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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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76◇賢者と身体変化

 



 遊びに戻るよう促すと、子供達が遊具の方へ歩いていく。

 ちらちらとこちらを気にしているが、話の邪魔はしたくないのだろう。


「随分と懐かれたものだな」


「ん? そうだなぁ……まぁ、仲良くやってるよ」


「子供の遊びに興じることで、健全な少年時代を取り戻せるとでも?」


「挑戦してみたっていいだろ? 実際やってみると、結構難しいんだぞ?」


「そうか。そう、か……」


 アルケミが黙る。


「それより、話が中断されたとか言ってたけど、何か用だったのか?」


「顔を見たかっただけ、と自分が言えば信じるか?」


『有り得ないわね』


「まぁ、お前らしくないな、とは思うかもな」


 フッ、と声がした。

 それが目の前の人間から放たれたのは明らかなのに、俺は一瞬信じることができなかった。


「お前、今――」


 笑ったのか? あの万年無表情のアルケミが?


「なんだ」


 アルケミは元の無表情に戻っていた。


「いや、なんでもない……」


「そうか。用件は魔王軍への報告と、情報の確認だ」


「あぁ……」


 俺が滞在している魔族の国『ジャースティ王国』と、人類領の幾つかの国は手を取り合うことになった。

 この二つを繋ぐのは『六英雄』だ。


 とはいえ人類領で大々的に宣伝しているわけではなく、秘密の協力体制だ。

 その方が協力をとりつけやすいと【軍神】が判断したのだ。


 ならば、それは正しい。 

 実際、成功しているわけだし。


 魔界の大気に満ちる瘴気。

 魔界とこの世界を繋げる魔力のひずみ『裂け目』。

 『裂け目』からは魔族がやってくるだけではなく、瘴気も流れ込んでくる。


 瘴気に侵された土地は人間の住めない場所になる。

 人類は世界全てが瘴気に満たされて滅亡してしまう、なんて最悪の結末を回避するために戦っているわけだ。


 この瘴気というのは、魔族を異形化させる他、凶暴化させる効果もあるという。

 だから俺達が『悪しき魔族』と呼ぶ輩はみな戦闘狂。


 逆にジャースティ国で暮らしているような理性ある魔族は、瘴気を弾く結界を展開し、その中で暮らすことで正気を保っている。


「この国の情報官は優秀だ。情報精度が高い。おかげで魔族狩りは順調だ」


「そうか」


 瘴気には、利用できる点もある。

 瘴気の満ちた空間内で殺し合いが行われると、敗者の魂を勝者が取り込むことができるのだ。


 倒した敵の『強さ』を奪えるのである。

 だからこそ、魔界では日々殺し合いが行われているのかもしれない。


 六英雄の内【勇者】の俺と【聖女】のマリーと【賢者】のアルケミだけは、魔力で自分を守ることで瘴気内での戦闘が可能。


 つまり、俺達は悪しき魔族同様に、敵を倒すことで己を強化することができるのだ。

 実際、俺は人類領を離脱する前よりも、今の方がよっぽど強い。


 以前ですら、人類最強と言われていたのに、だ。


「レインがどれほど強化されたか確認しに来てみれば……瞭然。見違えたな」


『その割には、随分なご挨拶だったじゃない?』


「かつてのレインであったら、椅子に腰掛けた状態でここまで気を抜くことはなかった。平和な生活で勘が鈍ってはいないかと疑問視するのは妥当に思えるが?」


 そういえば、世界の危機に何を呆けている、とか声を掛けられたのだった。


「お前も知ってるだろうけど、どんどんやることがなくなってるんだよ。自由時間に何をしても、それは自由だろ?」


 悪しき魔族は最上位の強さを誇る『神』クラスの召喚を目論んでいる。

 そのためには桁違いに大量の魔力が必要。


 魔族は圧倒的な上位者には従う性質があり、自分の命を捧げることさえ珍しくない。

 高位の魔族が自身を生贄に捧げるのを防ぐべく、俺達は奴らと戦っていた。


 先程アルケミが口にした『魔族狩り』がそれだ。

 俺達の討伐速度が、情報官や【軍神】の情報収集速度を上回っているため、待機時間が生じるのだ。


「一理ある。であれば、自分が自由時間に何をしようと、それも自由だ」


 アルケミはそう言って、俺の隣に腰掛けた。


 その拍子に、彼女の胸がぶるんっと揺れる。

