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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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89◇ヒモ争奪戦

本日複数更新

こちら3話め




「エレノアさんに聖剣さま、そして淫魔の女王が如き女人は理解できますが……アルケミ、貴女はどういうおつもりですか?」


 メイジが「あのー、初絡みで人を淫魔の女王呼ばわりは酷くありませんか?」と指摘するが無視された。


「純粋な知的好奇心によるものだ。誰かが試すというなら、自分でも問題あるまい?」


「レインちゃんがたとえば十分間だけだとしても、わたくし以外を好きになっていいわけがないでしょう!?」


 マリーが叫ぶ。


「その暴走グセを治せないならレインさまへの面会を禁止しますよ! 迷惑聖女サマ!」


 エレノアが叫び。


「前に『転移』でレインから引き離されたことをもう忘れてるみたいね、今度も吹き飛ばしてやるから!」


 ミカも叫ぶ。


「十分間ですかぁ……まぁ一発というところでしょうか」


 メイジが謎の発言をし。


「実験ならば【聖女】マリーよりも【賢者】である自分向きであることは明白」


 アルケミが杖を構える。

 五人がジリジリと距離を詰める中、マリーから俺を奪う者がいた。


「どこから――!? 影!?」


 マリーが驚愕の声を上げる。

 そう、彼女の影から飛び出したマッジが、俺を奪ったのだ。


「レイン様は私が守る」


「よくやりましたねマッジ!」


 エレノアが褒めるが、マッジは立ち止まらず走り出す。


「ここには危険人物がいっぱい。私が安全なところまでレイン様を護送する」


「マッジ!? う、裏切りましたね!?」


 エレノアの愕然とした声。


「さすがはマッジですわ! ここはわたくしと共にレイン様に快適な隠れ家の提供を――」


「フローレンスは不要」


「んなぁ……!? もう! 警備員全員に通達! 隊長の離反を確認! マッジを解雇し危険人物と認定! 捕らえた者にはボーナスを出すと言いなさい!」


「お嬢様の声が大きすぎて敷地中に轟いているので通達の必要はないかと」


 フローレンスとセリーヌの主従コンビのやりとりが聞こえてきた。

 ふとヴィヴィを見ると、鋭い眼光でマッジを射抜いている。

 その視線はこう語っているようだった。


 ――『あたしの情報網から逃れられるとでも?』と。


 マッジがここから逃げおおせても、ヴィヴィには逃走先を突き止める自信があるようだ。


「逃げられませんよ~。影魔法だろうと、空間転移だろうと、わたしの結界術からは逃れられません」


 ルートが目を見開き、結界術を発動。

 結界術は内と外を区切る魔法だ。


 結界内に瘴気を通さないように、結界外に人を出さないといったルールの設定も可能。

 ルートほどの術者が言うなら、本当に『空間転移』であっても外に逃げることは出来ないのだろう。


「レイン様を連れ出す? 折角パーティーを一緒に過ごせると思ったのに……いくらマッジでも……そんなの許せないよ」


 レジーから莫大な魔力が発せられる。


「おい馬鹿レジーやめろよ!? あの魔法は絶対に使うなよマジで! 屋敷をふっとばすつもりか!?」


「くっ……! レジー……かくなる上は!」


 暴走寸前を止めるため、フェリスが懐から何かを取り出す。

「『寝ぼけ眼でパジャマから着替える勇者さまの写真/少し胸板も見える』この秘蔵の一枚を貴女にあげますから、落ち着くのですレジー!」


「うぇっ!? なにこのお宝写真!?」


 レジーが一瞬で写真に気を取られる。

 フェリス、いつの間にそんな写真を……。


 しかし、よくよく思い返してみると、寝ぼけてる時に「写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」と訊かれて了承したことがあるようなないような。


