処出来ない……はず」「剣聖……あれはもう、剣の鬼だろ」


 味方さえも震えるほどの剣の達人。


「……剣の鬼ねぇ。まぁ、呼び名なんぞなんでも構いやしねぇんだけども」


 呟きながら、新たに迫る敵に斬りかかるスワロウ。

 彼の一刀は、切断の確定を意味する。


 そこから逃れられる者はいない。

 全ての敵が身体を真っ二つにされるか、首を飛ばされるかして命を落としていく。


 あれで目が見えないというのだから、恐ろしい剣士だ。


「あ、坊主。空を頼むわ」


 彼がそんなことを言った。


 ――気配で俺の存在に気づいてたか。


 そして、上空の敵にも。

 空を覆い尽くすように、飛行型の魔族が迫っていた。


「了解」


 次の瞬間、花火が連続で打ち上がったように轟音が連続する。

 世界が赤く染まり、敵魔族が全て爆散した。


 爆風は眼下の兵士たちにも迫り、体勢を崩す者までいた。

 スワロウだけが涼しい顔で笑っている。


「はっはっは、魔法の威力がえらい上がってるなぁ」


 その拍子にスワロウの目を覆う布も風に攫われて飛んでいってしまう。

 魔剣の呪いで視覚を奪われた彼の瞳は濁っていたが、右目だけは淡い光を放っている。


 剣を模した【剣聖】の英雄紋は、その右目に発現していたのだ。


「ありがとさん。あとは任せな」


「あぁ」


「いや、ちょっと待て坊主」


「ん?」


「みんな詳しく教えてくれねぇんだが、俺もその『ひも』っつぅの? 美女と乳繰り合ってるだけで金までもらえるっていう夢の職業に興味津々――坊主? もういねぇのか?」


 スワロウはやっぱスワロウのままだった。




書籍版発売まであと2日!


明日多めに更新予定です。

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