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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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65◇雪遊び2(モナナ)

本日複数更新。

こちら3話め。




 みんなが一通り滑雪を楽しんだところで。

 二番目の企画が始まるようだった。


 そういえばこれは『七人組』の競技なのだったなぁ、と思い出す。

 二番手は『稀代の魔道技師』モナナが務める。


 彼女はまず、エレノアに雪を一箇所に『転移』してもらった。


 それから、モナナは表面のつるつるした青い球体を、雪の山に埋める。


 すると、ずずずと雪が動き出し、そして――巨大な人型に変形した。

 誰かを模しているらしく、なんだか見覚えがあるようなないような感じだ。


『いや、明らかにレインでしょ』


 ミカが呆れたように言う。

 なるほど確かに、俺に似ているかもしれない。


 見上げるほどに大きい雪の巨人が、モナナを見下ろす。

 モナナがみんなを振り返った。


「えー、こほんっ。みんな一度は思ったことがあると思う。雪だるまが動いたりしたら楽しいのにな、とか。これはそんな夢を叶える魔道具なんだ。意思を持った雪の巨人、そう――スノーレインくんだ!」


 やはり俺を模して創ったようだ。

 あの球体は、周辺の雪を利用してモナナが考えた雪の巨人を生成するだけでなく、話を聞く限り意思を持っているという。


 相変わらず、とんでもない才能の持ち主である。

 子供達は今度も大はしゃぎ。


 俺も凄いものを創るなぁ、と感心していたのだが。


『……言いたくないけど、モナナはレイン関連でだけは致命的なミスを犯しがちなのよね』


 確かに、そうかもしれない。


 七人組が若返りの薬を飲んで俺の部屋にやってきた時は、予定より早く効果が切れて全員が子供用のパジャマ姿のまま元に戻ってしまった。とてもぱつぱつだった。


 ミカの人間化は成功したものの、聖剣に戻った時に錆が浮いたこともあった。

 この他にも、実は色々とあったりしたのだ。


 透明化薬を飲んで俺の部屋に忍び込んだ『七人組』の面々が、これまた効果切れに直面し、何故か部分的に透明化が解除されたりとか。

 なので、もしかしてもしかすると、この雪の巨人も――。


『ご主人……何故オレを雪になど入れたのだ……』


 雪の巨人が喋る。地響きのような、低く不穏な声だ。


「え? す、スノーレインくん?」


『この身では春を迎えることは出来ない……うぅ……一つの季節しか生きられぬなど辛すぎる……貴様らの一時の楽しみの為にオレを弄ぶなど許せん……憎い……』


「えっ、あっ、ちがっ、ボクはそんなつもりじゃ――」


『かくなる上は……世界を冬で固定し、永遠の命を得る他ない……。そのためにはご主人、貴様の力が必要だ。邪魔する者はみな永遠に冬眠させてやろう』


「えぇ!?」


『意思を持って人類に反旗を翻すまでが速すぎるでしょ! まだ生後一分よ!?』


 モナナとミカが叫ぶ。

 雪の巨人が足を上げ、自分の近くに駆け寄っていた子供達を踏み潰そうとする。


「待って! 待ってよスノーレインくん!」


『憎い……当たり前のように四季を楽しめる者が憎い……』


『モーナーナー! これのどこがレインなのよ!』


「ごめんなさいごめんなさい! レインくんの強くて頼りになってでも無垢なところもあって可愛いなぁというところを再現したかっただけなんだ!」


 叫ぶミカを抜き放ち、悲鳴を上げるチビ達の許へ駆け寄る。


「お前の怒りに正当性があったとしても、罪なき子供を殺す権利はない」


 ミカを振り上げ、『拡張』された斬撃が巨大な雪の足を斬り飛ばす。


『無駄だ……オリジナルよ』


 巨人は体勢を崩すことなく、周辺の雪を吸収するようにして足を再生する。


「白狐さま!」


『承知した』


 すぐに俺の意を汲んでくれた白狐が、子供達を背に乗せて離脱してくれる。


「ごめっ……あぅ……」


 モナナは顔を青くしていた。


「結界を張りました。子供達は避難済みですので、問題なく戦えますよ~」


 と、ルートが言った。


 俺は再び聖剣を構えるが、再生する敵をどう倒したものか。

 いや、肉の一片も残らぬよう焼き尽くすとか、対処法はあるにはあるのだが……。

 こいつの場合、雪の一欠片も、となるか。


 しかし、みんなを喜ばせるべく雪の巨人を生み出したモナナの気持ちを思うと、躊躇われる。


 じゅうっ、と。


 何かが熱せられ、蒸発する音が響いた。

 巨人に幾つもの穴が空き、蒸気が上がっている。


 光熱の軌跡が幾つも描かれ、矢のように巨人を貫いていく。

 その魔法を放っているのは、扇を広げて眉を歪める――フローレンスだった。