 身長の関係で地面に届かなかった両足が、ぷらんっと揺れた。


「……息災か」


「ん? あ、あぁ。元気だったよ。そっちは?」


 アルケミが世間話とは、これまた珍しい。


「体調面は問題ない」


「そっか。それはよかった」


『体調面「は」って気になる言い方ね。なに? レインがいなくなって寂しかったとか、あの暴走【聖女】みたいなこと言い出さないでしょうね?』


「レイン、聖剣を黙らせることが出来た筈だな?」


「こいつ、それ嫌みたいでさ。ミカも、アルケミと少し話させてくれ」


『…………いいケド』


 渋々、といった感じではあるものの、ミカが大人しくなる。


「お前が消えて苦労した」


「あー……」


 突然六英雄の一人がいなくなったのだ。

 大騒ぎになってもおかしくない。


「グラディウスが手を打ったからか、気づいている者は少ないが」


「へぇ……でも、そういうものか。俺達元々、世界中を巡ってたもんな」


 一般人が知るのは、六英雄が来てくれて魔族をやっつけてくれた、という情報くらい。

 それに、今の英雄たちは個別に動くこともある。


 【剣聖】が現れて魔物を倒してくれた。よかったよかった。終わり。

 そこで『残りの五人は今どこで何を?』なんてことに、誰も興味は示さない。


 示しても、知る術はない。

 世界中で活動する六人の英雄がいて、その一人がある日いなくなったとしても。

 その情報を世界が共有するにはとても時間がかかる。


 誰かが得た情報を、一瞬で世界に共有する方法なんて、この世界にはないのだ。

 とはいえ、長期にわたって誰も【勇者】の活躍を見ていない、となれば違和感を持たれるだろう。


「ところで」


 アルケミが、横目で俺を見た。


「なんだ?」


「どうだ?」


「何が?」


「童女キャロも言及していただろう、この胸部だ」


 言われて、俺の視線が彼女の胸に落ちる。


「どうって……まぁ、驚いてるけど」


「『身体変化』の魔法で小さくしていたのだ」


「えっ、そうなのか?」


「このような短躯に、巨大な胸では目を引く」


 『身体変化』の魔法自体は、珍しくはない。

 身体の一部や全身を巨大化させる魔族などもいるくらいだ。


 しかし、常時自分の肉体の一部を変化させる、となると難易度は跳ね上がる。

 巨大化する魔族だって、あれは戦闘時やピンチの時に限って使用するのだ。


 人目がある時は常に胸を小さくしていたというのなら、その魔力操作能力には驚嘆に値する。

 彼女はそれを俺やマリーといった魔法を使える仲間にバレないよう行っていただけでなく、それを維持しながら英雄としての責務も果たしていたのだから。


「えぇと、目を引くのが嫌だったから隠してたのか?」


「奇異の視線には慣れているが、そこに下卑た視線まで加わるのは不愉快極まる。加えて足許の視界不良や肩こりまで引き起こすとなれば、無用の長物としか言いようがない」


『……ねぇ、そんな身体変化が上手なら人間の大人の姿になればいいんじゃないの? そうしたら奇異の視線も消えるでしょう』


「まるで人間だな、聖剣」


『……なによ』


「それは、人間の理屈だ。剣が喋るのはおかしいぞ? だが貴様は喋っている。何故か。意思があり、心があり、それらが感情の発露を望んでいるからだ。つまり、『おかしくとも、話したいから、話している』わけだ。違うか?」


『だったら何よ』


「『誰にどのように見られようとも、己の背丈を恥とは思わないから、身長は伸ばさない』のだ。理解できないか?」


『――――ッ。……いえ、よく理解できたわ。そして謝罪する。不躾なことを言ったわね、ごめんなさい』


「謝罪を受け入れよう」


 巨大な胸は『自分』が面倒だからと小さくできるが、背丈が小さいことを『他人』が気にするからといって変えることはない。

 きっと、そういう違いだろう。


「今の話は分かったけど、それならなんで胸を元のサイズに戻したんだ?」


 俺が尋ねると、アルケミが黙った。


 無表情、無言で、俺を見上げる。

 しばらくして、言う。


「分からないか?」




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― 新着の感想 ―
[良い点] でかくしたのではなく、小さくしていたのを戻しただと!? 巨人の持つミニ化能力を常に胸だけに発動させていたとは。 ロリ巨乳は最高だと思います。
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