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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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90◇決戦間近

本日複数更新

こちら1話め




 ある日のこと。


 俺は魔王城の会議室に呼び出された。

 顔を出すと、既にそこには魔王軍の幹部たちが勢揃いしていた。


 魔王のおっさんもいつになく真剣な顔で、俺を見ても僅かに頷くばかり。

 俺は空いている席に座った。

 会議が始まる。


「ついに敵の侵攻作戦の概要が掴めたわ」


 発言したのは筆頭情報官のヴィヴィ。


「人類にとって、最も効果的で、最も脅威的な作戦よ。すなわち――一斉攻撃」


『……まずいわね』


 ミカの呟きに、俺は頷く。


「あぁ」


 人類は長らく悪しき魔族に苦しめられてきた。

 今の人類領は、籠の中の鳥のようなものだ。

 そしてその籠は、年々小さくなっている。


 魔族に奪われ瘴気に侵された土地は、人が住めないほどに汚されてしまう。

 六英雄がどれだけの魔族を倒しても、奪われた土地は奪還できないのだ。


 正確には、浄化する術こそあるが、それには多大な労力と英雄の力が必要で、人類にはその余裕がない。

 そんな状態の人類がなんとかやってこれたのは、悪しき魔族共が一枚岩ではない、というのが非常に大きい。


 幾つもの国、軍、集団が生まれては消え、互いに争い合ったりもする。

 魔族は脅威だが、足並みを揃えるということができない。


 だから、人類はまだ存続している。

 六英雄が世界中を巡り続ける、という方法でなんとか戦えている。


 だが今回は、『神』の名の許に敵が一致団結しているという。

 もし、籠を押し潰すように四方八方から同時に敵が迫ってきたら……。


 それは人類の終焉となるだろう。


「……あのさ、俺達は強い魔族を沢山倒してきたよな。二つ名がついてるような奴らじゃなければ、人類の精鋭軍でなんとか対応できる。敵の一斉攻撃をヴィヴィが『脅威的』って表現したってことは――討ち漏らしが沢山いるってことか?」


 ヴィヴィが苦しげな表情で頷く。

 沢山遊んでいるようにも思える俺達だが、仕事はしっかりとこなしていた。


 【勇者】も【賢者】も【聖者】も魔族領で悪しき敵を狩り、更なる強化を果たしている。

 それでもなお、今回ヴィヴィが掴んだ情報は人類を窮地に陥れるものであるという。


「それに関して、新たに判明した事実がある」


 マッジが声を上げた。


「私が魔界に潜入していた時、尋問した敵はみな、目的を語る時も、畏れからか『神による人類侵攻』とのみ口にした。だから私は、勘違いをしてしまった」


「勘違い?」


「魔族は元々一枚岩ではない。より上位の魔族を前に屈することはあるが、全員一丸となるのは難しい」


「分かるよ。人間で言うところの天下統一みたいな難易度だよな」


 全ての人類をたった一つの国の民とし、まとめあげる。

 その難しさは言うまでもない。


『でも、ヴィヴィは一斉攻撃の作戦を掴んだんでしょ?』


「そう、つまり、どのようにしてそれが成立したのか、ということが重要」


 簡単に一つにならない筈の悪しき魔族どもが、一つになった。

 俺達が沢山の上位者を倒したにもかかわらず、ちゃんとまとまって――ッ!?


「そうか、マッジ。人類領に自分を喚ぶよう命じた『神』は、複数いるんだな?」


 会議室に激震が走る。


「その通り。確認できたのは二体。便宜上『男神』と『女神』と呼び分ける。我々が始末してきた異名持ちはみな、男神の信奉者であったと判明」


 この国の情報官や【軍神】の知略が優れていたのはもちろんだが、その上で俺達が掴んだ情報は意図的に流されたものであった、ということか。

 情報自体は本物で、俺達が敵戦力を削ったのも事実。


 しかしそれは女神側にとっても有利に働いていた。

 女神側にとってライバルが弱体化するだけではない。集団を統率する上位個体が消えたことによって、その者たちを自分たちの勢力に加えることも出来る。


 男神側についても英雄やジャースティ国の者に狩られるだけ、女神側の方がより強くより優秀である、といった具合に。


『……悪しき魔族らしからぬ動きね』


 瘴気に蝕まれた悪しき魔族は戦闘狂と化し、策略を巡らせることは滅多にない。


「正気のやつがいるな。多分そいつが参謀だ」


 俺の言葉にマッジが頷く。


「ここまでの情報を踏まえてなお疑問なのは、女神側が何故人類侵攻の情報を我々に握らせたか、ということだね」


 魔王が渋い声で言う。


「わざとだとしたら、俺達に防衛させたいんだろう」


 ジャースティ国の協力者と、六英雄、そして人類の精鋭たち。

 それらを全員戦場に引きずり出したいのではないか。


 そうでなければ、ここまで周到に戦力を隠してきた女神サイドが、急に自分たちの存在や作戦を明かすわけがない。

 しかし、分からないこともある。


「俺はマッジの話を聞いてからずっと、敵は神を召喚するための魔力を集めているんだと思った。実際、白狐さまみたいな霊獣を捕らえて魔力を抜こうとしてる奴らはいたしな」


『そうね。あたし達が強い敵を倒すのも、「氷獄王」の時みたいに「自分たちを生贄にしてまで上位者を召喚する」って方法を封じるためでもあるわけだし』


 ミカの補足に頷きつつ、俺は続ける。


「だが今回の人類領侵攻作戦が実行されるとなると、神を召喚するための魔力を無駄遣いすることになるよな? 魔法を使えば魔力が減るし、強いやつが死ねば生贄には使えなくなる」


『そもそも、順番が変よね? 神を召喚して、そいつに六英雄を倒してもらおうっていうのが奴らの思惑なわけでしょ? 召喚前に戦い仕掛けるってどういうこと?』


 人類には大打撃を与えられるだろうが、向こうも主要な戦力を失うことになるだろう。

 六英雄はおそらく、一人も欠けない。


 人類の終焉には大きく近づくが、神の召喚は大きく遠のく。

 神の召喚自体、本当は狙っていないのか?


 しかし裏に『神』クラスがいなければ、ここまで魔族がまとまるなんて有り得ない。

 何かを見逃している気がするのだが、その何かが分からない。


 そんなもどかしさがあった。


『……でも、敵の動きが妙だからって、見捨てるわけにはいかないわよね』


「そうだな、それは間違いない」


 俺はマッジとヴィヴィに視線を巡らせる。


「それで、敵の侵攻はいつ始まる?」


 二人は顔を見合わせてから、代表してヴィヴィが口を開いた。


「明日よ」


 俺が生まれてから最も大規模な戦いが、明日始まるようだ。




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