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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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84◇お出迎え

本日複数更新。

こちら1話め。

 



 その日、俺は主催側として、みんなよりも一足早く会場に到着。


 とはいってもやることはないので、忙しなく働く料理人や給仕たちの邪魔にならぬよう、招待客たちを待っていた。

 玄関で、フローレンスと二人、みなを出迎えるのだという。


 彼女は今日も華美なドレス姿。

 きらきらと輝く金の長髪は二つに結ばれ、それぞれが螺旋を描くように伸びている。


 この街の悪党を一掃し、賭場を一手に取り仕切る彼女は、市民から絶大な支持を得ている。

 王都一の大金持ちで、大商人。『七人組』の一人で、『光熱属性』を得意とする魔法使いでもある――『完全無欠のフローレンス』。


『……しまった。パーティーという言葉に気を取られて、フローレンスの策略に気づかなかったわ』


 と、ミカが何やら呟いている。


 フローレンスの方を見ると、ニコニコ顔だ。しかしよく見てみると、たまーに『にへらっ』という具合に、表情が緩んでいる。

 それを隠すように、また満面の笑みを浮かべる。


 みんなとのパーティーがそんなに楽しみなのだろうか。

 フローレンスは素直じゃないだけで、『七人組』を大切な友人だと思っている。

 全員集合して『愛の日』を迎えられることは、彼女にとって喜ばしいことなのかもしれない。


『騙されちゃダメよレイン……ここはフローレンスのフィールド。自分の用意した家で、レインがパーティーを主催。そして実質的な開催者として、レインを支える自分。並んで招待客を出迎える姿はまさに「夫婦」! フローレンスの狙いは、最初からこれだったのよ!』


「考えすぎだろ。フローレンスはみんなが楽しめるように、色々準備してくれたのに」


「その通りですわ。さすがはレイン様」


『ちょっ! さりげなくレインの腕に手を絡ませるな!』


 確かにフローレンスが俺の腕を絡め取るように、両腕で触れてきていた。


 密着するような距離感なので、彼女の豊満な胸がむにゅうっと形を変えながら、俺の腕にその柔らかさを主張する。

 彼女の体温と、香水のような匂いに包まれる。


「――そんなことだろうと思っていました! そこに直りなさい、フローレンス!」


 突如目の前に出現したのは、白銀の長髪を靡かせる魔人の美女。


 魔王軍四天王の一人にして、俺をヒモに誘ってくれた張本人。『七人組』の一人で、希少な『空間属性』を得意とする魔法剣士でもある――『白銀の跳躍者エレノア』だった。


 彼女は玄関からではなく、『空間転移』で直接飛んできたようだ。


「『本日はお招きくださり感謝いたします』という挨拶と『人様の家を訪ねる時は玄関から』という基本を忘れておいでのようね?」


 フローレンスはエレノアの出現にも余裕を崩さない。

 エレノアはこめかみをひくつかせつつも、俺に一礼。


「レインさま、本日はお招き感謝します」


「うん。仕事とか大丈夫だったか?」


「悪しき魔族共もさすがに我々の行動に感づいたようで……。本来好戦的な輩が珍しくも本気で潜伏しているとのことで、情報官たちも苦労しているようです。我々に出来るのはいつでも出撃できるよう心構えを済ませておくくらいですね」


