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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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81◇魔弾再会

本日複数更新です。

こちら1話め。

 


 【賢者】アルケミと、『幻惑の魔女メイジ』の戦いのあと。


「勇者様からの『ご褒美』ですけれど、賢者様は何をお願いなさるんですか?」


「……検討する」


「まぁ! 一つに絞れないくらい沢山あるのですね~? 大変お可愛い勇者様ですから、色々とお願いしたくなるのは分かりますけれどぉ」


「不愉快」


「そう仰らず~」


 メイジはアルケミに抱きつこうとするが、杖で胸を押さえられていた。


「あんっ。もう、賢者様ったら。まだ昼時だというのに、大胆なのですから」


「不愉快極まる」


 大体の人間はアルケミの無機質な対応に尻込みするものなのだが、メイジは違うようだ。

 それだけに、アルケミもどう対応していいか分かっていないようだった。


 最終的に、アルケミはメイジを『空間転移』でどこかに飛ばしていた。


「王都の端に飛ばした」


 まぁ、それならばなんとか徒歩で帰ってこられるだろう。


「レイン」


「ん?」


「自分は、お前が消えたからといって特に生活に変化はなかった。これまで通り、英雄の責務を果たすだけ。今回の件も、あくまでその延長だ」


『どうかしらねー』


「だが、知っての通り【聖女】マリーは毎夜枕を濡らしながら意味不明な寝言を繰り返していた」


「あぁ、それは俺も知っている」


 ヴィヴィからも報告を受けたし、再会した時にマリーも寂しかったと言っていた。


「そして、【魔弾】シュツも、表面上は平静を装いながらレインの所在を探すべく奔走していた」


「……あぁ、それも知ってるよ」


 敵性魔族を捕らえては、俺の居場所の手がかりを探していたのだという。


「【軍神】グラディウスから全て想定内だと聞かされた時、シュツは不満げだった。……同じ六英雄として、やつが意気消沈したままというのは好ましくない。故に……つまり……だから……シュツに……」


『シュツに逢いに行ってあげろってこと? 仲間思いなのね』


「……不愉快だ、聖剣」


『素直になれないあんたの通訳してあげてるんじゃない。感謝してほしいくらいよ』


「……」


「話は分かった。俺も、ちゃんと自分の口で説明すべきだよな。それで、今シュツは――」


「やつの居場所ならば見当がつく。『七人組』とやらにバレない内に、急ぎ行って帰ってくるといい」


「いや、今からか?」


 アルケミが俺にちょこんと触れた瞬間、景色が切り替わる。


『こういうとこやっぱ六英雄よねッ……!』


 自分の都合を自分の能力で押し通すのは、確かに六英雄らしい行動だ。

 マリーも、魔族領を単身爆走して俺を探しに来たしな……。


 それよりも。

 森である。


 土も緑も正常ということは、瘴気に侵されていない人類の領域。

 風の通り過ぎる音、木々の葉擦れ、小動物の動きや鳥の囁き、それらに混じって微かに聞こえるのは、川のせせらぎか。


 いや、それだけではない。

 ぴちょんっ、と、水滴が水面を叩くような音が聞こえてきた。


「……まさかシュツ、水浴び中か?」


『……かもね。これもあの賢者の狙いなんでしょう』


「狙いって……」


 ミカとの話はそこまで。


 俺は聖剣を抜き放ち、振り返りざまに一閃。

 金属同士がぶつかり合うことで森に甲高い音が響き渡る。


 その音に鳥が驚いて飛び立つまでの一瞬に、相手が更に五回切りつけてくる。

 威力それ自体は軽いが、一撃一撃が異様に鋭い。


 相手を傷つけぬよう、全て捌く。

 反撃は可能だが、するわけにはいかない。


「シュツ! 俺だ! レインだ!」


 だって、仲間なのだ。


『そうよ! ていうか普通に出てきなさいよ!  再会即暗殺攻撃ってあんた正気!?』


「……聖剣様。じゃあ、本物……?」


 俺が水滴の音を聞きつけてすぐ気配を消し、音もなく背後に忍び寄り、剣鉈で斬りかかってた。

 獲物を狩ることにかけては超一流。シュツは元々、狩人だったのである。


『どれだけ疑り深いのよ……』


 俺を【勇者】に化けた敵だとでも思っていたようだ。

 【魔弾】シュツが剣鉈を放り、俺に近づいてくる。


 俺もミカを鞘に収めた。


『ちょ、ちょっとあんた服!』


 ミカが慌てたような声を上げる。


 シュツは服を着ていなかった。

 水浴びの最中に敵の気配がしたら、そんなもの着ている暇はない。

 だからその行動は英雄として、戦いに身を置く者としておかしくはない。


 シュツの新緑のような髪は肩口まであり、同色の瞳は翡翠のように美しい。

 顔の造形は美女とも美男ともとれる中性的なもの。


 華奢なのは種族柄で、他にも耳が尖っているという特徴がある。

 耳はエレノアたちも長いが、シュツは魔人というわけではない。


 そういえばシュツとアルケミは、十年前から姿が変わっていない。


「本当に君なのかい?」


 ぺたぺたと、湿った手で俺の顔の形を確かめるシュツ。

 シュツの長いまつげの一本一本が見分けられる距離。


 漂うのは清浄な森みたいな、澄んだ匂い。シュツの匂いだ。

 俺はシュツの首から下に視線が移った瞬間、思考が停止した。


 シュツは普段、緑色の外套を装備して身体を、フードを被って耳を隠していた。

 一緒に風呂に入ったことはないし、そもそもシュツが服を脱ぐシーンに遭遇したこともない。

 だからずっと、俺にとってシュツは性別不詳で。


 なのに、今。

 胸が……。

 大きな胸が……。

 シュツについていて……。


 白く、瑞々しく、丸みを帯びていて、先端が――。

 いやいや、と思考を中断する。

 そんな注視してはいけないものだ。


 頭が混乱する中、なんとか冷静になろうと努める。

 答えは一つなのに、やはり驚きを隠せない。


 シュツは――。


「女だったのか……!?」


 ここ最近で一番大きな声が出た。


「レイン?」


『あ、そっか。レインは気づいてなかったのね』


 俺の存在を確かめるように顔を触っていたシュツが、首を傾げる。


「おんな……? おんな、女……。どうして今そんなこと…………………………あ」


 彼女はゆっくりと、視線を俺から、自分の身体に落とす。


「あ、あ、あ、あぁっ!?」


 あ、に合わせるように顔の赤みが増していき。


「きゃあっ!」


 彼女は自分の胸を押さえて、屈み込んでしまう。

 きゃ、きゃあ? あの【魔弾】からそんな声が出るなんて、脳が受け付けない。


『レイン!』


「あ、あぁ」


 ミカに声を掛けられ、俺は咄嗟にシュツに背を向ける。

 そうだ。ジロジロ見られたら、彼女も恥ずかしいだろう。


「悪い、シュツ」


「うぐぅ……い、いや。きみは悪くない。裸で行動したのはぼくの判断だ。本物のレインだと分かった瞬間、そのことを忘れてしまった。我ながら抜けているな……あは、あはは……」


「いや、敵かと思ったなら服着てる暇なんてないだろうし……」


「見られてしまった……レインに……」


 シュツはぼそぼそ言いながら蹲っている。

 気まずい時間が流れた。




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