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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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87◇お出迎え4

本日複数更新。

こちら1話め

 



「ヴィ、ヴィヴィ……」


 俺と視線が合うと、ヴィヴィは涙目になった。


「ゆ、勇者レイン! こいつらなんとかして頂戴! 門についたら急に身体チェックされたり不審物なんて持ってないのに何故か拘束されたり大変だったんだから!」


「ちなみに身体チェックは女性警備員が行いました」


 と、ヴィヴィを連れているオーガの女性警備員が補足した。


「だからってあそこまですることはないでしょう!? ここがレイン邸でなかったら強行突破してるところだったわよ!」


 ヴィヴィの心の叫びが玄関ホールに轟く。


「ご苦労、下がっていい」


 マッジの言葉に、警備員二名がヴィヴィから手を離し、軽く頭を下げてから外に戻っていく。


「フローレンス……マッジ……どちらかの仕業ね?」


 幽鬼のような足取りで歩きだしたヴィヴィが、二人をギロリと睨む。

 一般人なら、それだけで訊かれてもいないことまで洗いざらい吐いてしまいそうな威圧感だった。


「私の仕業」


 マッジが挙手して、自分の指示だと自供した。


「……一応、理由を聞いてあげようじゃない」


「警備がどれだけ私の指示をこなせるか試したかった。そこで仮の脅威としてヴィヴィを設定。侵入者への対応を確認したということ」


「あたしが! 訊きたいのは! どうして親友に! しかも無断で! 警備テストを仕掛けたのかってことよ!」


 ヴィヴィが荒ぶる。

 マッジは沈黙した。


「マッジ……!? なんとかいいなさい!」


「……ヴィヴィ。『親友』とか、照れる」


 マッジは顔を逸らして頬を掻いた。


「今そういう状況ではないのだけど!!!」


 ヴィヴィ、ブチ切れる。


「マッジの気持ちも理解できますわ。ほら、貴女前回レイン様が口に含んだスプーンを持ち帰ろうとしたでしょう?」


 フローレンスが言う。

 俺はすぐに思い出した。かき氷を食べた時、確かにそんなことがあった。


「んぐっ、だからあれは……」


「えぇ、えぇ、たまたま変えようとしただけなのよね? あの見苦しい言い訳を信じるとして。また同じことをされては困るでしょう? きっと身体検査をしたのはそのためね」


「あ、あたしがスプーン持参してまた同じことをするとでも!?」


「マッジ、警備員は何か回収したかしら?」


「帽子の裏に一本、ジャケットに二本、足――」


「親友として警備テストに協力できて嬉しい限りなのだわ!!!」


 ヴィヴィが叫んだので、マッジの声はよく聞こえなかった。

 フローレンスが勝ち誇ったように笑う。


 どうやら話はついたようだ。

 ヴィヴィが納得したなら、俺から何か言うこともあるまい。


「そうでしょうそうでしょう? ようこそヴィヴィ、歓迎いたしますわ」


 こうして、『七人組』が全員到着。

 招待客のほとんどが揃ったことになる。


「まぁまぁ! 勇者様ったらこんなに大勢の美女を自宅に招いて『愛の日』のパーティーを開くだなんて、罪なお・か・た」


 気づけば隣に紫髪の美女がいた。

 彼女は片手を膝にあてながら腰を曲げ、もう片方の手で俺の頬をつんつんしている。


 俺の知人の中では最も背が高く、最も胸が大きい女性だ。

 扇情的な格好に、コロコロと絶え間なく変わる表情。

 語る言葉が全て本心のようでもあり、全て演技のようでもある不思議な女性だ。


 魔王軍の魔法部隊を実質的に率いる才媛にして、【賢者】以外で『万有属性』に辿り着いたおそらく唯一の人材。純粋な魔法使いとしてはこの国最強だという――『幻惑の魔女メイジ』。


「あらぁ?」


 メイジが俺の頬を突こうとした指が、見えない何かに遮られているように、俺に触れられずにいた。

 一瞬前まであった指の感触は、もう俺に届かない。


「ルートちゃんですかぁ。相変わらずびっくりするくらい繊細な結界術。これでももう少し戦い向きの性格なら、戦場でも大活躍できたでしょうに」


「ふふ、メイジ様ったら~。後進を育てることも大事なお仕事ですよ~」


「ルートちゃんの教え子たちは基礎がしっかりしていて大変優等生なのですけど、勝ち気に欠けるんですよねぇ。仲間であっても競い合う敵、くらいの気概がほしいなぁ、なんてわたくしは思ってしまいます」