「……っ」


 マッジはマッジで、逃げ場がなくなったことに歯噛みしていた。


 先程のレジー以外は会場を破壊しないよう気を遣いながら追いかけっこをしているので、中々決着がつかずにいる。

 気づけばシュツも弓を構えていた。


「レインが誰と過ごすかは本人が決めることだよ。連れ去ろうとするのは見過ごせないな」


 と、みんなが騒いでいる間。


 俺はずっとチョコのことを考えていた。

 モナナがチョコに混ぜた何かの効果なのか分からないが、とても、とても甘そうな匂いがするのだ。


 食べたあとどうなるかを聞いた後でも、思わず口に入れたくなるくらいに。

 俺は先程から、その衝動と戦っていた。


 かつて一国の民を眠らせ『理想の世界』に閉じ込めた『悪夢王』という魔族がいた。

 六英雄もみなその夢の世界に閉じ込められたが、俺は数秒で出てきた。

 抗いがたい理想の世界からも、すぐに抜け出せたというのに。


 今このお菓子を食べたいという気持ちに打ち勝てずにいる。

 おそろしいお菓子だ。


「……こうなったら、二人きりは諦める」


 マッジが何ごとか呟く。


「レイン様。正直に言う、私を見ながらチョコ食べてほしい」


 彼女は俺を下ろし、真剣な表情で見つめた。

 マッジが俺の手を掴み、チョコを持っている手を俺の口へ――。


「させるもんですか!」


「レインさまのドキドキは誰にも渡しません!」


「貴重なサンプルを失うわけにはいかない」


「勇者様は若いので、急げば二発はいけるかもしれません」


 ミカ、エレノア、アルケミ、メイジが『空間転移』で再び出現。

 結界内の移動なので、これは問題なく行える。


 問題なのは、全員が俺に触れ、同時に『空間転移』を発動したことだ。

 おそらく四人ともが、俺と自分だけを別の部屋に転移させようとしたのだろう。


 しかし全員の魔法が同時に発動したことによるイレギュラーによって、魔法は予期せぬ結果を生んだ。

 こういった事態では俺がとんでもなく遠い場所に転移する可能性もあるのだが、そこはルートの結界術のおかげで防がれたのだろう。


 四人の魔法式やルートの結界術がいかに干渉したのかは分からない。


 だが結果的に俺は、食堂の天井付近に転移。


 咄嗟に体勢を整えようとした俺はチョコを放ってしまう。

 しかしチョコは奇跡的に俺の口の中に落ちてきた。


 あるいは俺自身が、無意識にキャッチしようとしたのかもしれない。

 着地しようと食堂の床に視線を落とした俺は、天井を見上げる招待客全員を視界に捉えてしまった。


 後で聞いたところによると、このチョコの失敗部分は、口にした者の記憶が十分間消えてしまうことにあるという。


 つまり、俺にとってはチョコを食べた『次の瞬間』だが、実際にはそれは十分後の世界で。


 記憶にない十分の間で、俺が何かをしてしまったらしい。

 しかし、意識を取り戻した俺は、それを知る術を持たなかった。


 まるで死屍累々の戦場。


 エレノアなどは久々に鼻血を噴きながら倒れていたし、『七人組』以外の面々もそれぞれ甚大なダメージを負っているようだった。


 メイドのフェリス、メイドのアズラ、執事のセリーヌ、魔王軍最強の魔法使いメイジ、【賢者】アルケミ、【聖女】マリー、【魔弾】シュツといった面々まで、力尽きたように倒れていたり、壁に背を預けるように尻もちをついていたり。


 とても話を聞ける状態ではなかった。


「一体何が……そうだ……! ミカ!」


 十年来の相棒ならきっと無事な筈だ。

 しかし、発見したミカはまるで強大な敵との戦いに敗れて力尽きてしまったかのように、俯せの姿勢で床に倒れていた。


 俺は慌ててミカを抱き起こす。


「ミカ……! 一体何があったんだ……!」


「う……レイン?」


 ミカは薄っすらを目を開け、俺を見る。


「正気に戻ったのね……よかった」


「やっぱりこの惨状は俺の所為なのか……」


「あんたは悪くないわ……ただ」


 ミカが力無げに腕を上げ、俺の頬をそっと撫でる。


「あのチョコ……もう、絶対、食べちゃダメよ……」


 その言葉を最後に、ぱたりとミカから力が抜けてしまう。


「ミカ……!」


 その後、俺は動ける黒服――マリーに吹っ飛ばされた人たちは気絶していて俺がどうなったかを知らず、他にも食堂にいなくて無事だった人員が沢山いた――たちの力を借りてみんなを介抱。


 エレノアの鼻血を止めるのに治癒魔法を使ったりしたが、基本的にみんな肉体的なダメージはゼロだった。

 精神的ダメージだけであの戦力を無力化したというのか……。


 俺は一体何をしてしまったんだ。


 落下中、チョコを口に含んだ俺は眼下のみんなを視界に捉えた。

 チョコの効能を思うと、あの時食堂にいたみんなに『十分間ドキドキ』していたことになる。


 それがどうしてあんなことになるのか。


 『七人組』だけならばさすがに慣れてきたが、そうでない者まで倒れたのだから謎である。

 しかし聞いても誰も教えてくれないばかりか、あのチョコ――に混ぜた薬品――は精製禁止になったらしい。


 俺はとんでもないものを食べてしまったのかもしれない。




書籍版発売まであと4日!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだ?なんだ?(゜ο゜人)) たかが十分されど十分で一体何が(?・・) ウイスキーボンボンみたく酒が入ってて酒乱で暴れたのか?(‘◉⌓◉’) 笑い上戸、甘え上戸、泣き上戸、色々あるが最…
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