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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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86◇お出迎え3

本日複数更新

こちら3話め




「はっはっは! ここが噂に聞くレイン邸か! フローレンス嬢も奮発したものだな!」


 大柄な獅子の獣人がやってくる。

 魔王軍四天王のライオだ。


 優れた武人で、五年前から『七人組』を気にかけてくれているのだという。

 俺に対しても何かと世話を焼いてくれるので、元々面倒見のいい性格なのだろう。


「まぁ、ライオおじさま。ようこそいらっしゃいました。我が夫レイン様と共に、歓迎いたしますわ」


 フローレンスが嬉しそうに微笑み、優美に一礼する。


「誰が夫ですか誰が!」「結婚歴詐称女」


 エレノアとマッジが即座にツッコミを入れていた。

 そんな三人のやりとりを楽しげに眺めながら、ライオは笑う。


「こちらこそ、お招き感謝する。ほら、お前もそろそろ起きるのだ」


 ライオは誰かを背負っていた。


「うぅん……あと八時間……」


「健康的な睡眠時間は推奨されるべきだが、そんなに眠っているとパーティーが終わってしまうぞ」


「ぱーてぃー……ハッ! そうだ、パーティーだ!」


 バッと顔を上げたのは、魔人の童女。

 ではなく、魔人の女性だ。


 青い髪に青い瞳。青い服の上にダボッとした白衣を羽織っている。

 世界屈指の魔道技師で、『七人組』の一人で、本人も凄まじい魔力を持っている――『稀代の魔道技師』モナナである。


 彼女の目の下に深いクマが刻まれている。


「わわっ、レインくんっ!? 夢!?」


「夢ではないぞ、モナナ嬢」


「えっ、ライオさん!?」


「まだ寝ぼけているようだな」


 ここ数日モナナが研究室に籠もりっきりだと聞いたライオは、パーティー当日ということもあり彼女の様子を見に行くことに。

 するとモナナは何かしらの魔道具を完成させたはいいものの、力尽きて眠っていた。

 ライオは彼女をなんとか起こし、最低限の準備を急がせた。


 その後再び眠ってしまった彼女を、ライオは会場まで運んだのだという。


「ライオさん……! ありがとうっ!」


「昔から、お主は集中すると寝食を忘れるクセがあるからな」


「モナナ、大丈夫か? ごめんな、そんな忙しいとは思わなくて」


『…………』


 床に下ろされたモナナが、手をぶんぶんと横に振る。というか長い袖の所為で手は見えなかった。余った袖だけがぷらぷらと揺れている。


「そんな……! 誘ってもらえて嬉しかったよ! で、できればちゃんとした顔で来たかったど……あはは」


 モナナは袖で目許を隠そうとしながら、苦笑している。

 それから、俺――ではなく、ミカに近づいて囁く。


「聖剣さま、例の魔道具、完成したよ」


『……! 本当!? 間に合ったの!?』


 ミカの声が跳ねる。


「う、うん。折角のパーティーだもんね」


『モナナ……! あなた最高だわ! この際、何かしらミスがあっても許すわ!』


「さすがに二度も同じ失敗はしないよ……違う不具合は出るかもしれないけど」


 後半はすごい小声だった。

 興奮した様子のミカには聞こえなかったようだ。


 モナナが取り出したのは腕輪だった。

 それを、聖剣の柄に通す。


『――変ッッ身!!』


 ミカが叫ぶと、彼女が光に包まれた。

 そして、純白のワンピースを纏った、金髪碧眼の可憐な美少女が出現する。


 長い髪は彼女から見て右側の高い位置で結われていた。

 前回との違いは、右手首に先程の腕輪が嵌っていることくらいか。


「美少女聖剣ミカ様、再誕よ……!!」


 彼女が高らかに宣言し、モナナが「おー……!」と拍手している。

 ……聖剣疑似化装置、だったか。本当に小型化に成功したとは。


 前にフェリスから聞いた話通りなら、俺の呼び声に応じて聖剣に戻る機能も追加されていることになる。


「……すごいじゃないモナナ! 大変だったでしょうに、間に合わせてくれてありがとう!」


 ミカはモナナに抱きつき、彼女の頭をよしよしと撫でていた。


「えへへ……約束したからね。喜んでもらえたなら、よかった」


「ふふふ! もふもふ白狐が美少女化して来て焦ったけど、これであたしの勝ちは揺らがないわ!」


 どんな勝負をするつもりなのだろう。


「レイン! 相棒の大恩人に感謝を!」


「あ、あぁ。モナナ、本当にありがとう」


「い、いいんだ……! ほ、本当に」


 彼女は頬を染めて照れている。


「そうだ。マリーほどじゃないけど、俺も治癒魔法は得意なんだ」


 俺は両手をモナナの顔に添える。


「……っ!? れ、れいんくんっ!? い、今の顔はあまり見られたくないというか女の子的にまずいというか……!?」


 そして親指で、目許のクマを優しくこすりながら、治癒魔法を発動。


「……あっ。んっ、あ、温かい……? それに、身体の疲れもとれてるような……」


「折角のパーティーだもんな、モナナも万全の状態でいないと」


 俺が微笑みかけると、モナナが急に胸を押さえだした。


「んぎゅうっ……!」


「モナナ……!? だ、大丈夫か? 胸が痛いのか?」


 更なる治癒魔法が必要か!? と慌てる俺に、モナナが首を横に振る。


「大丈夫、大丈夫、ほんと平気なので。ただ、パーティー開始までどこかで休ませてもらったりとか出来るかな……記憶が薄れない内に無限に反芻しないと……」


 後半は掠れるくらいの小声で、よく聞き取れなかった。

 俺はフローレンスに頼んで、モナナにベッドのある部屋を貸してもらうことに。


 そんなモナナに、他の『七人組』が悔しそうな、羨ましそうな視線を向けていた。

 『七人組』と言えば、まだ一人来ていない。


「警備隊長」


 マッジの近くに、黒服を着た牛の獣人が駆け寄り、何ごとか囁く。

 話を聞き終えたマッジは小さく頷く。


「よくやった。ここまで連行してきていい」


「……よろしいので?」


「ん」


「ハッ、ただちに!」


 用心棒たちはフローレンスが雇い、それをマッジが統率しているとのことだったが、完全に警備隊長として尊敬されている。

 短期間に部隊を掌握するとは、マッジもさすがは四天王といったところか。


「マッジ、何かあったのか?」


「問題ない。警備は正しく機能している」


 やがて、玄関扉が開かれ、警備に両脇を抱えられた一人の女性が入ってくる。


「離しなさいっ! あたしを誰だと思ってるわけ!? 勇者レイン直々に招待した客人なのだけど!?」


 赤紫の波打つ髪、ツリ目がちな瞳、褐色の肌、それを主張するかのような布面積の衣装。

 恐ろしいまでの情報収集能力を持ち、その網は王都のみながらず人類領にまで及ぶ。


 魔王軍筆頭情報官で、『七人組』の一人で、『風』属性を得意とする魔法使いでもある――『天網のヴィヴィ』。


 が、引きずられている。




本日分の更新でした。

書籍版発売まであと5日……!!!

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