「わたしは、魔法とは罪なき人々を守る力だと思っていますので~」


「魔法とは、罪なき人々を守るため、それを傷つけんとする悪漢共を殺す力ですよ?」


「……本日は、わたしの教育方針へのクレームを言いに?」


 ルートの声が僅かに低くなる。

 メイジはパッと表情を切り替え、驚いたように手を横に振った。


「まさかぁ。勇者様にお誘いいただいたので? 嫁候補として不参加なんて有り得ない、っとやってきたのです」


「へぇ、そうですか~」


 ルートの声が冷え切る。


「だからルートちゃん、わたくしと愛する勇者様を遮るこの不可視の壁を解除してくださいな。障害は愛を大きくするスパイスではありますが、そろそろ夫のぷにぷに肌を堪能したいのですよ」


「ふふふ、お断り致します~」


「えー、じゃあ壊すしかないでしょうか」


「……お試しになられては?」


 魔法学院の講師として、魔法使いを育成するルート。

 彼女にとってメイジは、教え子の就職先の上司、ということになるのか。

 魔法への向き合い方も異なるとなれば、関係は俺が思うより複雑なのかもしれない。


 俺が二人を仲裁しようとしたところで、声。


「城を訪ねてみれば、レインは邸宅にいると言う。そもそも自分は家を持ったという話は聞いていない」


「そんなことよりも! 『愛の日』というのならば、何故愛しのおねえちゃんであるわたくしが誘われていないのか!」


「というか……招待されてないのに来ていいものなの? そもそも、ぼくはこの国自体が今日初めてなんだけど……」


 よく知ってる三人だった。

 『空間転移』でやってきたらしく、ポンッと玄関ホールに出現する。

 俺の横でメイジを警戒していたミカが、三人の登場に声を上げる。


「ドデカ三英雄がやってきたわね」


「ドデカ三英雄?」


 ミカの言葉に、俺は思わず反応してしまった。


「圧倒的ロリ巨乳! 【賢者】アルケミ!」


「……その魔力反応は聖剣か?」


 ピンク色の髪に、子供と間違われる体格、そして大きな胸。

 世界最高峰の魔法使いである【賢者】アルケミ。


「狂気の自称姉! 【聖女】マリー!」


「どういうことですかレインちゃん! 女人が、女人が増えていますよ!?」


 黄色いふわふわの長髪に、誰もが振り返る美貌、そして大きな胸。

 死んでさえいなければ誰であろうと治癒可能といわれる【聖女】マリー。


「エルフ印の恋愛初心者! 【魔弾】シュツ!」


「しょ、初心者じゃないから! 特定の相手がいない期間が少し長いだけだから! え、というか聖剣様!? 人間の女の子じゃないか!」


 緑の髪に、中性的で美しい顔と華奢な体格、そして大きな胸。

 狙った獲物は逃さぬ百発百中の腕前を誇る狩人【魔弾】シュツ。


 人類の六英雄の半数を占める女性メンバーが勢揃いしていた。


「来てくれたのか。悪い、招待したかったんだけどタイミングがなくて。この日のことを知ったのも二日前のことなんだ」


「……虚偽を述べている気配はない。信じよう」


「当たり前です! 知っていればレインちゃんはわたくしを真っ先に誘うはずです! そもそもわたくしとレインちゃんの姉弟水入らずの日になったに違いないのです!」


「招かれざる客、って感じじゃないならよかった。他の人にも挨拶したいな、レイン、紹介を頼めるかい?」


 三者三様の反応を見せながらも、三人はパーティーに参加ということに。

 ちなみに【軍神】は多忙から不参加、【剣聖】はマリーの判断で置いてきたようだ。


「まぁ! 賢者様! 賢者様ではないですかぁ」


 『幻惑の魔女』と呼ばれるメイジが、先日自分を魔法戦で打ち負かしたアルケミに駆け寄る。


「……貴嬢か」


「また逢えて光栄ですわ。よろしければわたくしと魔法談義でも……」


「興味がない」


「そう仰らずに~」


 アルケミはメイジに絡まれて面倒くさそうだが、ルートとミカは満足げだ。

 メイジが俺から離れたからだろうか。


 とにかく、これで全員揃ったな。

 俺はフローレンスの方を向く。


 彼女も俺を見ていた。


「皆様、本日は起こしくださり光栄ですわ。ささやかながら、このフローレンスが! レイン様がため! 食事など手配させていただきましたので、どうぞお楽しみあれ」


 そして、パーティーが始まる。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ドデカ三人衆を連れてきたよ! 脳内であの有名なヤツが流れた。
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