「そっか。じゃあ取り敢えず、今日はパーティーを楽しめそう、かな」


「はい……! レインさまが私と過ごしたいと思ってくださったのですから、今日この日、エレノアはレインさまと共におりますとも!」


 エレノアが両拳を握りながら、元気よく応える。


『誘われたのはあんただけじゃないけどね』


「最初に誘われたのはわたくしですし」


「フローレンス、自分だけみたいに言うのは誤解を招く。私も最初に誘われた時にいた」


 気づけばマッジが横にいた。


 呑み込まれそうなほど夜闇を思わせる、漆黒の髪。肌にぴちっと張り付くような衣装。

 単身魔界に潜入し、悪しき魔族を狩りながら情報収集に努めた魔王軍きっての暗殺者。

 魔王軍四天王にして、類まれなるナイフ捌きを誇る彼女も、『七人組』の一人。


 魔法の才能はある筈だが、俺はまだ彼女の魔法を見たことがない。

 彼女はこう呼ばれている――『静かなる暗殺者マッジ』と。


「あらマッジ、貴女は警備責任者を任せた筈だけれど?」


「警備上の穴は全て埋めた。フローレンスの雇った用心棒がミスをしなければ、蟻一匹侵入できない」


「腕の確かな者を集めましたわ、安心なさいな」


「安心は慢心。私は何が起こってもレイン様を守れるよう、力を尽くすだけ」


「ありがとう、マッジ。気持ちは嬉しいけど、今日は親しい人たちが集まるパーティーなんだろう? ならマッジにも楽しんでほしい」


「…………了解。それなら、やはりレイン様の側にいたい。それが一番、心地良い」


 フローレンスの真似をしてか、マッジも腕を絡ませてきた。

 ホットミルクに蜜を垂らしたような、甘い香りが鼻腔を擽る。

 マッジとフローレンスに挟まれているからか、体温が上がっている気がする。


「ま、マッジ……再会は最後ながら、ここまでグンッと距離を詰めるとは……。同じ四天王として、負けられません……!」


 エレノアが意を決したように、じりじりと近づいてくる。


「え、エレノア?」


「レインさまは二人に絡みつかれても嫌がっていないようです。もしかして、私だけはお断りなのでしょうか……?」


 エレノアが瞳を潤ませる。


「いや、そんなことはないけど」


「ありがとうございます! それでは、失礼しまして」


「ちょっとエレノア! それはずるいのではなくて!?」


 エレノアは正面から俺の首に手を回した。


「むぐっ」


 最近よくあること……になっているのが我ながら恐ろしい。


 エレノアに限らず、抱きすくめられて谷間に頭が埋まる……というのがヒモになってから頻発していた。


 一呼吸で肺を満たす、エレノアの匂い。まるで花畑に転移したかのようだった。

 花畑はこんなに柔らかくも温かくも、ついでに息苦しくもないだろうけど。


「……いくらエレノアでも、レイン様を窒息させるつもりなら許さない」


「ふっ……まさか」


 瞬間、エレノアから魔力が迸る。

 同時に、両腕に絡みついていた感触が消える。


「あっ!」


 フローレンスの声が遠い。

 エレノアの谷間からなんとか抜け出すと、やはり転移していた。


 ただし変わらず邸宅の中だ。


 玄関から入ると正面にホールがあり、その両脇に階段がある。

 それらは上階の廊下と繋がっていて、階下を見下ろせるようになっていた。

 エレノアは二人を見下ろせる位置に転移したのだった。


「さて、レインさま。この家を案内してくださいますか?」


「エ~レ~ノ~ア~ッ!」


 フローレンスが「ぐぎぎ……」と呻きながら扇を軋ませた。


「レイン様の妻を気取るなど許せるものですか!」


『そこは賛成ね』


 ――ん?


 マッジはどこだ?

 騒いでいるのはフローレンスだけで、マッジの姿はない。


 次の瞬間、剣戟の音が鳴り響く。


「私はレイン様の隣にいる許可を得ている、引き離すことは許さない」


 マッジが抜き放ったナイフを、エレノアが剣で防いでいた。

 今、彼女は俺の影(、、、)から飛び出てきた。


 ――『影魔法』か。


 その名の通り、影に干渉する魔法である。

 使い手が非常に限られる魔法だ。


 人やものの影に潜んだり、影を物質化したり、相手の影と肉体を同期させることで影への攻撃が本体に通るようにしたり。

 影魔法自体は一つの属性ではなく、無数の属性を組み合わせて『影魔法』を成立させている。


 ルートの使う『結界術』も同じだ。

 マッジもさすがは四天王といったところか。


 と、感心している場合ではない。


「なぁ、マッジ」


「わかってる。これは冗談(、、)じゃないから大丈夫」


 先日、冗談で武器を抜くのはよろしくない、と話したことは覚えているようだ。


「……本気ですか、マッジ。レインさまを巡って、私と争うと?」


「エレノアにレイン様を独り占めはさせない。何をするにも、私はレイン様の隣に立つ」


 しばらく二人のにらみ合いが続く。

 その間に、フローレンスはドレスの裾を掴みながら、階段を急いで登っていた。

 胸が豪快にばいんっばいんっと揺れていて、目に毒だ。


「貴女と戦って自分が負けるとは思いませんが、仮にもここはレインさまのお家。破壊するのは避けたいところです」


「同意見。もちろん、戦ったら勝つのは私だけど」


「ここは停戦と行きましょう。いえ私の方がマッジより強いのですけれど」


「停戦を受け入れる。本気を出したらエレノアが死んで『六乙女』になってしまうから」


「ふっ。では二人で、レインさまにお家を案内していただく、ということで」


「問題ない」


「はぁ、はぁ……やっと追いつきましたわ!」


 フローレンスが二階に到達したところで、エレノアが俺とマッジに触れ、別の部屋に転移した。


「あ~~~~もう……ッ!」


 という叫びが、家中に響き渡る。




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