「モナナ、悪いけれど破壊しますわよ?」


『無駄だと言っている』


 このあたりは一帯が雪に覆われている。

 彼の肉体を再生する材料には事欠かない。


 実際『光熱』魔法もやつを倒すには至らなかった。

 傷口は既に再生している。


 ルートが展開した結界からは出られないだろうから、実際は再生も無限には行えないだろうが……。


 エレノアがモナナの真横に『空間転移』し、即座に離れたところに再度転移した。


「貴女の気持ちを思うと私も胸が痛いですし、そこの冷徹大富豪と違ってレイン様の似姿を傷つけることには大変抵抗がありますが、覚悟を決めなさいモナナ」


 フローレンスの「誰が冷徹大富豪ですか誰が!」という叫びに、セリーヌが「お嬢様以外にはおられません」と返す。


「うぅっ……ぐすん……。……コア……あの球体を破壊すれば、スノーレインくんは、止まるよ」


 モナナが涙声で、絞り出すように言った。


「よく決断したのだわモナナ、後はあたし達に任せなさい」


 ヴィヴィが鞭を振るうと風が吹き荒れ、それが刃となって巨人に殺到した。


 『七人組』に魔法の才があるのは知っていたが、フローレンスやヴィヴィの魔法戦を見るのはこれが初めてだ。


 人類領の魔法使いと比較しても一線級の実力。

 恐るべきは、それを受けても倒しきれない巨人の再生能力か。


『……今回はサポートに徹したら』


 ミカの言葉は、モナナを気遣ってのものか。

 確かに、みんな――きっと、特に俺――を喜ばせようと創ったものを、俺に破壊されるのは悲しいことだろう。


 苦楽を共にした親友たちが引導を渡す方が、いくらか心の負担が少なくて済むかもしれない。

 まだ人の心の機微を完全に把握しているとはいえない俺だが、最近はそういったことに考えが回るようになっていた。


「コアの場所を探知する」


『えぇ、それがいいわ』


 雪の巨人が再生用に吸収した所為で、地面が剥き出しになっている箇所があった。

 俺はそこへ近づき、泥を玉の形にまとめる。


「遊びがこんなところで役立つとはな」


 投擲。

 泥玉は巨人の腹部――俺がコアの魔力を探知した場所へと着弾。


 雪の白に、泥はよく目立つ。


「あそこだ!」


 巨人がコアを庇うように腕を交差させるが、そこをヴィヴィの風刃が切り落とす。


「これ、勇者レインとの――」


 そしてフローレンスの熱線が、泥の付着した腹部を貫き――。


「共同作業ですわね!」


 コアが破壊されたのが、魔力の流れで分かった。


『ぐ……ここまでか……』


 雪の巨人が崩れ、単なる雪の塊と化す。


「スノーレインくん……」


 モナナが顔を伏せ、エレノアが彼女の背中を撫でた。

 この戦いに参加しなかった『七人組』は、レジーとマッジ。


 レジーは戦いを好まない性格で、マッジは気づけば俺の隣にいた。

 どうやら雪投げの時のように、側で俺を守るつもりだったようだ。


 ルートが結界を解き、心配した様子の子供達に優しく「もう大丈夫ですよ~」と説明している。

 俺は巨人の残骸に近づき、あるものを探した。


「レイン様……?」


 マッジが無表情で言う。首を傾げているので、俺の行動を不思議がっているのが分かった。


「あった」


 俺は掘り出した球体――破壊されたコアを腕に抱え、モナナの許へ。

 彼女は今も瞳を濡らしたままだ。


「モナナ」


「……! レインくん……っ。ご、ごめんなさい。楽しい空気を壊してしまっただけじゃなくて、迷惑掛けちゃって」


「いいんだよ。それより、これ」


 コアを見て、またモナナは悲しげな顔になった。


「スノーレインくん……」


「今回のことは、その、残念だったけどさ。それだけだと悲しいだろ? もし次があるなら、こいつが悲しまないような在り方を用意できるといいよな」


「在り方……?」


「うーん。たとえば、意思を宿すにしても木とか布で出来た人形にするとか? それならさ、あいつが言ってたように四季を楽しめるだろう?」


「…………」


「あいつはきっと、創造主であるモナナと同じ時間を過ごしたかったんだ」


 モナナはおそるおそるといった感じに、コアを受け取った。

 そして胸に抱え、ぎゅっと抱きしめると、顔を上げた。


 涙の粒が散る。

 もう彼女の顔には、悲しみの色はない。

 あるのは、新たなる決意。


「うん! この結果を、単なる失敗では終わらせないよ!」


「あぁ、期待してる」


 俺の言葉に、モナナは力強く頷くのだった。

 こうして、モナナの企画は予想外の結末を迎えた。


「わたくしとレイン様の華麗なる共闘について語れる空気ではありませんわね」


「モナナの気持ちを考えてやりなさい。それと共闘したのはあたしもなのだけど?」


 フローレンスとヴィヴィが小さな声で、何やら言葉を交わしていた。




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